第128話 魔族の起源
『殿下、お客人をお連れしました』
執務室に連れられた私は、真面目に作法に則った挨拶をするかどうか一瞬だけ迷ったけど、今更取り
「ハイエルフのワインのテイスティングのついでに見物に来たわよ」
『ははは、そのような事をする人間は其方だけであろうな』
手元の書類を片付けて部屋に据え置かれたソファーに座るように促してくるジルギウス王子に従いソファーに体を預けた私は、質の良いクッションに驚く。
そんな私に、対面に座るジルギウス王子は、ゆったりとした口調で話しかけてきた。
『あいにく魔族と人では飲食するものに差がありすぎるので、ワインや茶などのもてなしはできないが、ゆっくり物見遊山でもしていって欲しい』
言葉や仕草の端々に現れる理性的で教養に溢れた様に、有翼族も含めた他の種族との歴然とした差を感じた私は、思わずストレートに聞いてしまう。
「魔族は随分と文明が進んでいて理性も備わっているようなのに、どうして有翼族と争っているのかしら?」
『端的に言えば、我らが神仙石を主食とするからだ』
神仙石は浮島の岩石に多く含まれる。それを長い年月をかけて摂取し続けたことで、北半球の浮島がなくなり、濃い
「そ、それは・・・色々な意味で驚きね。神仙石は、どう消化されるのかしら」
『正確には神仙石そのものではなく、神仙石を体内に取り込むことで、
つまり魔族の栄養素はその名の通り魔素だけど、必要量を吸収するには
「随分と不思議な生態をしているのね。他の生物と全く違う進化を辿っていると言っていいわ。まるで宇宙人みたい」
『半分正解だ。我らの遠い祖先は、第四惑星プルースから移住してきたのだ。同じ恒星系だから宇宙人と言われると違和感を感じてしまうがな』
「ええ!そんなことあり得るの!?」
詳しく聞いたところ、遠い過去、気候変動によりプルースに氷河期が訪れ、惑星全体が凍りついた際、創造神様の導きにより祖先がガイアに移り住んできたという。
『そういえば、ずっと前には第四惑星にも行くことができたって、お母さんに聞いたことがあるよ!今ではラインは途切れていて行けないけど』
フェンリルちゃんの言葉に、以前、二重惑星以外に第四惑星にも、赤道付近に生命が存在していると青龍に聞いたことを思い出した。あれだけ離れていればさぞテラやガイアとは違う環境なのだろうと想像を巡らせていると、ジルギウス王子はさらに詳しい事情を話してくれた。
『プルースでは大量に存在する聖魔石を食料としていたが、ガイアでは神仙石と大気中の魔素に分離してしまっている。そのため大気中から魔素を取り込む必要があり、聖魔石より多くの神仙石を摂取してロスをカバーしなくてはならない』
北半球の浮島の神仙石を食べ尽くして、南半球も浮島が無くなってしまったら、その時点で魔族も有翼族も生存できなくなるという。つまり、いくら魔族が理知的で有翼族が信仰の厚い種族であろうとも、絶滅の危機をかけて互いに争うほか道はないらしい。
『有翼族からすれば、我らは後からガイアにやってきた外来種だ。それを考えれば、本当は我々が素直に滅びを受け入れるべきなのかも知れないな』
『ジルギウス王子!そのような弱気な事を仰られてはなりません!』
自嘲気味に笑うジルギウス王子に側近の魔族が
「神仙石なら作れるわよ?なんだったら聖魔石も」
そう言って、魔法鞄から神仙石や聖魔石の純結晶をいくつか出して見せた。
『馬鹿な。今や城にも
唖然とするジルギウス王子に、私は神仙石や聖魔石の製造プロセスを説明していく。
「神仙石は地上の大量の土砂から抽出するか、あるいは創造神様に祈って
そこでいったん言葉を区切り、その場で錬金術により神仙石と魔石を融合して聖魔石を作ってみせる。
「この通り、聖魔石の出来上がりよ」
『長年の懸案が、こんな簡単に・・・』
