第13話

『っ!?』

が目醒めると、目の前に赤い花が咲いていた。


『は…?』

未来?未来なのか?


『きゅ、救急車!』

慌てて、僕は携帯の番号を押す。


119は、押しやすい番号だからこの番号になったんだと聞いたことがある。

しかし、この時の僕に番号を押すのはとても難しかった。


『勇気?大丈夫?私が救急車はよんであげたから。』


後ろを振り向くと、なぜかそこには希望がいた。


『なん、で?』

どうして彼女が此処に?


『だって、勇気のことは全部知りたいから。着いてきちゃった。』

そういうと、希望は照れたように笑う。


『それなら、見てたのか!?未来がどうしてああなっているのか!』

誰が、一体どうして?


『安心して。勇気がやったなんて誰にも言わない。』


…え?


『勇気に不利にならないように私がちゃんと証言してあげる。』

だから大丈夫、と、希望は僕に笑いかける。


…未来が運ばれる時、真っ赤なワンピースを着ていたのが印象的だった。


その後の記憶はない。


ただ、沢山の花の中で、白い服を着た君がほのかに僕に微笑んだ。そんな気がした。


その白い服は死に装束で、たくさんの花は彼女と共に棺に収められていたけれど。



「全部、覚えてるよ。」

未来は最後まで綺麗なままだった。


「あれが、俺のだったから。未来は、俺に愛を教えてくれたから。」

未来は、これでどこにも行かない。ずっと、ずっと俺のことが好きなまま。


「僕たちの関係は最高の状態で続いてるんだから!」


ああ、なんて俺は幸せなんだろう。


「勇気…。」

俺の言葉を聞き、希望は肩を震わせる。


そして、顔を上げて言った。


「なんて素敵な愛なの!!」

顔を真っ赤にし、目を見開いて熱弁する。


「お互いに、一生愛し合える!これこそが永遠の愛!素敵!」

あははは、と笑う笑う笑う。


「そうだろう!」

きっと【僕】だったらこの愛をを否定したかもしれない。


でも、【僕】だって、【俺】なんだ。

本質的には変わらない。いや、同じなんだ。


俺だって、気付いてたんだ。自分がとっくに壊れてるって。

だから、【僕】が表面を取り繕った。


だって外から見て綺麗なら、それでいいだろう?


「勇気!私は勇気のそんなところが好きなの!」

何度目になるかわからない希望の言葉が響く。


「君の、そんなところが好き!愛のために、どんな手段も選ばないところが!愛する人を殺しても、幸せそうにしてしまうその冷たい瞳が!」


何度繰り返したって、俺に届くはずのない気持ちを叫ぶ。

そして、告げる。


「だから、そのままのでいてよ。ずっとさ。」

希望は、笑った。優しく俺に笑いかける。



トンッ。


そして、俺を抱き締める。希望の体重が俺にかかり、一歩、俺は後ろに足を移動させる。


そこに、地面はなかった。


ゆっくり、ゆっくり落ちていく。


俺をぎゅっと抱きしめて、未来は言う。


「愛してるよ。一生。」


ああ、これが未来が最後に見た景色なんだろうか。




…月が、とても綺麗だ。





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