第4話
大学の授業はさっぱりわからなかった。当たり前だろう。記憶喪失もあるが、そんなことよりも考え事をしていたんだから。
「ね、勇気。友達とか、会えた?」
学校からの帰り道、僕は道が分からないから未来と一緒に僕の実家まで帰った。
「日本で一番多そうな名前の人にならあった。」
僕は上の空で答える。一郎の記憶は戻ったし、あいつは信用していいだろう。
「佐藤くんか、親友だったもんね。」
何故わかるんだ。突っ込みたいのは山々だが、未来も「あの日海にきていた」のなら知ってて当然か。
「なあ、僕たちが出会ったのはどこでだっけ?」
僕はとぼけて聞いてみる。
「もう、何回も言ってるじゃない。大学の学食で勇気が話しかけてきたんだって」
はにかみながら、未来はそう言った。
彼女は嘘をついている。
あの記憶は、確かに僕のものだと思う。
でも、おかしいんだ。あの記憶の中で、僕が知っている未来は「金髪」だった。
…状況を整理しよう。
今、僕の隣で笑う未来は黒髪ロング。目がぱっちりとした二重をしている。口元にあるほくろが可愛らしい。
一方、僕の記憶の中の【未来】も黒髪ロング。
しかし、彼女は切長の黒目で、口元にほくろはなかった。シャープな見た目をしているが、意外にも弾けるように話す女の子だ。
顔の特徴や、性格の面から見ても二人は別人だと考えていいだろう。
そこで記憶の中の、もう一人の女の子にフォーカスを当てる。希望だ。
彼女は金髪のショートボブで、大人しめの印象。目元はぱっちりとした二重で。口元にはほくろがあった。
「未来と同じ特徴なんだよな…。」
この情報からなる仮説が一つある。希望と今僕の隣にいる未来は同一人物、ということだ。
「意味わからねー…。」
でも、こいつは記憶喪失になる前の僕の彼女とは別人物。それは間違いない。
まさか、希望が未来と入れ替わっているのか?なんのために?
「ねえ、さっきからぶつぶつ何言ってるの?」
未来?が僕を怪訝な表情で見てくる。やばい。口に出ていたか。
「いや、未来の髪は綺麗だなと思ってさ。」
ここは上手く誤魔化そう。
「えっ!…あ、ありがと?」
未来は耳をほんのり赤くする。
「髪触ってもいいか?」
僕は彼女にそう言う。
「まあ、いいけど…。ちょっとだけね?」
僕の触れた髪は冷たくて、何処か無機質なものだった。
…まるで作り物の髪の毛のようだ。
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