7/2 助けて、と言うにはあまりにもぬるい地獄

 7月2日。今日も外は灼熱。クーラーをつけていても、部屋の中がけだるく暑い。


 15時から8時まで寝ていた私は、今日こそは生産的なことをしなければと思う。思うけれど、身体が重い。昨日の昼から絶食状態だからだろうか。冷凍ピザを半分温めて、ぬるい水で流し込む。

 それでも今日は、ひときわ気力がない。何が足りないのか。自分でもわからない。ぼんやりとした希死念慮が身体にのしかかる。これは不定愁訴というのだったか。身体を起こすことも面倒で、いたずらにSNSを見て時間を消費する。

 伊藤計劃の『ハーモニー』を、少し読んでは、疲れて閉じる。ひとりひとりの生命が社会的共有物と見なされる(それゆえ自殺は禁忌とされる)社会で、そんな世界に倦んだ少女の口から、人はその気になれば人も自分も殺められるということが滔々と説かれる。


 私の意識は今日、随分とそちらに引っ張られる。


 あれだけ死んだように寝ていたのにまだ眠い。本すらまともに読めない。布団に突っ伏していると襲いかかる、正体不明の息苦しさ。胸を何かが塞ぐ。今の生活にはほとんどストレスがないはずなのに。


 フォロワーさんが1500円のお小遣いをくれた。昼ご飯は余った冷凍ピザにする予定だったけれど、何か出前でも頼もうか。そう思って出前館をスマホで開いて、何が食べたいのか全くわからず、昼ご飯ひとつ決められないまま、1時間が過ぎた。

 悩んで、悩んで、食べたいものなんか何もなかったけれど、とりあえず何か食べなきゃいけない気がして、目についた吉野家をタップする。野菜を少しでもとらなきゃという理性はあって、とろろとオクラが乗った、少し高いやつにする。


 この時点で、時刻、13時過ぎ。


 昼ご飯が届くまでの間も、昼ご飯を食べてからも、何もできない。時々本を開いて、すぐに閉じるだけ。

 うつ伏せのまま、目を閉じる。どうやったら死ねるんだろう、と考える。引っ越しの手続きも、もうすぐ仕事もあるのに、死に損なったら面倒なことになるな、なんて妙に冷静な自分もいる。

 卓上の薬。今時オーバードースじゃ死ねないんだっけ。キッチンの包丁。痛そうだなあ……。ベランダ。2階からじゃ死ねない。いっそエアコンを止めてみる? 灰皿にしているペットボトルの中の茶色い水を飲んでみる? これから何かを食べるのをやめてみる?

 結局何もできない。喫煙という遠回しな自傷すら、今は暑さへの忌避のほうが勝つ。


 気づくとGoogleで、自殺の方法を調べている。


 何かがよくないのはわかっている。今の精神状態が普通じゃないってことも。だけど何が原因なのか本当にわからない。病院に行ったって病名ひとつつかない。

 誰かに傷つけられたり、つらいことがあったわけでもない。過去に苛まれているわけでもない。

 私を一番に苛んでいるのは、たぶん私だ。結果が出せないことにも、ストイックになれない自分にも苛立っている。だけどそんな自分を一番に甘やかしているのも私だ。それがこれほど重たい苦しみになるだろうか。わからない。


 出どころ不明の苦しさが、いつしか私の身体にのさばっている。


 助けてください。


 何から?


 どうやって?


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