第4話

 翌日は、リッキーにブロードシティと、少し離れたダウンタウンを案内してもらう事にする。

 金を持っていないと言いつつも、移動はタクシーである。リッキーは、クレイは金を出し渋っているのでは無いか?と勘ぐってみるが、それでも案内料はしっかりともらえるし、一日案内を紹介できるとなれば、それはそれで二度おいしい。

 ブロードシティは、表こそネオンのまぶしい看板やら、ミュージカルやコンサートホールなどの案内で華やかだが、裏路地へ回ってしまうと、非常に治安が悪い。華やかさの裏側というやつだ。

 そしてクレイは、華やかな表よりも、少し外壁の崩れた、陰湿な路地を少し除いては、リッキーと街を歩き、一回りすると、タクシーへと戻り、大雑把に街を一回りをするのだった。

 ?内では、地図を見ながら、リッキーがあれやこれやと、ブロードシティの見所を説明してくれるが、クレイはそれに関してはあまり興味を示さず、ただ地図をじっと見ていた。

 「そういえば、猟奇事件がどうの……って、場所。この街だったか?」

 「ああ……うん。まぁブロードシティは……ね。夢の街だから。その分色々あるみたいだよ」

 リッキーは、少しだけ声を沈ませながら、最近この街で起こっている。事件のことを気に病んでいるようだった。

 「あんまり変なニュースが広まると、困るんだよなぁ」

 確かに、ブロードシティは観光地としても有名で、不穏なニュースが溢れてしまうと、彼の案内業に影響を及ぼしかねないのも事実だ。

 

 この日は本当に一日中、車での移動ばかりだった。

 リッキーとしては、途中幾度か挟んだ休憩で、お駄賃代わりの……といっても駄賃は別に貰っているのだが、露天でのジャンクフードを食することで、昼食代も浮かせること出来たので、大いに満足である。

 「兄さん。どうだい?この街は、気に入ったかい?」

 と、リッキーがトイレのために、一時停車した、公園でのタクシードライバーとの会話である。

 タクシードライバーは、ジョンといい。脹よかなそろそろ初老と思われる、白髪交じりのボンバーヘアの黒人である。

 渋く落ち着いた声であったが、一言一言話す度に、ナニカに満足げにウンウンと頷いたように頭を動かし、コミカルで憎めない男だった。

 クレイは恐らく自分の外見より年配であろうこの男の事は、あまり嫌いになれなかった。本当なら、あまり詮索してほしくは無かったのだが、ブラウンの瞳を持った目元も、厚みのもあり口角も優しいこの男の話しぶりは、実に彼の人柄を表していた。

 そもそもが、観光にもほど遠い、車の移動ばかりで、愛想もあまり良いとは言えない自分に、不信感も無く話しかけるこの男に、好感を持てた。

 といっても、それでいてクレイは、同じように表情豊かになれるわけではないのだが、それでも多少は会話をする気にはなった。

 「気に入ったというより……用事だな」

 「そうかい。まぁでも……良い街さ。世知辛いところもあるが、なんだかんだと懐が深い」

 ジョンはこの街が随分気に入っているようだ。

 「そうらしい……」

 クレイは、ふっと溜息をつくようにして、智頭を眺める。

 「リッキーは良い子さ。ちゃっかりしてるとこもあるが、よく働くし、こうして仕事も持ってきてくれる」

 ジョンは、少し笑い含みをしながら、リッキーの話をする。どうやら、リッキーは彼のお気に入りのようだ。だからというのもあってか、自分のような出逢ったばかりで、無愛想な男にも、こうして話しかけてくれるし、信用もしてくれているのだろうと、クレイは思った。

 それは確かに、リッキーのおかげかもしれない。

 「また、足が必要になるときがある」

 「リッキーを通してくれよ?開いてるときは、案内してやるよ」

 そこだけは、筋を通しておかなくてはならない。いや、ひょっとしたら大人どおしで、リッキーを通さなくても良いのかもしれないが、通さないとリッキーがむくれてしまうということを、想像しただけで面白そうだと言いたげに、ジョンはもう一つ笑いながら、ドライバー席のミラーから、クレイを見るのだった。

 この時ばかりは、無愛想なクレイも、思わずクスリと笑ってしまうのだった。

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