第123話 鳳凰探索結果と北大陸訪問
夏も終わりに近づき秋のコーデのデザインが終わる頃、ガイアの各地を見回っていた鳳凰が帰ってきた。
『だいたい見回って来たわよ』
ちょうど三時のおやつを作っていたところだったので、焼きあがったパンプキンパイを切り分け、紅茶を飲みながら鳳凰が見てきたガイアの各大陸の様子を青龍の水鏡でみんなで鑑賞することにした。
「今いる南大陸以外には、中央大陸と北大陸しかないのね」
中央大陸の北に広がる森に例の金髪のエルフたちが、その南の平原には人間、火山区域にはドワーフがいて鍛冶仕事をしていると。中央大陸はガイアに来た当初、ところどころ転移して回ったけど、想像していたよりもずっと広い大陸なのね。
中央大陸と比べて小さな北大陸の映像には人間はおらず、ドワーフと・・・白銀の髪をしたエルフが映っていた。
『ハイエルフなんですって。中央大陸のエルフと違って温厚な性格をしていたわ』
映像には、鳳凰を見て木の実を与える優しそうな顔をしたエルフの女性が映っていた。環境の違いなのか種族差なのかわからないけど、中央大陸にいるエルフと北大陸にいるハイエルフは別物と考えてよさそうね。
その後、上空の様子が映し出され、北大陸付近の上空の浮島にいる魔族の街や、南大陸の上空の浮島にいる有翼族の街の様子が見てとれた。有翼族の浮島にはギリシア神殿のような石造りの建物が見えるけど、近代建築は見当たらず、素朴な生活を営んでいるようだ。
そんな街の様子を上空から見ているうちに有翼族に見つかったのか、追いかけ回される場面が映し出される。
「もの凄い形相で追いかけてきてるわね。捕まらなかったの?」
『私より早く飛べるわけないでしょ。網なんて持って来て失礼しちゃうわ』
映像を見るとグングンと距離を離されていくうちに途中で諦めたようだった。魔族の街の上空は悠々と飛べていたのに意外だわ。
その魔族の街を、もう一度リプレイしてもらう。浮島の後ろに広がる水平線と落ちゆく夕日を背景に、夜景に浮かぶオレンジ色の街灯は、なかなかに美しい。
「文化レベルは魔族が一番高いみたいね」
魔石がないから魔道具によるものではないのでしょうけど、よく見ると火を灯しているわけではなく、何かしらの方法で魔力による街灯を維持しているようだった。一定時刻を過ぎるとポツポツと消えていく様子から、何かしらの仕組みで制御していることが伺える。
意外に、近代的な生活を送れるのかもしれないと、俄然、興味が湧いてきたわ。
「どうでもいいが、酒はなかったのか?」
『それが、あったのよ!北の大陸にいたハイエルフが作った百年物のワインは、信じられない味がしたわ!』
ブレイズさんの言葉に興奮気味に語る鳳凰に合わせて水鏡の場面が切り替わり、古い酒蔵でワインセラー見学のように樽からワインを注いでもらって呑んだくれる鳳凰が映し出された。酔い潰れる鳳凰を介抱する様が、神獣らしからぬフリーダムさを
『前後不覚ではないか。神獣ともあろう者が
『火の女神様に献上するに相応しいものを選んでいたのよ』
前から思っていたけど、やっぱり青龍と鳳凰の性格は正反対のようね。それはさておき、
「ハイエルフ、浮島に来てくれないかしら。すごく本格的なワインの作り手だわ」
「百年物のワインはそんなにうまいのか?」
「想像通りの出来栄えなら、ウィリアムさんのところのお酒が一瓶で金貨一枚くらいの値段として、最低、百枚以上の価値はあるはずよ」
「そんなにか!」
百年かけたからと言って必ずしも美味しくなるとは限らないけど、鳳凰の様子から別格であることはわかる。行くしかないわね、北大陸!
