第5話  不運な強盗犯


その夜、ジェイクは計画通りにことを進めるつもりだった。長年の下調べと準備を経て、彼は完璧な強盗計画を立てていた。

ターゲットは街の宝石店「ブライトスター」店主の生活リズム、警備システムの盲点、逃走ルート――すべてを把握したつもりだった。


月が雲に隠れ、街灯の明かりも薄れるころ、ジェイクは黒いフードをかぶり、静かに宝石店の裏口に忍び寄った。彼は精巧なツールキットを取り出し、鍵をピッキングし始めた。数分後、無事に鍵が開き、ジェイクは忍び足で店内に入った。


店内は静寂に包まれていた。暗視ゴーグルを装着し、彼は狙いを定めた宝石の陳列ケースに向かった。無音で動き、警報システムを無効化しようとしたが、ここで彼の第一のミスが起こった。彼はうっかりして、設置場所を誤っていたのだ。微かな音を立ててしまい、その音がシステムに反応し、店内に警報が鳴り響いた。


ジェイクはすぐに対処しようとしたが、慌てた手つきでさらに状況を悪化させてしまった。音が鳴り続ける中、彼は宝石を手に取ることだけに集中しようと決めた。急いでガラスケースを壊し、中にあるダイヤモンドや高価な宝石をポケットに詰め込んだ。


だが、焦りはさらなるミスを呼んだ。逃走経路として予定していた裏口に向かう途中、ジェイクは足を滑らせ、店主のペットの猫の餌皿に足を引っ掛けた。思わずバランスを崩し、床に倒れ込んでしまった。その拍子に、彼の暗視ゴーグルが外れ、さらにポケットから宝石が飛び出した。


ジェイクは這い上がりながら宝石を拾い集めたが、その時点で警察のサイレンが遠くから聞こえ始めた。彼はパニックに陥り、逃げるために店の正面口に向かって全力で走り出した。だが、ここでまたしてもミスを犯した。正面口には店のオーナーが設置した秘密のトラップが仕掛けられていたのだ。


ジェイクはそのトラップに引っかかり、足元にスプレーが噴出した。視界が曇り、何も見えなくなった。彼は必死に逃げようとしたが、スプレーによる痕跡は明白で、警察がすぐに彼の居場所を突き止める手がかりとなった。


警察が到着した時、ジェイクはまだ店内を走り回っていた。スプレーの影響で視界を失い、出口を見つけることができなかったのだ。警官たちはすぐに彼を取り囲み、逃げ場のない状況に追い込んだ。


「手を上げろ!」警官の一人が叫んだ。ジェイクは諦めたように手を挙げ、膝をついた。


翌日、ジェイクの逮捕は街中のニュースとなり、人々の話題をさらった。宝石店のオーナーは、警報システムの誤動作がかえって彼を助けたことを笑いながら話していた。ジェイクは自分の愚かさを痛感しながら、警察の取り調べに応じた。


その後、裁判で彼の一連の失敗が詳細に語られると、法廷内には笑いが起こった。判事も苦笑しながら判決を言い渡した。


「ジェイク、君は間違いなく運が悪かった。しかし、それ以上に準備不足だったね。」判事は厳かに続けた。「刑務所で自分の行動を反省し、次は正しい道を歩むことを願う。」


こうして、ジェイクは自らの失敗を教訓に、新たな人生を歩み始めることとなった。彼の物語は、不運とミスが重なり合った一夜の出来事として、長く語り継がれることとなった。

-終-






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