8/24 軽々しくどこにも吐き出せない気持ち
8月24日。出社指示。熱はまだ続いている。今日で9日目。
昨日の晩、友達と通話をしていて調子が良くなったとき、「今の会社はとりあえず無理なんじゃないか」「10月までとりあえず就労支援に頼ってみて、10月時点でどうにもならなそうだったら島に帰る、でいいのでは?」と思いついた。これは名案とばかりに心が軽くなり、ざわついていた気持ちが少し落ち着いた。見通しが立ったら急に調子がよくなる。思えばこれがよくない予兆だった。
善は急げとばかりに、朝9時ごろ就業生活支援センターに電話をかける。が、以前相談した担当者につながらず、かけなおしてほしいと言われる。それなら待つ間にと保険証の発行機関に電話をかけた。が、やはり自分で扶養を抜けるのは難しいとしか言われなかった。
9時半ごろ、改めて就業生活支援センターに電話をかける。今の状況を説明し、転職の意志があることを伝えても、いっこうに話が前に進まない。話を聞くだけ聞いてもらって、「主治医の先生と相談してみてくださいね~」「また電話してくださいね~」で話が終わる。
それからも粘って色々質問をしてみた。「今私ができることはなんですか」と聞いてみたら、「体調や気分の波がわかるように記録をつけましょう」「どんな仕事が自分にあうか考えてみましょう」。どんな仕事なら自分に合うかわからないんですと言えば、「〇〇市(かなり遠い)に職業カウンセラーがいる相談先があるので、時間のある時に行ってみてください」。なおここは予約が一カ月待ちらしい。
早急にどうにかできる手がないとわかると、一気に気分が落ち込む。主治医に相談をしようにも、聞いてはくれるけれど薬を増やされるだけ。どうしたらいいのかわからない。どうにかしなきゃいけないことだけはわかる。勇気を出して電話をかけたつもりだったのに、前に進めない。
混乱の中で熱が38.8度まで上がる。
今日は出勤するように言われている。この状態で出勤してもいいんだろうか。まずは連絡するべきだろうか。悩みながらTwitterに掃き出し、母にLINEをした。返事はすぐ来た。
「今日は仕事だね。しんどかったら無理せず帰ってきなさいな。連絡だけだと疑心暗鬼なんだろうから、行くだけ行って体調が悪いことを見せてきたら?」
「しんどいよね。しんどいのを見ないとわからない無神経な人が多すぎる。ちょっとだけ頑張りな」
他にもたくさん「休みましょう」と言われていたし、私も最初は「これは無理だ」と休むつもりでいた。けれど、結局母の言葉に流されてしまった。たくさん意見がある中で、選び取ったのが母の意見だということに、自分で何か病的なものを感じた。
無理だったら早退しようと思いつつ、結局、出勤。職場で熱を測っても規定の範囲内(7度は超えていた)。社長から別室に呼ばれるも、結局何も言い出せず。「大丈夫だっていうなら君の言葉を信じるけど」と言われ、「大丈夫です」で終わる。
大丈夫と言い張りながら、実際無理というほどの体調でもないのが逆にしんどい。から元気で授業2コマを乗り切る。体力的にはたぶん、大丈夫だったのだろう。いっそこの場で倒れられたらとずっと思っていたけれど、こういう時に限って身体は憎々しいほど平気だったりする。そんでもって、仕事自体は嫌いじゃない、社員さんもいい人というコンボで、ますます辞意が揺らぐ。結局私はこの仕事を続けた方がいいのだろうか、なんて思う。
少しばかりの休憩時間。デスクで頭を抱えていたら「顔色悪いよ。大丈夫?」「無理せず休みな」と社員さんによしよしされてしまった。泣きそうだった。やっぱりそれにも流されてしまった。
本当はつらくもないのにつらいふりをしているんじゃないかとむやみに不安になった。自分の本当の体調がまるでわからなかった。平気だと言えば平気だし、無理と言えば無理。どっちなんだい。自分の心にきいても答えが出せない。
と思ったら社長に呼ばれた。具合は大丈夫かと訊かれる。正直だめです、ふらふらしますと答える。社長は困った顔をして告げた。まず、保険証は今手続き中なこと。それから、あまり休みすぎると、有給のない私は、お給料が減るぶん、自分で自分の首を絞めることになるということ。
勤務表を見ながら「空きがないんだよなあ」とやはり困った様子。「あと2コマだしもう少しだけ頑張ってくれないかな」と背中が告げていた。結局、私の所属する科の主任と相談した結果、主任が「そういうことなら帰って休みなさい」と言ってくれた。申し訳ない気持ちで半分泣きながら会社を出た。
社員さんはいいひとなんだよな……。社長の言ってることもなんだかんだごもっともなんだよな……。私に分がないことだけはわかる。迷惑をかけてばかりいる。私も給料が減る。休んでなにひとついいことはない。
体力的には、もう少しだけ頑張ることだってできたかもしれない。もう少し無理ができたかもしれない。早退する道中、自分が悪いことをしているような気がしてならなかった。本当は仕事ができたんじゃないかと思った。私はずる休みをしているんじゃないかと思った。早退を願っていてここぞとばかりに乗っかった自分もいた。自己嫌悪と申し訳なさで頭が破裂しそうだった。
この会社が意外と嫌いじゃない自分が嫌だった。辞意のひとつも告げられない自分が情けなかった。自分のための一歩が、怖くてどうしても踏み出せなかった。なのに結局早退して、楽な方に流れてしまった。まわりに迷惑をかけながら。
会社に対して異様に気を遣ってしまうのは、仕事の内容も周りの人もなんだかんだ嫌いじゃなくて、だから結局、好かれていたいのかもしれないと思う。要するに、私はいい人だと思われていたいのかもしれない。嫌われるのが怖いのは、人間が怖いからだ。都合のいい人に率先してなりたがっていた過去の自分を、「この日出られる?」と訊かれて「出れます!」と即答していた自分を思い出す。あの頃とまるで変っていない。
どうにも煮え切らない。自分の意志がわからない。「辞めましょう」と言ってくれた人にも、職場の人にも、母にも、私はいい顔をしようとしている。いっそ嫌えるくらいの憎い場所だったら、家を出た時みたいに、さっさと縁を切れたかもしれない。けど、周りがいい人なぶん、気を遣ってしまう。
結局私は、誰もにいい顔をしたがって、誰もに好かれようとして、結局どっちにとっても一番よくない選択肢を選んでいる気がする。
きっぱり行動に移せないことがふがいない。アドバイスをくれたひとに申し訳なくて、辞意が伝えられなかったことが、誰にも相談できない。かといって、辞意を伝えることもできない。お医者さんの力を借りて、「医師の判断です」ということにしようと思っても、お医者さんは「薬を飲んで様子を見ましょう」「そうすれば普通に働ける人もいますから」としか言ってくれない。というか都合よくお医者さんを使おうとしている自分にも罪悪感がぬぐえない。
何をするにも申し訳なくて、結局何もできなくて、自分が嫌いになって、自信がなくなって、の無限ループに陥っている。何か行動に移しても実を結ばなくて、それでますます自信がなくなる。
仕事ができない。辞めることもできない。家で籠って泣いていることしかできない。
袋小路。行き止まり。本のことを考えると死ぬことすらできない。詰み。身動きが取れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます