第11話
なんと言うことであろう、ヴァンパイアがヴァンパイアのいる可能性のある場所を、譬えハンターではないとしても、少なくとも自分達に銃口を向けるような相手に教えるのだ。
互いに干渉しないように生きているヴァンパイア同士に於いて禁忌といっても良い。しかし、彼のような性格から、まんざら考えられないことでも無いと思った。
いや、マーチンだけの話ではないのだろう。恐らくミランダが機嫌良くコーヒーなどを嗜んでいるというのなら、それは二人の結論なのだ。
「解った。探そう。ただし――」
「解ってる。多分パピーは……だろ?」
今まで友人と仲良く話しているように見えたマーチンの目が、少しだけ真面目で物寂しげな表情を見せる。彼は自分がヴァンパイアだということを忘れてはいないのだ。
「彼は、エイブラムス=ブラウン。今夜俺のバーで、待ち合わせでいいだろ?」
「――解った」
彼はしがないアパートに住んでいるが、自分のバーと言い切ったところを見ると、これで一城一国の主というわけだ。
クレイは立ち上がるが、今度はミネラルウォーターを押しつけられることは無かった。
「送るわ。アパート一階の階段までだけど……」
そうこのアパートの作りは、両側に部屋があるため、廊下に日光は差さない。そして廊下にある窓も後ろ側にビルが建っているため、そこも薄暗いのだ。
若干の日光は差すものの、中級のヴァンパイアといえど、日光に当たった瞬間に灰になるなどということはないのだ。
ただ、日光に晒され続けると、皮膚が火傷を起こし、壊死し、最後は腐るようにして死んでしまうのである。それはそれでなかなか残酷な最後なのだが、それが中級ヴァンパイアの最後なのだ。
何故、マーチンではなくミランダだったのか――。
「これ見て?」
ドアを出ると同時に、ミランダは首から提げているペンダントをクレイに見せる。
銀の弾丸の弾底が加工され、表面はまるで、カプセル剤のようにプラスチックで包まれている。銀の弾丸に触れると、彼らの肌は炎症を起こしてしまうため、そうしているのだ。
クレイには意味が分からなかった。
確かにヴァンパイアの現実を突きつけるために二人分の弾丸をわざわざ置いていったのは、自分だが、まさかそれをペンダントのロケットにしてしまうとは、夢にも思わなかった。
「もし。私がダメになったらさ。コレで……マーチンとさ。二人で逝かせてくれる?」
ミランダは、ニコリと笑う。なんともも寂しげな笑みではあったが、覚悟のある笑みであった。
クレイは何も言えず、またもや帽子を目深に被るのである。
「アンタが帰った後さ。なんでアンタが私達を見逃したんだろうって。ハンターじゃないっていったけど、アンタがコレを持ってるってことは、コレを使わなきゃいけないってことなんだ。でも使い惜しみをした訳じゃない。マーチンは、思い込みが激しくてさ。『アイツは絶対良いやつだ!そうに違いない!』とか、変なテンションでね」
ミランダはクスクスと笑い始めるのだった。そこにマーチンの人柄、単純さがうかがえてならないが、そう笑い出す彼女は実に楽しそうで、嬉しそうだった。
なるほど、彼女が中級ヴァンパイアとなった経緯は解らないが、それでも彼女がこうして和やかにいられるのは、マーチンに救われたのだろう。
そして愛する彼女のために、彼もまた同じ道を歩こうとしたのだ。そう――彼の彼らしい前向きな単純さで。
「やれやれ……冗談じゃない……」
クレイは、ブツブツとそう言って悪びれる。
しかし、クレイの目深に帽子を被る仕草を見て、ミランダはクスリと笑う。それでもこの男は、自分達の話を聞いてくれたのだと。
マーチンの勘は、当たっていたと。
「私はここまで、解るでしょ?」
ミランダは念を押すようにして、怪談の最後のステップを降りない。
「ああ……」
クレイは、少しだけ泡立ち始めたミランダの肌を見ながら、彼女が早く部屋に戻れるようにするため、足早にアパートから出るのであった。
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