第七話 真実
「……」
勢いで華のもとに訪れた涼だったが、彼女に会えたのは良いものの、何を話せばいいのか分からなくなり椅子に座ったまま黙っていた。十年振りに彼女と顔を合わせたが、美しさや妖艶さに更に磨きがかかっている。昔は明るく振る舞ってくれていた彼女だったが、今は再会を祝すという雰囲気ではなく何処となく嫌悪感を抱いている。それは涼にも見てとれた。
「ねえ、何か用があるなら早く話してくれない? 私、この後また撮影に行かないと行けないんだから」
嘘を吐く華。それが何故なのかは彼女自身にも分からなかったが、今彼に会いたくはなかったということだけは認識できる。そして部屋が暑い訳ではなかったが、彼女は服を脱ぎ出し全裸になった。服の上からでも分かるが、
「ちょ、ちょっと! 何でいきなり服を脱ぐんだ!?」
その光景を目の当たりにしてしばらく彼女の肢体に目を奪われていた涼だったが、正気を取り戻すと顔を赤らめ、咄嗟に目を手で覆い隠した。
「別にいいじゃない。あなたも前に見たことあるでしょう?」
彼女の言う通り、以前裸の姿を見たことがあった涼。しかしそれは相変わらず女性経験の少ない彼にとっては恥ずかしいことに変わりない。
彼女が自分中心で行動している姿を見ると、相変わらずの様子に彼は少し安堵した。そして落ち着きを取り戻した涼は、ここへ来た理由を伝える。
「……本当に金井先生の作品に出演するのか?」
華は、窓の外を眺めて答える。
「出るよ。モデルはもうすぐ世界一を獲れる。他の人は知らないけど、私はそう確信してるから。だから目指してた映画俳優もやろうとしたの」
それを聞いた涼は、珍しく大きな声で反論した。自分が間違っていることは彼自身も十分に理解している。しかしこのまま引き下がってしまえば、今まで華とのかつての夢のために頑張ってきた自分が否定されてしまうようで怖かったのだ。
「どうして!? 俺は君のために頑張ってきた。高校生になって直ぐ、君と約束したから。俺は俺の作品にだけ出演して欲しかった!」
本当は彼にも分かっていた。そうしたければ、自分が結果を出せば良かったことなのだと。彼女を止められなかったのは純粋な実力と努力不足に他ならなかった。いつからか諦めてしまっていたことにも気付かず、ただ仕事のために小説を書いていたのだ。それすらも金井に失望され気付かされた。涼には最早誰に対して怒りが込み上げて来るのかが分からなくなっている。自分への情けなさか、彼は肩を落とし項垂うなだれた。
少し間が空いて華はおもむろに振り返った。その表情には僅かに哀愁が漂っている。しかしそれと同時に怒りも込み上げてくる。
「私のために頑張ってきた? ……違う。私は私のためにモデルも女優もやっているわ。それが巡り巡って他の人のためになっているだけ。あなたのは努力したことを魅せて言い訳をしたいだけよ。『自分はやった。他の人とは才能が違った』って」
彼女はそう言いながら、無自覚に益々怒りが湧いている。その原因は彼女には到底分からなかった。感情を抑えることができず、彼女は更に続ける。
「私に慰めて欲しかった? 『よく頑張ったね』って言って欲しかった? 私はあなたに失望しただけよ。本気で打ち込んでもいないくせに、才能のせいにしないでよ! 確かに才能の差はあるかも知れない。でも天才は努力なんてしないと思った? ……違うわ。本当は誰よりも天才が一番努力していることは私が一番知っている」
華は何よりもの悲しくなった。あることを思い出すと、徐々に喪失感に苛まれる。そして痛む胸を抑え、感情を押し殺そうと自分を律し彼に告げた。
「私、知ってるよ。彼女と仲良くやっていること。それに満足したのかは知らないけど、裏切ったのはあなたの方じゃない」
その事実に涼は返す言葉が無く、彼女がそのことを知っていることにただただ驚くばかりだった。
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