第二十話 結果
コンクールを目指してから早一ヶ月、涼は応募期限の寸前で作品を送付していた。そうなったのは、本来余裕を持って送る予定だったが、直前で良いアイデアが浮かび修正したためである。エミリー協力のもと、現在の彼には納得のいく作品ができた。
それから二週間が過ぎ、涼の家に結果が記された封筒がコンクールの運営から送られてきた。一人で見ることもできたが、彼はわざわざエミリーの家を訪れ一緒に見ることにした。
「そ、それじゃあ開けますよ?」
息を呑み、ゆっくりと封を切り中の用紙を取り出す。前回のような批評はなく、たった一枚の紙に結果が記されていただけだった。期待感に溢れている涼。しかしその内容は、彼の期待を裏切るものだった。
「どうだ? やっぱり一番だろ?」
エミリーは全く心配などしていない様子で涼の表情を覗く。彼の顔は青褪めていることに気付き、結果を察する。しかし、彼女にも到底納得することはできない。
「は? ちょっと、それ貸してみろ!」
彼から用紙を奪うようにして見るエミリー。そこには確かに【二位】と書かれた欄に涼の名前がある。しかも、一位には審査員十名の内七票を取られている。一位の欄に書かれた名前を見ると、彼女はその結果に納得せざるを終えなかった。
「……すまん。まさかコイツがこんな小さなコンクールに出てくるなんて思っていなかった」
涼も一位を見てみると、金井の名前があった。それを見て、彼もまた諦める他ない。
「コイツはお前と歳が近そうだが、アタシから見てもとんでもない逸材だ。その中で二位なら、お前は良くやったよ」
今回は負けたことに納得したが、これからも彼に負け続ける未来は涼には受け入れられなかった。彼はあることを思い付き、エミリーに尋ねる。
「先生! このコンクールも表彰式ってありますよね? そこに俺も連れて行ってください!」
それを聞いたエミリーは、不思議そうにしている。
「いやまあ確かに表彰式くらいはあるだろうが、小さなコンクールだし、普通二位の奴は来ないと思うぞ?」
「表彰されに行きたいんじゃないんです。金井先生に、宣戦布告をしたいんです!」
結果を見た時とは打って変わり、目を輝かせ心に火がついた涼。彼の心境の変化の原因がエミリーには分からなかったが、彼の言葉に頷いた。
「そうか。ならアタシが会わせてやるよ。数える程しかないが、奴とは面識があるからな」
後日、二人はエミリーの担当編集者の車に乗り表彰式が行われる会場へ向かった。
◇◇◇
その頃、華はというとグランプリに出場し、圧倒的なまでのウォーキングを魅せていた。一人二回に分けて服を替え歩く。参加者は三十人もいたが、会場中の人間が華に見惚れ他の参加者が頭に残らない。そこには日本トップのモデルも居たのだが、華の参加は無情にも世代交代を告げるものだった。
「アンタ一体何者なの? 何で私達が知らない子があんなウォーキングできるって言うの!?」
ウォーキングを終えステージの袖裏に戻ると、同じ参加者のモデルたちが華を囲うようにして立っていた。とても歓迎されている雰囲気ではなく、彼女を睨みつけるモデルたちの辺りには重々しい空気が広がっている。その光景が華には面白おかしく感じ、彼女たちを前に腹を抱えて笑った。
「あはは! 先輩たちが揃いも揃って何してるんですか?」
その様子は彼女たちの反感を買う。
「何笑ってんのよ! アンタ、馬鹿にしてんの!?」
そう言って一人のモデルが華の胸倉に掴みかかろうとする。それを華は叩いて振り払い、怒っているとも憐れんでいるとも取れる表情で彼女たちを見つめ告げる。
「アンタらもモデルだって言うのなら、服を粗末にしてんじゃないわよ。そんなんだから、新米の私に手も足も出ないんじゃないの? 私は世界一のモデルになる。今日はそのためのただの踏み台だから」
華はそう言って悠々と去って行った。負けた腹いせをしようとしていた彼女たちも、その姿を黙って見送る他なかった。
(さて、とりあえず日本一にはなれたし、涼君にメールでも送ってあげようかなー)
先輩モデルたちとの一悶着など疾うに忘れてしまった華は控え室に戻ると、一目散に胸を躍らせて涼に今日の結果を送っていた。
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