第6話 逃走犯の大失態
ある夜、ロイと彼の仲間たちは人生最大の仕事に挑んでいた。標的は町の中心にある銀行で、地下金庫には莫大な現金が保管されていると噂されていた。ロイはこの計画を何ヶ月もかけて練り上げてきた。仲間たちもその腕を信じ、彼の指示に従っていた。
真夜中、静寂の中、ロイと仲間たちは銀行の裏口に忍び寄った。工具を駆使して扉をこじ開け、無音で内部に侵入した。ロイは最新の電子機器を使って警報システムを無効化し、金庫室へと続く廊下を進んだ。
金庫の前で、ロイは手際よく暗証番号を入力し、巨大な扉を開けた。
「すげぇ・・・百億以上?・・千億以上?」
仲間は喜ぶ声を抑えながそう静かに言った。
彼らは大量の現金を袋に詰め込み、喜びを抑えながら脱出を試みた。しかし、予想外のトラブルが発生した。銀行の警備員が異変に気付き、警察に通報したのだ。
サイレンの音が遠くから聞こえ始めた。
「まずい逃げろ!」
ロイは仲間たちに急いで逃げるよう指示したが、彼自身は少し遅れてしまった。外に出ると、警察のパトカーが銀行に向かって迫っていた。ロイは慌てて逃げ出し、暗闇の中を駆け抜けた。
「ちくしょー捕まってたまるか!」
数ブロック先に逃げ込んだロイは、廃ビルの中に隠れることにした。しかし、警察の包囲網は徐々に狭まり、彼の逃げ道を塞いでいった。焦ったロイはビルの裏手にある非常階段を見つけ、そこから外に出た。
ロイはさらに逃げるために無計画に走り続けた。頭の中でパニックが渦巻き、冷静な判断ができなくなっていた。
「ここはどこだ?でも逃げるしかねぇ!」
そして、暗闇の中で迷子になり、自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
しばらくして、ロイは目の前に大きな建物を見つけた。
「ここだ!ここなら逃げれる!」
直感的にそこに逃げ込もうとしたが、実はそれが地元の刑務所であることに気付かなかった。門が半開きになっているのを見て、彼はそのまま中に入ってしまった。
中に入ると、ロイは不思議な感覚に襲われた。
「ん?しかしなんか辺りの様子が変だな・・」
周囲の警備が厳重で、何かが違うことに気付いたが、すでに遅かった。彼はそのまま刑務所の中庭に迷い込み、看守たちの前に姿を現した。
「何をしているんだ?」
看守の一人が声をかけた。
ロイは瞬時に事態を把握し、顔が青ざめた。
「看守?! ま、まさかここは!!!」
気づいた頃にはもう遅かった。そしてロイは何も言えないまま立ち尽くしていると、他の看守たちが集まり、彼を取り囲んだ。
「逃走犯か?」
もう一人の看守が尋ねた。
ロイは逃げることもできず、ただ黙ってうなずいた。看守たちは彼を拘束し、署の取り調べ室に連れて行った。
「これは驚いたな。逃走犯が自ら刑務所に入ってくるとはな」
と、署長が笑いながら言った。
ロイは頭を垂れ、自分の愚かさに呆然とした。計画を立てた自分が、こんな形で捕まるとは思いもしなかった。
数日後、裁判が開かれ、ロイの逃走劇は街中の話題となった。新聞やテレビは彼の愚かな行動を大きく報じ、人々はその顛末に驚きと笑いを禁じ得なかった。
「ロイ、お前は真に運が悪かったな」
と、裁判官は言った。
「しかし、法はお前の行動に対して厳格だ。お前は銀行強盗の罪で長期刑に処されることになる。」
ロイは無言で判決を受け入れ、刑務所に送られた。彼の名前は一時的に有名になったが、その理由が自らの愚かなミスによるものであることを忘れることはなかった。
刑務所での日々は長く辛いものだったが、ロイはそこで新たな人生を見つめ直す機会を得た。彼は自分の過去の過ちを反省し、再び自由の身になったときには、もう一度やり直す決意を固めた。
ロイの話は、愚かなミスがいかにして人生を一変させるかを教えてくれる。彼は最終的に、強盗犯としてではなく、教訓を学んだ一人の人間として、社会に戻ることができたのであった。
「もう二度とあんなことはしない。真面目に生きよう」
そう心に誓ったのである。
-終-
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