第10話

「なんで、ここ?」

僕は、彼女に尋ねる。


「だって、あなたは思い出さなきゃいけない。あの日のことを」

希望はぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。


「あの日、私もこの現場にいたんだ。未来が死ぬのを直接見た。」

彼女は、決定的な言葉を発する。


「未来は事故に遭ったんじゃない。殺されたんだ。」

ああ、その話は聞きたくない。


「あなたも、見ていた。わかってるんでしょう?」

希望は、僕に問いかける。


本当は、気づいていたのかもしれないな。

気づいていて、それでも目を背けたかった。


だから、記憶喪失のふりを続けたんだ。


「ごめん。全部思い出したよ。希望が好きなのは、僕じゃなかったんだよね。」

きっと、僕はここでいなくなる。


「最後に、いいかな?」

希望に、言っていないことがある。言わなきゃいけないことがある。


「何?」

心底どうでもいいと言うように、彼女は僕を見る。


「僕、希望が好きだ。」

なんの変哲もない、ありきたりな言葉。

それが、希望に届けばいいのに。届いて欲しい。


「あっそ。」

しかし、そんな望みは打ち砕かれる。


「早く、勇気に会わせてよ。」

僕に向かってそう告げる。


きっと、これは僕の失恋だったんだ。


「そっか、ごめんね。…ありがとう。」

は眠る。永遠に。



二重人格、と言うものを知っているだろうか?


大きな精神的ストレスをうけ、それに耐えるためにもう一人の人格を作ってしまうと言うものだ。


しかしには、二人の人格が生まれつき宿っていた。


主な人格の方は狂っていた。

人の涙を見るのが好きだった。友達なんて、信じなかった。好きなものは、壊したかった。人を、愛せなかった。


…壊すことしか、愛じゃないと思っていた。


もう一人が、僕だ。僕は、普通だった。

友達は百人作りたかった。彼女が欲しかった。好きな人と、愛し合いたかった。


でも、僕の好きになった人は僕を愛してくれなかった。もう一人を、愛した。



「…ああ、思い出したよ。」

は、久しぶりに目醒める。


「勇気!」

希望は、俺を見て嬉しそうにする。


「【僕】の記憶も、残るんだよなあー。」

【僕】には、俺の記憶が残りにくいようだった。それは、なぜなのかわからない。


でも、きっと壊れないためだったんだ。


記憶を辿る。あの、事件のことを思い出す。


あの日、未来は白いワンピースを着ていた。

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