「準備をして北大陸のハイエルフや魔族の街に行きましょう!」
お酒に釣られたのか、普段はストップをかけるブレイズさんも力強く頷いた。
◇
「キャンピングカーに乗って旅をするのも久しぶりね」
神獣を引き連れて空を移動したのでは、どうか見つけてくださいと言っているようなものだということで、北大陸の南端の街道に着いた後は神獣たちには浮島でお留守番してもらい、久しぶりに陸の旅を楽しんでいた。キルシェは北欧の
カナダのような冷涼地のワインとなると、樹上で凍ったブドウを使用するアイスワインとかが楽しめてしまうかもしれない。カナダと似たような気候なら、メープルシロップにサーモン、後は意外にマツタケも期待できるはずよ。
そんな妄想に耽っているうちに、ブレイズさんから鋭い声がかかる。
「お客さんだ、大物だぞ」
キルシェの経験を活かして蒸気馬車を頑丈にしたから、ちょっとやそっとなら襲って来ても、そのまま走行できるはず。
そう思って顔を上げると、レッサーファイアードラゴンと思しき竜が道を塞いでいた。ブレスは吐いてこないけど、体格的には若いドラゴンくらいあり、さすがに素通りはできそうにない。味は、筋が多過ぎて美味しくなかったはず。
「どうせならレッサーじゃないドラゴンに来て欲しかったわね」
とはいうものの、テラと同じとは限らない。もしかしたらレッサーでも美味しいかもしれないから、冷凍保存と行きましょうか。
「来たれ、
脇差を呼び出して凍らせてやろうとドアに手をかけると、ブレイズさんからストップがかかった。
「だから、自分から猛獣の前に飛び出していくな」
「美味しいかもしれないから、凍らせたいのよ」
「ほう、なら俺が行くからそいつを貸せ」
私が素直に召喚した脇差を渡すと、ブレイズさんは運転席から外に飛び降りた。そのままレッサーファイアードラゴンの前に向かって行き、抜刀して上段に構えて地脈の力を集めたかと思うと、一気に振り下ろすのが見えた。
「ちょっと!地龍なんか撃ったらダメよォ!」
バッキャーン!パラパラ・・・
そんな私の叫びも虚しく、一瞬で凍ったレッサーファイアードラゴンは、強烈な冷気から僅かに遅れて届いた地龍の衝撃波の前に粉々に砕け散り、あたり一面にダイヤモンドダストのような氷の結晶が降り注いだ。
「・・・嘘だろ?」
「何やってるのよ!レッサードラゴンのステーキが食べられなくなったじゃない!」
「この短い刀が、ここまで威力があるとは思わなかった」
「刀の威力じゃなくて、極低温に凍らせた物に衝撃波を喰らわせたら、大抵のものは粉々になるわ。レッサーじゃない普通のドラゴン用に調整してあるんだから軽く振るうだけで十分よ」
そう言いつつも、今回はブレイズさんが使ったことない武器だから仕方ない。そう自分を納得させると、私は脇差を送還した。
その後、ブレイズさんと共にキャンピングカーに戻ろうとしたその時、側の木陰から白銀の髪をしたハイエルフの女性が姿を現した。
『立ち往生をしていたところ、ドラゴンを倒していただき、ありがとうございます』
助けたつもりはまったくなかったというか、全然気が付かなかったわ。ハイエルフは気配を消すのがうまいのね。
「大したことはしていないわ。でもそれだけ隠れるのが上手ければ、やり過ごして先に行けばよかったんじゃない?」
『馬は食べられてしまいましたが、少し先に荷を乗せた馬車が・・・ない!?』
先ほどまでドラゴンがいた場所の少し先であたふたとする様子に、先ほどの攻撃でドラゴンもろとも、ドラゴンの影に隠れていた馬車も粉々に吹き飛ばしてしまったことを悟る。
(これからハイエルフのところに行こうというのに、そのハイエルフの馬車を粉々に吹き飛ばしてどうすんのよ!)
(仕方ないだろ!あの位置じゃ見えなかった!というか、その刀が強力過ぎるのがいけないんだろうが!)
などと小声でやり取りしたけど、元々、ガイアの人たちとの意思疎通は魔法を介していたことから、声量に関わりなく丸聞こえだった。
『あの・・・過ぎてしまったことは仕方ありません。厚かましいお願いですが、里の近くまで馬車に乗せていただけませんでしょうか』
「わかったわ。実はワインが美味しいと聞いて訪ねるところだったから、里まで一緒に行きましょう」
こうして、期せずしてハイエルフを旅の道連れとして、最寄りの里に向かうこととなった。
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