第124話 ハイエルフの里
『こんなすごい物は受け取れません!』
壊してしまった馬車の代わりとして、キルシェで使っていた頑丈にする前のキャンピングカーを
「ちょっと馬より早く走れて揺れが少なく、中の居住空間が多少広くて冷暖房が効いて、居間に寝室、キッチンスペースや冷蔵庫、バス、トイレが付いているだけの普通の蒸気馬車よ」
「なに一つとして普通じゃないだろ」
そんなこと言っても、ガイアに来て通常の三十倍の空間拡張の魔石が作れるようになった今となっては、キルシェを旅した頃のキャンピングカーの居住スペースは、それほど広い空間とは感じなくなっていた。
とりあえず里に着くまでは一緒の馬車に乗るということで、馬車の客室を使ってもらう。
『なんで馬車の中に客室や通路が・・・』
「えっと・・・そう、魔法よ!」
『そんな魔法は千年以上生きてきても聞いた事がありません!』
二十歳くらいに見えるライラさんが、実は千歳以上という方が私にとっては驚きなんだけど。
でもそうね。それほど長生きで善良な性格をしているというのなら、なにも隠し立てしなくてもいいのかもしれない。
「錬金術で空間拡張しているの。実はこの惑星と対を成す別の惑星からやってきたのよ」
『そうだったんですか、そちらでは不思議な術を使うんですね』
「・・・」
あっさり話が通じすぎる。普通、惑星ってなにとか、もっと色々聞かれるかと思ったけど、少なくとも惑星という概念や双子惑星の存在を知っているということになるわ。
そう思って疑問をぶつけたところ、意外な答えが返ってきた。
『ハイエルフの里では天文学を教えています。もう一つの惑星は、里にある望遠鏡で小さい頃によく見ていました。馬無しで動く自動車という空想の乗り物も聞いたことがあります』
これは・・・居たのね、転生者。よく考えたら、惑星が二つあって片方だけに知識を持った転生者を送り出したら不公平というものだわ。でも、そうであるならば期待できそうね、長い寿命を生かした長期熟成ワイン。
『あ、そこの分かれ道を右に行った先の森にハイエルフの里があります』
ライラさんが指差す方向に、
「ひょっとして、誰か加護持ちがいるのかしら?」
『え!どうしてわかったんですか!?』
「
『加護持ち以外は無理ですね。魔族に次ぐ魔素に適応した種族ですから』
そうすると魔族も見れないはずだけど、浮島に来た魔族は特殊ということかしら。それはさておき、こんなわかりやすいところにいたら有翼族がすっ飛んで来そうなものだけど、魔族のお膝元ということで手が出せないのかもしれない。
そんなことを考えていると進行方向から警告するような鋭い敵意を感じた。私はライラさんとの会話を中断して運転席に移動すると、ブレイズさんに注意を促す。
「前に誰かいるわよ。警告みたいだけど」
「わかってる。右の樹上に一人、左の木陰に一人、さらに奥に二人いるな」
そう言ってキャンプカーをとめたブレイズさんがナイトソードを片手に出ようとすると、ライラさんが制止する。
『待ってください!あれは里の見張りです。私が話してきます』
私とブレイズさんは顔を見合わせ頷き合うと、ライラさんを見送った。ライラさんが木のそばまでいくと、隠れていたハイエルフたちが出てくる。
『ライラか。長老が
『わかったわ。二人、人間のお客さんがいるから攻撃しないでね』
魔法による意思疎通だからかもしれないけど、遠くの会話でも認識することができた。というか、
とりあえず危険はないと判断して、ブレイズさんとキャンピングカーから出て挨拶する。
「こんにちわ。あの、その
『なに?まさか人間の加護持ちか!』
『メリアさん、加護持ちだったんですか』
私は軽く頷いた。でも、相手に見えないから証明しようがないけど、どうしよう。そう思案している最中に、ハイエルフたちは特に疑うこともなく緊張を解いた。
そんなハイエルフたちの様子を不思議に思って問いかける。
「ハイエルフの人たちは
『千年、二千年と生きているのだ。人間が嘘をついているかなど見ればわかる』
ハイエルフにしてみれば百歳も二百歳も赤子のようなものなのだとか。嘘偽りが全く通じないとなると、やましい考えを持つ人間は付き合いづらいでしょうね。
まあ、それならそれで、ストレートにこちらの目論見を話すだけだわ。
「なるほど!それなら話は早いです。鳳凰が絶賛するハイエルフのワインを飲みに来ました!」
『お前さん、あの
『ああ、ワインを樽ごと空けたキンピカか!なるほど、開き直る性格がそっくりだ!』
ひどい。鳳凰の呼び名や扱いもひどいけど、そんな鳳凰とそっくりな性格だなんてショックだわ。
