第14話

 翌日、クレイはアップタウンに現れていた。ダウジングが示した一軒家である。

 オープンににされた庭を有する、閑静な一戸建てが並ぶ、美しい住宅地だ。少し先には、洗練されたビジネス街が、摩天楼のように聳え立ち、その喧騒が風に乗り、僅かにこの場所まで届いて居る。

 ブロードタウンより、二区画ほど西側にある、少し裕福さを感じる町並みだ。丁寧に刈り取られている芝生が、庭先の美しい絨毯となっており、主を迎え入れるようにして、石畳が、玄関先までへと、続いている。

 どこもそんな感じであるのだが、その家だけは、少し様子が違っていた。

 日中の明るい陽光に照らされながらも、閑静という以上に、ひっそりとし、しかも異質さを感じるのだ。

 具体的には、庭の芝が荒れており、窓のカーテンは全て閉じられている。

 空き家で無いことは、「セール」の看板が掛かっていないことから、理解出来る。にもかかわらず、そう……家の壁などもくすんで見える。いや、実際にくすんでいるのだろう。

 生活の荒んだ家屋は、自ずと外観も少しずつそれに蝕まれていくのだ。

 手入れがされていない。

 「参ったな……」

 ダウジングが示していることから、間違い無い。クレは確信するのだが、それでもあまりに開け広げすぎる。周囲の家から、この家が見えすぎているのだ。

 マーチンの家のように、我関せずの住人ばかりの場所ではない。

 こう言う場所だ。彼等は隣人の善し悪しなどの調査も含め、住まいを選んでいるはずだ。

 クレイはドアの呼び鈴を鳴らしてみる。

 目的はそう……迷い犬探しだ。写真を見せ、確認するだけだ。それが通常の人間なら問題ないし、仮に遺棄していたとしても、通常の人間ならしらを切るだろうが、尤も子犬を殺して遺棄する人間など、寧ろ常軌を逸しているのだが、それでも罵声を浴びせられ、追い返されるのが、関の山だとクレイは思っているのだが、相手がヴァンパイアであるならば、その場で始末しなければならない。

 だが、この場所はあまりに人目がつきすぎる。当然監視カメラもある。

 しかし、誰も返事をしない。テレビの音もしない。

 通常なら留守だとも言えるが、日中に行動出来ない中級のヴァンパイアが、出かけているとは思えない。

 クレイは考える。

 仮に……だ。ヴァンパイアは犬に嫌われる。現にパピーはヴァンパイアを追いかけたのだろう。だがそれは、追いかけられたのではなく、おびき出されたのだとしたら……と考えたら、このヴァンパイアは、最悪それでも良かったのではないか?と。

 つまり、エイブラムスでも良かったが、畜生の血肉でも最悪、短い期間でも飢えをしのげれば良かったのでは?と。

 つまり、この場所ではペットの行方不明の原因の一つが、警戒したヴァンパイアによる殺害というだけでなく、その捕食対象としても成り立っている可能性があるのだ。

 「やれやれ。都会のネズミじゃあるまいし……」

 クレイは、ぞっとする。

 日中彼等が犬に吠えられないのは、その気配を、極限にまで薄くしているからだ。だとするならば、当然呼び鈴などにも応じるわけではない。

 何がやっかいなのかというと、墓暴きをするのなら、夜がいい。だが、夜は彼等が活発になる時間であり、それには危険が伴う。寧ろ中級のヴァンパイアとなれば夜行性に等しい。

 ミランダのように、日中起きていることの方が珍し。

 恐らく、マーチンの生活リズムも関係しているのであろうし、陰鬱にならずに済んでいるところも、大きな要因であろう。

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