第11話


雪が降っていた。

クリスマスも近くなったあの日、俺は未来と出掛けていた。


『勇気、今日は楽しかったー!!!』

未来は、俺のことを見て言う。


『いやー、クリスマスが楽しみだなぁ。』

白いワンピースのスカートを翻しながらルンルンで彼女は歩いていく。


『ね、勇気!』

未来は、振り返って俺に告げる。


『だ~いすき!!』

ニカッと笑う君。


『俺も、好きだよ。』

嘘だ。別に、俺は未来を好きじゃない。


そもそも、誰のことも、好きになったことがない。


だって俺は壊れているから。


未来が見ている俺は、偽りだ。

いつも、君に甘い言葉をかけても、それは全部借り物の言葉で。


…どうして、君は僕を選んだんだ?


『ねね、ごめん。ちょっとお花つんできていい?』

駅に戻ろうとしたとき未来は、そう俺に聞く。


『ああ。待ってるよ。』

りょーかいっ!と、未来は言うと、コンビニの方まで走っていった。


天真爛漫な未来を見ていると、騙しているんだと思い知らされる。


たまに、【僕】がひょっこり出てくることがあるんだ。


彼の記憶は、俺に残る。

彼の感じる、申し訳無さ、悲しさ、そんなものが伝わってくる。


俺は、未来になんにもしてあげられないから。

だから、【僕】が本当の勇気だったらいいのに、と願う。


俺に、心は無いというのに。


いわゆる、サイコパスというやつなのだろうか?


他人に感情を抱かない。大切だと思えない。そもそも、興味が持てない。


未来が俺に告白してきたとき、心底どうでもいいと思った。

でも、なんとなくOKした。


なんであのとき自分がイエスと答えたのか、未だに俺にはわからない。


『勇気。』

ふと、後ろから俺の名前を呼ぶ声がする。


『…希望?』

どうしてここに、というのは愚問だろう。


希望は、俺のストーカーだ。

別に、ストーカーされようとなんだろうとどうでもいい。


まあ、電話を毎日のようにしてくるのは面倒くさかったから着信拒否にはしたが。


『ね、勇気。私もあなたと仲良くなりたいの。』

希望は怪しげに笑う。


『まあ、ぼちぼちな。』

どうでもいい。コイツはどこか気味が悪い。


まるで、俺みたいだ。


『今日は未来と一緒なんだ。』

だから帰れ、と促すように希望を見る。


『抱きしめてくれたら、いいよ?』

希望はニヤッと笑う。


その程度で帰ってくれるなら楽なものだ。


ギュッと、希望を抱きしめる。


希望の体は、冷たかった。


『ゆう、き?』

声の方を向くと、未来が立っていた。


『なに、してるの?』

目の前の光景が信じられないといった様子だ。


コイツが抱きしめろって言ってきて、

そう、答えようとする。


『ごめんね、未来。勇気は未来のこと、好きじゃないんだって。』

それを阻むように、希望は言葉を発する。


『…そんなことないよね?勇気?』

未来は絶望的な顔をする。その顔が綺麗だった。


この場合、『そんなわけ無いだろ?俺は未来を愛してる。』と、答えるのがベストアンサー。


でも、声が出なかった。


未来は今ここで起こる事実を誤認しているけれど、


俺が未来を好きじゃないことは事実だったから。


『勇気の、バカーッ!』

涙を目にためて、君は走り出す。



…俺はその背中を、追いかける。


どうして、追いかけたのかはまだわからないけれど。

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