6/29 『西洋菓子店プティ・フール』千早茜
6月28日は友達と駄弁って、だらんとして終了。
して6月29日。酷暑は相変わらず。外に出る気にはなれず、家の中で本を読む。
千早茜さんの『西洋菓子店プティ・フール』。
一見レトロで昭和チックなお菓子屋さん。内実は、頑固一徹の「菓子職人」のじいちゃんと、まっすぐにパティシエールを志す孫娘・亜樹の営む、パティスリー顔負けの技術の集約されたお店。そのお店のお菓子や主人公・亜樹を中心に広がる人間ドラマが、テーマとなったお菓子と混ざり合いながら展開される。
お菓子はどれも甘いが、ただ甘いだけではない。ぴりっとスパイスがきいていたり、フルーツの酸味があったり、チョコレートやコーヒーの苦みが秘められていたりする。人間関係も同様。この小説は「片想い」をテーマに展開される連作短編だが、どの片想いもただ甘いだけでなく、人によって酸っぱかったり、苦かったりする。
登場人物の職業も様々だ。亜樹やその後輩や「じいちゃん」はスイーツの世界にいる人間だけれど、ネイリストや弁護士、紅茶専門店のマスター、はたまた専業主婦まで、作中には様々な、そして個性豊かな人物が登場し、物語を彩る。誰もが自分の仕事に必死で一生懸命なところも、読んでいて気持ちのいいところだ。
印象的だったのは、スイーツの世界やネイルの世界が「緊急時には切り捨てられてしまう嗜好品の世界」と表現されていたところだ。小説等の娯楽もそう。あるいは、恋愛だってそうかもしれない。最低限、生命を維持するために必要なものではない。弁護士や医者のように、目に見えて社会の役に立つものでもない(作中で、亜樹はそのことで婚約者に引け目を感じている)。けれど、その一件無駄に見えるもの、いざとなったら切り捨てることのできる「余白」こそが、人生を彩っていく。
小説という娯楽を通じて、そのことに真摯に向き合った作品だった。
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