第16話

 車中――――。


 「警察官だったのか」

 「刑事な」

 「ああ……」

 「どうやら、お互い色々話すことがありそうだが、それはまた何れ……だな」

 ジョンは相変わらずニコニコしている。

 彼の余裕は、恐らくその人生の紆余曲折からだろう。クレイとしては特にジョンの素性に対して興味は無かったが、お互いフェアに行こうという彼の心意気が、そこに現れていた。

 そうなると、リッキーとの関係だが、彼が妙な人間を引っ張り込む事に関して一流なのは、自分が今ここにいると言うことで、何となく理解出来る特技だ。

 「御前さんの見立てじゃ、あそこの住民がクロなのかい?」

 「まぁ……」

 クレイとしては、このあたりの話は、特に隠す必要は無かったのだ。

 「僕を連れて行けば、もっと上手くいっていたかもしれないぜ?クレイって、あまりしゃべり上手でもなさそうだし」

 これに対しては、クレイも閉口するしか無かった。確かにそれは探偵としてやっていくには、致命的な弱点だ。

 これに対して、ジョンはケラケラと笑うだけだった。

 「まぁおまえさんは、達者だが、大人じゃないと駄目ないことは、殊の外多いってこった」

 助手席のリッキーをからかい気味に、ジョンはまた笑うのであった。

 そして、そんな彼等の車を、一匹のコウモリが飛んでいることに、彼等は気がついていなかった。

 

 宿に戻ると、クレイはマーチンに連絡を入れる。現場には踏み入れたが、可成り怪しいということ。捜索はこちらで続けるため、エイブラムスには近づかないように釘を刺してほしいということ。勿論自虐的に、警察に詰問されたことを交えてのことだ。

 

 夜になる。

 クレイは宿を出るのだ。そこには、普段持ち歩かない大きめのトランクケースが、彼の手荷物としてあった。

 クレイはコレを軽々と持ち上げ引いているが、それはリッキーでは手に負えない大荷物である。

 宿の裏通りから、表の通りへ出ると、クラクションが鳴らされる。

 クレイは不意にそれにたいして振り向くのだ。クレイが振り向くと、二度ほどヘッドライトを点滅させて、振り向いた主に、「オマエだ」と返事している。

 そしてそれは見慣れたタクシーであった。

 「やれやれ……」

 クレイは目深に帽子を被る。

 すると、タクシーはすーっと、クレイの方へと近寄って来るのだ。

 「なんでアンタがここに……」

 クレイが、車の窓を助手席からのぞき込んむのだが、そこにはちゃっかりとリッキーがいた。

 「勘弁してくれないか……」

 クレイは酷い溜息をついた。

 これでは、何のために誰にも言わずに出かけるのか?と、苦労が水の泡になった気分だ。

 いや、実際無駄になってしまったのだが、何故自分が出かけることを悟られたのかが、イマイチ理解出来ずにいたが、それでも徒歩の自分に、車で延々と着いてこられてもかなわない。

 彼等と口論したりするほどの時間は、クレイには無かったのだ。

 クレイは、トランクケースを、車のトランクに積み込み、後部座席へと乗り込むことにする。

 「セントラルセメタリー付近まで、頼む」

 「こんな夜中にかい?」

 「別に行かなくてもいんだが?」

 目的に行けないタクシーには用事などないのだ。

 「わ、解ったよ」

 抑も野次馬的好奇心に駆られてクレイを待ち伏せしていたのは、リッキーとジョンである。

 しかし、まさか行き先がそんな場所だとは思わなかったのだ。

 「アンタ、いったい何を調べてるんだい?」

 ジョンは、訝しげにミラー越しに、こう房席のクレイをのぞき込むのであった。

 「言ったろう。迷い犬さ……」

 「解ったよ」

 首を突っ込むべきでは無かったのかもしれないと、今さらながらに、若干の後悔を交えながら、そう返事を返すのであった。

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