8/26 昔の自分を乗り越えられない

 8月26日。熱は依然として微熱を彷徨っている。


 昨日の夜、診断書について会社に報告した。送る文面を考えた後にも、しばらく送信ができなかった。けど、勇気を出して送信した。そうしたら明日、面談をすることになった。そこで私は、母のもとへ帰ることを告げなければならない。


 何かをしていないと気がまぎれないから、自分を保つために、何か書き物をしようとした。けれど、今自分の書けそうなストックがない。いくつか膨らませたい短編はあるけれど、膨らませられるだけの知識もエネルギーも残っていない。となると、できるのは「十九歳で家から逃げました」の焼き直しなわけだが、これは私のトラウマそのものであり、今の精神状態で向き合っていいものとも思えなかった。


 そこで、フォロワーさんが教えてくれたサイトに、昔書いた小説をアップしてみた。投稿先はNolaノベル。プロアマ問わず作家を募集しているという情報を、以前フォロワーさんが教えてくれたところだ。今はそのプラットフォームに応募して、仮にお声がかかってもきちんと仕事ができる気がしない。ただ、そのサイトでは編集者による直接の声掛けのチャンスもあるとかで、私は過去作を投稿してみることにした。

 投稿したのは「廃都」というSF(にしようとがんばったやつ)。大学1年生の年度末に書いたものだから、ゆうに3年は前の作品になる。


「これが最高傑作だ!」と思いこみ、意気揚々と新人賞に応募して落選したもののひとつ。改めて読み直すと、だから落とされたんだろうなという具合に、色々とアラは見つかる。

 けれど、構成と設定、世界観は今の私よりずっと優れている気がする。小道具から何から、一生懸命に考えた記憶がある。伏線も張ろうと頑張っていた。久しぶりに読み返したこの小説は、文は拙いけれど、その分エネルギーがある。この作品を書きたい、という強い熱量。これは確か、1年くらいかかって完成させたんだっけ。

 あの頃は、小説だけが私の生きる意味のすべてだった。がむしゃらに書いた。それだけが自分の存在意義だった。


 今は自分の生活さえままならないで、小説に向かう意欲が、あの頃よりずっと薄れていると感じる。


 そんな状況で、かつての私が持っていた熱量が眩しかった。


 最近つくったものは、自分が今楽に書けるものばかりで、こんな挑戦的なことをできている記憶がなかった。

 今は楽な方にばかり逃げている。自分が楽に書けるものは、たしかに一定のクオリティにはなるのだけれど、この頃みたいな野心は少しずつ欠けてしまっている。気がしてならない。この間の長編は比較的うまく行った方だ。小器用にまとめることができた。

 けど、次は? 考えていると胃が痛くなる。

 傷つくのが怖い。これ以上落選を積み重ねるのが怖い。昔はなぜか万能感があった。私ならプロになれるだろうと信じ込んでいた。その万能感でバリバリ突き進んでいたけれど、落選して現実を知るごとに、自信はそがれていった。今では賞に応募することそのものが怖かった。応募のために小説を考えようと思っても、落選への不安に塗りつぶされて、うまくまとまらない。

 

 今の私の創作活動はボロボロだ。短編は雰囲気だけでなんとなく書けるからいいけれど、長編が書けない。長編となると、キャラクター作りから世界観の設定から話の構成から、きちんと作り上げてからじゃないと行き詰る。設定のためには資料も必要になるが、資料をきちんと読んで設定をつくりあげることが、今は難しい。

 アイデアの卵みたいなものが浮かんでも、それを膨らませるだけの気力がない。頭がろくに動いていない。こんな状態で作ったものが面白いものになる自信もない。

 走り続けることでバランスをとる自転車みたいに、小説を作り続けることが、私の心のバランスをとるためには必要だった。けれど、今、バランスはがたがたに崩れて、倒れた自転車を起こし、乗りなおすことすらできていない。


 こんな状態で、私はどうやって生きていけばいいのか、わからない。

 わからないから、こんな雑記にすがる。文章を書いている間だけは、何かをしている気がして気持ちが楽になる。かといって、小説も記事もアイデアが枯渇してしまった。日記ならば、ろくに頭を使わなくても、今の気持ちをそのまま言語化するだけでいい。だから日記は、とても楽な作業だった。


 今日もすぐに書き終わってしまって、私の安寧は終わる。


 今日の残りの時間を、私は緊張感に苛まれながらやり過ごさなければならない。

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