第二章 乗り越えた先にあるもの

第十三話 批評

ーー2011年 夏


 八月の終わり頃、いつにも増して涼は執筆活動に燃えていた。それは彼にある目標ができたからだった。たまたま見た雑誌のページにそれは書かれている。


「先輩! これ見てくださいよ!」


 この日は夏休みにも関わらず、涼と華は同好会として学校に来ていた。夏休み全てを活動休止にすることはしないと顧問の教師に告げられたためである。


 涼の指差すページを華が見てみると、高校生限定の小説のコンテストを開催すると掲載されている。いくつかの賞があるようだが、大賞には主催する出版社から書籍化されることになっていた。


「へえ、凄いじゃない! ……でも応募条件に『文字数十万以上』って書いてあるけど、涼君こんなに書けるの?」


 そう彼を心配する華。だが当の涼自身は非常に楽観的だった。


「大丈夫ですよ! そもそも一般的に出版されている本の文字数がそのくらいなんです。本気で小説家になるんだったら、そのくらいはできないといけません。それに大賞を取れれば、一気にプロになれるんですから!」


 彼がそう答えると、華は余計に不安になった。彼をそそのかした手前、負けてしまった場合彼が自信を無くしてしまうのではないかと。そう考えたものの、意欲的になった彼に水を差すのも無粋だと判断して回答を濁した。


「よし、じゃあ俺はこれから家に帰って続きを書きます! 応募期限まであまり日もないので、急いで書かないと」


 彼はそう言って家に帰って行った。それを華は、期待と不安の気持ちを抱えつつも黙って見送るしかなかった。


◇◇◇


 「そ、そんな……」


 夏が終わり新学期が始まった頃の日曜日。涼は家に届いた小説のコンテストの結果が記された用紙を見て落胆していた。

 

 結果は佳作。しかもその中でも一番下に彼の名前が書かれている。つまりは彼は入選することもできず、尚且つその中でギリギリの順位だったと言える。応募総数が五千を超える作品もあったことを考えれば、上出来と言えるだろう。しかし、彼は納得することはできなかった。審査にではなく自分自身に。


(くそ! こんなんじゃ、いつまで経っても先輩の納得する作品なんて書けない! ましてや書籍化することだって……)


 彼がそう憤っていると、同封されていたもう一枚の紙に気が付いた。紙を手にし、それを読んでみる。すると、そこには作品に対しての批評がこう記されていた。



ーー赤城涼様。貴殿は文章力、そして物語の構成も素晴らしいものがあります。しかしそれを活かすために必要な中身の説明が足りません。『未だ社会に出ていない高校生だから仕方がない』と私は言うつもりはありません。もっと物事の知識を増やすべきです。自分で体験すべきです。知らないことがあれば様々な人に尋ねてみては如何でしょうか。またいずれ批評することがあれば、知識と経験を得て成長した貴殿の姿を心待ちにしています。

 


 その紙の端には批評した者の名前が書かれていた。達筆の字で繊細に【吉田エミリー】と。

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