第13話
「昼にしょう。夜に出歩くと警官にも怪しまれる」
クレイは、エイブラムスに催促される前に、捜索時間を彼に伝える。
「解った。じゃぁ手分けして……」
「ああ、いや。俺だけで行こう。依頼主であるアンタは、待っていてくれれば良い。あー……」
クレイは、マーチンを見る。
「ああオーケー。ボクから連絡するよ。オーケー?」
クレイは、エイブラムスと直接連絡を取り合うことを躊躇った。それを察した、マーチンは快く、仲介を受け入れてくれる。抑も、彼が持ってきた話なのだから、ある意味当然なのだが、それでも察しが良い。
エイブラムスも、マーチンをよく知っており、これに対してあまりたいした疑問を持たずに、コクリと頷くのだった。
話が一通り終わると、クレイはバーを後にする。その時にマーチンもバーの入り口まで、クレイを送るために、出てくるのであった。
「ビンゴかい?」
相変わらず、何故か少しウキウキした様子を見せるマーチンだった。それは彼が陽気なためなのか、ヴァンパイアの性質で、少し夜のテンションが高くなっているのかは、解らない。
ただ、目がギラギラしているわけではなく、どちらかというと好奇心が刺激されているのだろうと、クレイはそう思うことにした。何より彼の性分なのだろう。
「何とも……」
クレイのなんとも言えない返事に対しても、マーチンはウンウンと頷くだけにとどまった。
「さて、今日もしっかり稼がないと!」
マーチンは、ドアに掛かっている張り紙を取り、バーの看板をオープンのメッセージに変えた。
ダウジングの時間を含めて、大凡一時間程度と言った所のやり取りだった。
時間が一番掛かったのは、矢張りダウジングをしている最中だ。念入りにアップタウンの地図の上をチェックしたところ、思ったより振り子が振れる場所が多かったのだ。
それはパピーという一個体に絞った話ではない。この数日の探索の中で、アップタウンでの行動を済ませている。それに基づいての行動だった。
実は、クレイが目を付けていた、言えとエイブラムスの愛犬の消息が途絶えた地点とが、一致しているのだ。
クレイの予想通りであるならば、結果は恐らく最悪の部類だ。しかも可成り凄惨な類いになるに違いないし、エイブラムスを連れて行くことは尚危険であると言えた。
末期の中級ヴァンパイアは、吸血衝動を抑えられずに、手当たり次第に、しかも場当たり的に人を襲うようになる。
何も最初から、好戦的で有るわけではない。勿論好んでそうなる者もいるだろうが、大半は中毒症状である。それでも生きていたいのだ。
そうしているうちに、性格は徐々に変貌し陰鬱になる。警戒心と猜疑心も強くなるのだ。マーチンのような存在が、極端すぎるため、ついついヴァンパイアの性質を忘れそうになってしまいそうなクレイだったが、気を引き締めて、彼等を追跡しなければならない。
そして、本来彼が追いかけるべきターゲットに近づかなければならないのだ。探偵紛いの振る舞いは、そのための足がかりである。
「矢張りこの街に事務所を構える必要があるな」
クレイは、目深に帽子を被り、ブラッディーマリーを後にする。
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