そう言って生成した聖魔石を震える手で拾い上げるジルギウス王子に、親指を立てて一件落着と笑いかける。
「浮島だって浮かべる岩盤を用意すれば、以前にみせたリゾート・アイランドみたいに人工的に作れるわよ。これで有翼族と生存をかけて争う理由はなくなったわね!」
『これを魔族に供給してくださるのですか、使徒殿!?』
私は側近の魔族の使徒呼びに眉を寄せると、もう少しフランクに接してもらうようにお願いする。
「使徒殿はやめて。私はメリアスフィール・フォン・フォーリーフという名前があるんだから、普通に名前で呼んでちょうだい。祭り上げられるのが嫌だから有翼族から隠れていたのよ」
『わかった。だがメリアスフィール殿、何を対価とすればよい』
食べ物や飲み物は人間と違うし、人間との交流もないから通貨も難しい。住む場所すら、浮島を丸ごと占有している私に対して、支払う対価が思い付かないという。
「それなら、図書館とかで魔導回路を学ばせて欲しいわ!電気回路や電子回路の技術と似たようなものと仮定して、それを一から確立していたら、百年くらいかかりそうだもの」
そう言って、ここにくる途中で街灯の制御に魔導回路を使っていると聞いて、便利そうだから、しばらく滞在して学習するつもりでいたことを説明した。
『そんな事でよいのか?だが、人間とは言葉や文字が違うので、本を読めるようになるのに時間がかかろう。魔導技師を呼ぼう』
「それはありがたいわ。文字に関しては、魔族の誰でもいいから言葉と文字の対応を頭に思い浮かべてもらって青龍に水鏡を通して見せてもらえば、錬金術の応用で高速学習できるわ」
その後、基本的には惑星テラの一王国の貴族であり、錬金薬師で生活の主体もそちらにあることや、ガイアの人間の文字もこちらにきてから学習したことを話した。
ハイエルフのロイドさんに聞いた話では魔族の寿命もハイエルフ並に長いようだから、明かしても差し支えないと思い、六重加護でほぼ不老になったことで人間社会でやっていけなくなった時の事を想定して、こちらでも暮らせる基盤を作ろうと浮島を作った事を話して聞かせた。
『そうか、そなたは別の惑星から来たのだな。住む場所が必要であれば、こちらにも邸宅を用意しよう。人間社会のように寿命の違いを気にすることは無くなろう』
「ありがとう。でも、そんな大きな場所は要らないわ。こんな風に瞬間移動できるから」
私はジルギウス王子と側近の魔族に断りを入れて、フェンリルちゃんに翡翠の城のバルコニーに転移してもらう。
一瞬で変わった周囲の風景に驚きながら、ジルギウス王子は言葉を続けた。
『・・・なるほど、我らが祖先はこのようにして、ガイアに来たのだな。しかし、これはまた随分と美しい住まいだ』
そう言って翡翠でコーティングされた城を眺めるジルギウス王子。
「石造りの建物なら、玄武、いえ地の神獣の術で好きな材質でコーティングできるわ。この城も大昔に打ち捨てられた古城だったけど、新品同様にリフォームしたのよ」
『そういうことならちょうど良い別荘があるので、そちらを進呈しよう。掃除や手入れをする使用人もいるので、そのままつけよう』
そこまでしてもらうのは何だか悪い気がするというと、神仙石や聖魔石の対価としては安過ぎるというので、それならと素直に受け取ることにした。
「わかったわ。じゃあ、その別荘で魔導回路の本でも読みながら、有翼族との和解交渉に使う神仙石や食用の聖魔石を量産していくから、適宜、必要な場所に運んでちょうだい」
『すまない。我らが魔族は、そなたに受けた恩を未来永劫、忘れることはないだろう』
こうして、私は魔族の国で神仙石や聖魔石を量産しながら、魔導回路を学ぶこととなった。
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