第122話 聖魔石の活用方法
アトリエに戻ると、さっそく神仙石と魔石の組み合わせた性質について研究していくことにした。まずは激しい反応を起こさないか、安全性を確かめるために神仙石と魔石をカチカチと重ねあわせる。
「特に何も起きないわね」
それぞれ結晶化した段階では安定して存在しているようで、激しい反応を起こすことはなかった。
ダイオードやレーザー素子なんかも別に重ねあわせただけで何か起きるわけでもないけど、
そう思った私は、神仙石と魔石を常温鋳造で成型してPN接合のような結晶接合面を作り出し、両端にミスリルの端子を付けた素子にして、電気を流したり 神仙石や魔石と接合してみたりしたけど何も起きなかった。
電気・電子とは違うかと私が両端の端子を触ると、結晶接合面からメスの先くらいの光の刃が発生した。試しに色々と切ってみると、金属でもなんでもスパスパ切れることがわかった。なかなか便利な加工道具になりそうね。
「私が神力と魔力を併せ持つからかしら」
電気ではないけど、電流が流れるのに電子だけでなく対となる正孔も必要とするように、神力と魔力両方が何かの力の流れに必要と仮定するなら、神仙石と魔石を融合させれば両方を持つ何かができそうだわ。
ものは試しと、さっそく錬金術で合成してみることにした。
「液化、合成、一様化、結晶化・・・」
液化合成後に結晶化した紫色の正二十面体の結晶を鑑定してみると、
聖魔石:神力と魔力を兼ね備えた原初の力を宿す石。
性質的には期待通りのものができていた。神仙石単体のように浮き上がる様子もないし、二つ合わさると安定するのかもしれないわ。
そんな事を考えながら、さっそくミスリルの導線を二本接合してみたところ、両方の端子から
「魔力を取り出す場合は違う端子が必要なのかしら」
そう思ってアダマンタイトやヒヒイロカネ、銅、銀、金、鉄など、色々な材質で端子を作って確かめてみたところ、重魔鉄を接合させると魔力を引き出せることがわかった。
そこで、先ほどの神仙石と魔石の疑似レーザー素子の端子のうち、魔石と接着するものを重魔鉄に変更して聖魔石と素子を重魔鉄の導線で繋ぎ、ミスリルの導線をレーザー阻止の端子にスイッチ感覚で接続させた直後、
バンッ!
◇
「あいたた・・・」
手元の聖魔石を見ると、接着した動線が途中で溶けたように断線していた。大電流を流す時には太い導線が必要とされるように、流れるエネルギーに対して細過ぎだのかもしれない。おかげでヒューズのような働きをして大事故にならず助かったわ。実験する時には、地の女神の盾が必須になりそうね。
「どうした!?」
壁に弾き飛ばされた際に生じた大きな音で異変に気がついたのか、ブレイズさんが居住スペースから飛び出してきた。
「なんでもないわ。ちょっと実験に失敗しただけよ」
そう答えて、先ほどの実験で少し切ってしまった指にポーションをかけて治していると、小型化した青龍が窓から部屋に入り、念話を送ってきた。
『
青龍の言葉に光が直進した方向の壁をよく見たところ、針の穴ほどの穴が空いているのが確認できた。危ないわ、レーザービームみたいじゃないの。幸い、穴が空いた先に民家はなかったから、被害は出なかったけど、一歩間違えれば歩行者を撃ち抜いて即死だったわ。
「神仙石と魔石を合成して聖魔石というものを作ったのよ」
そう言って聖魔石と神仙石と魔石で作った疑似レーザー素子を見せ、電気でレーザー光が発生する概念に当てはめて、神力と魔力が励起状態から基底状態に移るエネルギー差をレーザーのように出力させようとしたことを説明し、先ほどの実験を思い浮かべて水鏡に投影してもらった。
『これは空間が歪んでいる?』
「なんだかレーザーとは違うものみたい」
無反動ではなく強烈な反動があるとなると、光以外にも見えない何か重量があるものが発生しているのかしら。次にやるとしたら、台座に固定しないと駄目ね。
そんなことを考えていると、フッとフェンリルちゃんが部屋に転移してきた。
『メリアお姉ちゃん!さっきガイアとテラを繋ぐ道と似たようなものが数秒だけできていたよ!』
詳しく聞くと、次元を隔てた先に一時的に神力の道が出来ていたらしい。繰り返し撃ち続けて道を作り続ければ、転移を繰り返して遠くの宇宙まで行けるのかしら。あるいは、先ほどの反動を継続的に利用すれば、強力な推進装置として使えるかもしれない。こうなってくると、私の理解の範疇を超えているわね。
私は強力な聖魔レーザーメスに聖魔推進装置、それから人為的に神力の道を作ることによる転移の可能性が見えたところで、一旦、神仙石と魔石の組み合わせの研究を中断することにした。
◇
「この聖魔レーザーメスというか次元刀やばいわね」
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
フェンリルちゃんの見立てだと空間ごとぶった斬っているようで、サイズを極小に抑えた聖魔石で発生させた次元刀は、文字通りなんでも切れてしまう。見た目はレーザーブレードで某ハリウッド映画に出てきそうだわ。
唯一、神器だけは高次元に本体があるから次元刀の刃を受けることが出来るというけど、とても試す気にはなれない。
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
「そのやばいものを、さっきから草刈りに使っているのはどうなんだ?」
「どんな危険な武器も、使い手次第で便利な道具に早変わりよ!」
「使い手次第で危険になるの間違いだろ」
別にいいじゃない。斬撃を飛ばす草薙の鎌より、光の刃として間合いが可視化されている分、使いやすいのよ。
それに、
「広すぎるわね、ガイアの浮島」
翡翠の城の周りは、運河の整備を終えた玄武の手によりメリアスティの街の水路が完全再現されており、万人単位で住める広さだ。でも、テッドさん以外には生産職は招いていないし、寂しい風景が広がっている。
「そうだな。今更こじんまりとした雑貨屋を始めた時は首を傾げたもんだが、ホルキスの街のアトリエの方が住みやすく感じるほどだ」
鳳凰の探索結果次第では、一部の困窮している種族を招いてもいいかもしれないわ。エルフは駄目だったけど、ドワーフとかモノづくりが得意そうじゃない。
あんまりテラ人をこちらに連れてくると検疫が大変でしょうし、技術に明るい人たちをこちらでも探しておかないといけないわね。
「そういえば、前に会った魔族が歓待してくれるって言ってたけど、気兼ねなく過ごせるようなら行ってみるのも一興かしら」
エルフの変遷を語れる程度に長生きなのでしょうし、寿命差を気にしなくて済む分、意外に快適だったり食文化が発展しているかもしれない。
そう思って、魔族の男に渡された短剣を魔法鞄から取り出して眺めていると、ブレイズさんが懸念を表してきた。
「やめておいた方がいいと思うがな。その短剣、作りが良すぎる」
「良すぎるというと、高位の人物ということ?」
ブレイズさんは私の疑問に頷くと、短剣の柄頭を示して王族が好みそうな装飾だという。確かに竜が向き合う紋章を採用する貴族なんて、覚えがないわ。というか、
「ガイアにもドラゴンがいるなら、期待していいのかしら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます