エピローグ
昨日の夜、崖から二人の男女が落ちて死んだらしい。
その男女は奇しくも俺、佐藤一郎の知り合いの勇気と希望だった。
「ああ、やっぱりな。」
そうなるんじゃないかって、思ってたんだ。
あの日勇気ときたファミレスの窓側で、俺はコーヒーを飲みながら思い出す。
あの後、俺が二人の死体の第一発見者となった。
警察は、最近事故死した未来の知り合いが死んだと言うことで、自殺と判断した。
きっと、未来が死んだと言うショックに耐えられなかった。とか思ってるんだろう。
なにも知らないくせに。馬鹿だ。
「まあ、いいか。俺だけが全て知っていれば。」
そう思い直し、俺はカバンから盗聴器を取り出す。
「筆箱に入ってるのに気づいたんだったら、スマートフォンも調べるべきだろ。」
勇気は本当に馬鹿なやつだ。ずっと前から俺に盗聴されていることに気づかないなんて。
☆
『佐藤一郎?え、本名?』
『それはよく言われるけどさ、初対面でそれは失礼じゃないか?』
大学の入学式の日、俺は勇気に出会った。…学食で。
『それにしても、よく食べるな。』
入学式ということで、学食は混んでいた。
そこで、知らない奴と相席になったのだが…。こいつ、よく食べる。
『んあ?…まあ、俺は二人分頭を使うからな。』
なんだよ、二人分頭使うって。もしかして、頭がいいのだろうか。
『そういえばさ、一郎?って俺と同じ学部だったよな。よろしく!』
ニカっと勇気は笑うと、目の前のハンバーグを食べる作業に戻る。
…こいつ、実は頭悪いんだろ。
『あ!俺のこと馬鹿にしてる顔だろ、それ!此処の入試とか僕は余裕だったんだぞ!俺には難しいけど!』
何言ってんだ、こいつ。余裕なのか難しいのかわからない。狂ってるタイプの方なのか。
…でも、面白いやつだな。
『なあ、勇気!連絡先交換するからスマホ貸せよ。』
『? まあ、いいけど。』
なんの躊躇いもなく、勇気は俺にスマートフォンを貸す。
『ほら、よろしくな。』
俺は、勇気のスマートフォンに連絡先と盗聴器を仕込んで返した。
あの後全然気づかれないから、勇気にプレゼントする筆箱にも仕込んだ。
そっちも気づかれなかった。やっぱりアイツ馬鹿だろ。
でも、あの後からだった。勇気のことを知ったのは。
ある日、空気を吸うかのように盗聴をしていると気づいた。
『あれ、こいつ日によって一人称とか性格違くね?』
…そんなわけがない。普通に馬鹿なだけか。
その時、付いていたテレビをふと見るとある特集がやっていた。
ー二重人格ー
彼らが何者なのか、どんな特徴なのかを面白半分で芸能人が説明していた。
『あれ?』
ぼんやりと観ていると、なんだか勇気の特徴にピッタリ合う。
☆
今思うと、きっとそうだったんだろうな。
勇気は、二人分ご飯を食べた。
二人分頭を使うって、そういうことだったんだ。
あの後、未来が死んだ。
勇気は寝込んで、大学で俺に会った時には、さも記憶がないと言ったふうに振る舞った。
記憶が戻る時に腕が痛むのは、未来を崖に突き落とす時に直接触れた場所だからだったんだろう?
苦しんでる勇気を見ると、全部話したくなった。
未来は、俺が殺しておくべきだったと思った。
それはなぜか?
きっと、俺は勇気が好きだった。
それが、友情か、恋慕か、単なる興味なのかはわからないが。
正直なところ、勇気はきっと壊れていた。希望も、俺もきっと普通じゃない。
…でも、この世にまともな人間なんているのだろうか?
みんな、心が壊れたまま抱えて生きているんだ。
コーヒーを一口、口に含み窓の外を見る。
ある女学生が胸に本を抱えて走っていった。
あれは、「走れメロス」だったか?
「ああ、そうだ。」
人の心は移り変わる。自分が誰だかわからなくなるほどに。
きっと、あの邪智暴虐の王が正しかったんだ。
みんなみんな、信じられない。
狂っていたのは邪智暴虐の王じゃない。
俺たちの方だったんだ。
窓の外で、灰色の顔をした人々が曇った雲の下を歩いていった。
君は誰?僕も誰? ぐらにゅー島 @guranyu-to-
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