『もう、失礼ですよ!メリアさんがショックを受けてるじゃないですか。そこは年長者らしい気配りで、オブラートに包んでおくところでしょう』
『おお、すまん。人間にしては、あまりにも明け透けだったもので、つい、な』
そう言って読めないアルカイック・スマイルを浮かべるハイエルフたち。思っていることを隠されているかと思うと、それはそれで、気分が悪いわ。
「いえ、オブラートに包んだり気を遣ってもらう必要は一切ありません。さっきの調子でお願いします」
『ふっ、だろうな。ほら、ライラ。余計な気を回す必要はなさそうだぞ!』
そう言って和気藹々とした雰囲気で話すハイエルフたち。まさか、ここまでエルフと違うとは思わなかったわ。長老に会えば、その辺りも聞けるかもしれない。
そんなことを考えつつ、ライラさんの案内でハイエルフの里に入っていった。
◇
ハイエルフの里に入ると、念のため、私以外の発生源がないか
私の接近を感知したのか、目の前の木造の住居から出てきた
『こいつはたまげたわい。六重加護に土の女神と風の女神の神器じゃと?』
長老さんも、あの魔族と同じように鑑定できてしまうようね。それにしても、あの見た目でお爺ちゃん言葉とは、なかなかシュールだわ。
そんな考えを振り払って、まずは自己紹介をする。
「はじめまして。この惑星と二重惑星をなす惑星からやって来た、メリアスフィール・フォン・フォーリーフです。メリアと呼んでください」
『儂はロイド・ユグドラシル、ロイドと呼んでくれい。大したものはないが、お茶でも出そう。中に入るがいい』
ロイドさんの後について家の中に入り障子戸を開けると、二十畳以上ある広い部屋に畳が敷かれ、中央に茶釜が据えられている、完全な和室だった。
ロイドさんに続いて靴を脱いで上がり、座布団の上に正座して座ると、長老は抹茶を淹れ、私の前に茶碗を差し出した。
「お先に」
「ん?おう・・・」
隣のブレイズさんにことわりを入れたあと、長老に挨拶をする。
「頂戴いたします」
その後、右手で茶碗をとり、左の手の平にのせ、茶碗を二手ほど手前に回して一口飲んで味わう。くぅ・・・この抹茶、完璧過ぎるわ!
「結構過ぎるお手前で」
型通りの作法に抑えきれない感嘆の念が混じってしまうと、長老は大笑して手を振った。
『ほっほっほ!作法など気にせず好きに飲むがよい』
お言葉に甘えて膝を崩すと、今度は
「すごいわ。私が作った
「ああ。お前の作るもんはどれも美味いが、こいつは次元が違うのが俺でもわかる」
『ほっほっほ。何千年も同じものを作っておれば、誰でもそうなるわい』
何千・・・そうだったわ。ハイエルフはただでさえ寿命が長いのに、加護を受けていれば更に二、三倍の寿命になるはず。それなら、そんな年月を生きていても不思議ではないわね。
そんな長い年月を生きたら精神が摩耗しそうな気がするけど、ハイエルフたちを見ると意外に楽しく生きているようで、長い人生について漠然とした不安を感じていた私は、少し安心してしまった。
そうして、お菓子を食べて人心地ついたところで、
「有翼族はここまでやってくるのかしら?」
『あやつらは加護持ちと見ると、誰彼構わず神殿に連れて行きたがるからの。メリアちゃんも見つかったら大変だぞい』
「実は・・・」
そこで、南の島で見つかって大規模なトルネードで追い返し、今は隠蔽結界を施した移動可能な浮島を作って引っ越したことを話した。
『人工的に浮島を作り出すとは凄まじいのぅ』
「平穏無事に過ごせる場所は確保できたので、今はこの惑星で美味しい食材を探索中なんですよ」
それから、私の代わりに鳳凰に惑星を見て回ってもらい、ハイエルフの里で美味しいワインがあることや、魔族の街が綺麗で文化的なことから北大陸にやってきた経緯を話す。
『あの神獣はメリアちゃんの使いじゃったか。酔い潰れてぶっ倒れたと、若い衆が急いで運んできた鳥が
なんでも、飲み過ぎでしばらく長老のところにお世話になっていたらしい。水鏡で映した時は鳳凰の意識はあったけど、実は続きがあったのね!
「それは大変失礼しました。お代は必ずお支払いします」
『よいよい、むしろ刺激になって楽しい毎日を過ごせた』
その後、ロイドさんは親切にも鳳凰が訪れたというワインの酒蔵に連れていってくれ、とっておきというワインを試飲させてもらった。
そして私はそのあまりの美味しさに我を忘れ・・・酔い潰れて意識を失った。
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