第8話

「なあ、僕と今日デートしようよ。」

今日は大学は休みで、希望はいつものように僕の家に会いにきていた。一郎とあの日話してから一週間が経っており希望と話す心の準備ができた。


「え、で、デート?」

彼女は顔はりんごのようになる。

「いつも通り、おうちで デ、デートしようよ。」

希望が恥ずかしそうにするのはいささか珍しいため、じっと見ていたくなる。


「折角の休みだし、どこか出かけようよ。…例えば、僕たちが昔行った所とか。」

彼女を揺さぶる言葉を僕は吐く。


「ほら、僕の記憶も戻るかもしれないしさ」

彼女は、未来じゃない。希望だ。記憶なんて戻らないことはわかっている。


なんせ、記憶喪失になる前に、希望の携帯を着信拒否にしてあったんだ。僕たちの間に、昔何かあったんだろう。


「勇気、どうしても?」

彼女の言葉に僕は頷いて肯定する。


「…わかった。行こうか!」

希望の顔はどこか暗く、でも明るく振る舞おうとしているようだった。

それが、未来の真似をしているからなことが、悲しさを感じさせる。


僕は希望の手を取り外へ出た。偽りの思い出の場所に行くために。


以前から思っていたんだ。「記憶喪失になる前の僕」は未来が好きだった。でも、「記憶を失った僕」は未来のことが好きなんだろうか、と。


今の僕は、希望が好きだ。


未来が死んでいたと知った時、不思議と悲しくはなかった。むしろ、安心してしまったんだ。僕は、無理に未来を好きにならなくっていいんだと、気づいてしまったから。


記憶がなくなって目覚めたあの日から、希望はいつも隣にいた。僕は記憶がなくなって不安だったけど、彼女の記憶も思い出せなかったけど、それでも、それだからこそ…希望に恋に落ちたんだ。


だから、知りたいんだ。彼女が僕に隠している本当のことを。



「勇気、着いたよ。覚えてるかな?」

電車に揺られ、駅を出るとそこには記憶で見たのと同じ海があった。


「…ああ。覚えてる。」

彼女はに僕を連れてきた。そこに嘘偽りがなく、どこか嬉しく、どこか寂しく思う。


「ねえ、勇気?私の名前を呼んでよ」

希望は靴を脱ぎ、裸足で砂浜に立ち僕に背を向ける。


ザザーと海が音を立てて、それがまるで泣いているかのようだった。

きっと、これはやり直しなんだ。

あの、病室で目覚めた日。が目醒めた日の。


「希望!」

僕は叫んだ。海に向かって。

きっと、彼女はずっと気づいて欲しかったんだ。私はここにいるんだって。


「気づいてたんだ。いつからかな? 最初から、だったりしてね。」

希望は振り返らない。僕に背を向けたまま、海を眺める。


「ごめんね、騙してて。でも、後悔はしてない。」

希望はただ淡々と語る。


「なあ。なんで未来のふりをしていたんだ?どうして、僕のところに来た?」

僕は尋ねる。彼女のことを知りたいから。


「そんなの、決まってるじゃん。」

彼女は黒髪のカツラをとり、金髪を揺らしながら振り向いた。そして、最高の笑顔で言う。


「勇気のことが、好きだったから!!」

精一杯、叫ぶ。


「好きだから、側にいたいと思った。それが、例え嘘でも!勇気が見てるのは、私じゃなくても!」


彼女の目から大粒の涙がこぼれてくる。それはまるで真珠のようだ。彼女が泣いている姿はそれほど最高に綺麗だった。


僕も!僕も君が好きなんだ!

その言葉が出てこない。喉のところでつっかえてしまう。


だって、彼女は僕を見ていない。


「でもさ、勇気。まだ、あなたは思い出していないことがあるでしょう?」

彼女は一気に詰め寄ってきて、僕の耳元で囁く。


「ねえ。あなたは誰なの?」

に、そう囁く。

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