第13話
『っ!?』
僕が目醒めると、目の前に赤い花が咲いていた。
『は…?』
未来?未来なのか?
『きゅ、救急車!』
慌てて、僕は携帯の番号を押す。
119は、押しやすい番号だからこの番号になったんだと聞いたことがある。
しかし、この時の僕に番号を押すのはとても難しかった。
『勇気?大丈夫?私が救急車はよんであげたから。』
後ろを振り向くと、なぜかそこには希望がいた。
『なん、で?』
どうして彼女が此処に?
『だって、勇気のことは全部知りたいから。着いてきちゃった。』
そういうと、希望は照れたように笑う。
『それなら、見てたのか!?未来がどうしてああなっているのか!』
誰が、一体どうして?
『安心して。勇気がやったなんて誰にも言わない。』
…え?
『勇気に不利にならないように私がちゃんと証言してあげる。』
だから大丈夫、と、希望は僕に笑いかける。
…未来が運ばれる時、真っ赤なワンピースを着ていたのが印象的だった。
その後の記憶はない。
ただ、沢山の花の中で、白い服を着た君がほのかに僕に微笑んだ。そんな気がした。
その白い服は死に装束で、たくさんの花は彼女と共に棺に収められていたけれど。
☆
「全部、覚えてるよ。」
未来は最後まで綺麗なままだった。
「あれが、俺の愛だったから。未来は、俺に愛を教えてくれたから。」
未来は、これでどこにも行かない。ずっと、ずっと俺のことが好きなまま。
「僕たちの関係は最高の状態で続いてるんだから!」
ああ、なんて俺は幸せなんだろう。
「勇気…。」
俺の言葉を聞き、希望は肩を震わせる。
そして、顔を上げて言った。
「なんて素敵な愛なの!!」
顔を真っ赤にし、目を見開いて熱弁する。
「お互いに、一生愛し合える!これこそが永遠の愛!素敵!」
あははは、と笑う笑う笑う。
「そうだろう!」
きっと【僕】だったらこの愛をを否定したかもしれない。
でも、【僕】だって、【俺】なんだ。
本質的には変わらない。いや、同じなんだ。
俺だって、気付いてたんだ。自分がとっくに壊れてるって。
だから、【僕】が表面を取り繕った。
だって外から見て綺麗なら、それでいいだろう?
「勇気!私は勇気のそんなところが好きなの!」
何度目になるかわからない希望の言葉が響く。
「君の、そんなところが好き!愛のために、どんな手段も選ばないところが!愛する人を殺しても、幸せそうにしてしまうその冷たい瞳が!」
何度繰り返したって、俺に届くはずのない気持ちを叫ぶ。
そして、告げる。
「だから、そのままの壊れた方の勇気でいてよ。ずっとさ。」
希望は、笑った。優しく俺に笑いかける。
トンッ。
そして、俺を抱き締める。希望の体重が俺にかかり、一歩、俺は後ろに足を移動させる。
そこに、地面はなかった。
ゆっくり、ゆっくり落ちていく。
俺をぎゅっと抱きしめて、未来は言う。
「愛してるよ。一生。」
ああ、これが未来が最後に見た景色なんだろうか。
…月が、とても綺麗だ。
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