第65話 キルシェとの通商条約締結
竜騎士団団長のドレイクは、竜達を見回す目の前の少女に困惑していた。
驚くべき事だが、騎竜たちが取った一連の行動は、竜の
ふと教皇の方を見ると、私の目線に気がついたのか、例の少女を目線で示しながら、ゆっくり
そう自分に言い聞かせドレイクは気を引き締めた。
◇
「あらためまして、私は本件におけるベルゲングリーン全権大使を務めますエーレンです」
「よろしく頼む、本件に関してキルシェの全件大使を務めるドレイクだ」
エーレンさんとドレイクさんが教皇様の間に立って握手を交わす。なぜか私はベルゲングリーン側ではなく教皇様の隣に座らされていた。なんでよ!
「まず前提として、フィルアーデ神聖国はメリアスフィール様が推進される通信網敷設に関して全面的な協力をすることを第九十五代教皇フィアデル・ヨハン・エインヘリアル・デア・フィリアの名にかけて宣言します」
教皇様が両国の話し合いの前に通信網敷設の協力を宣言した。いつ、私が推進することになっていたのだろうと首を傾げるも、
「ベルゲングリーンとしては、両国間の友好と通信網を利用した新しい商流を用いた両国間の互恵的な貿易のため、通商条約の締結と通信網敷設の協力を申し出る所存です」
エーレンさんは、フィルアーデ神聖国を経由した光ファイバーの敷設により、特定の光信号で光報が送れることを通信信号の対応表を交えながら説明し、短い光ファイバーを通してギルド証で決済ができる様子を見せることで、遠隔決済が可能となる利点を説いた。
「これは素晴らしい!貴国ではこのような技術が普通に使われているのか」
「現在はエープトルコ、スポーン、ベルゲングリーンの三国間、そしてフィルアーデ神聖国まで一気通貫する通信網が既に築かれています」
そう言って現状を説明していくエーレンさんに感心する様子のドレイクさん。どうやら、私の出番は無いわね。まあ、来る前からそう思っていたわ。
やがて条約内容に問題ないことの確認が終わると、神の前で条約締結するということで、例の神様の像が立ち並ぶ礼拝堂に向かい、そこで調印する事になった。
「あ、教皇様。神酒を作ってきたのでお供えしてもいいですか」
「ええ、もちろんですとも!」
許可をもらった私は礼拝堂に入ると、創造神様の前の台座に神酒を置いて目を閉じると祈りを捧げた。
(日本酒で作った神酒です。これから洗練させていきます!)
<楽しみにしている>
返事が聞こえたような気がしたので目を開けてみると、また像が半端なく光っていた。よし、これでいいわね。そして振り返ると例によって教皇様を始めとした教会関係者全員が
(ちょ、今日はそれはマズイですって!ドレイクさんもいるんですよ)
私はさり気なく立ち上がるように合図しながらドレイクさんの方を見ると、同様に
「た、大変失礼いたしました。まさか「わーわーわー」」
私は口に人差し指を立ててシー!っと「黙ってのお願い」をすると、ドレイクさんは教皇様の方を見た。教皇様はドレイクさんを見据えて
「聖女様のお望みのままに」
それきりドレイクさんは私に関しては一言も余計な事は喋らず通商条約の調印を済ませ、合意文章を交換し合うと、エーレンさんと握手した。
「これから是非よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼む」
こうしてキルシェ王国とベルゲングリーン王国との間で、無事、通商条約が交わされた。
◇
「これでキルシェの干物が輸入できますね」
私は大使館に道中と到着後に作成を続けてきた光ファイバーをエーレンさんに引き渡しながら干物の話をしていた。
「干物ですか、確かにそういった特産品があると聞き及んでいます」
「いくら掛かっても構いません。もし伝手がありましらこれでお願いします」
ガチャン!
私は白糸の滝で作ったポーションを百本机に並べた。
「このポーションは普通のものと色が違いますね」
「最高品質の上級ポーション百本です」
「・・・は?」
その後、そんなもの受け取れませんよとエーレンさんと押し問答をした後、ポーションを利用してキルシェ国内でコネクションを作るツールとして利用してもらい、それによって、干物の早期購入の便宜を図るという事で納得してもらった。
これでエーレンさんの気質であれば、なんとかしてくれるはずよ!仮にダメだったとしても、そうしたら私が直接乗り込めばいいわ。
そうしてフィルアーデ神聖国での目的を果たした私は、ベルゲングリーンの帰路についた。
◇
「これからキルシェに乗り込むというのは無理なのかしら」
条約締結というメインイベントを終えた私は、フィルアーデ神聖国からエープトルコ王国に至る峠道の途中で気が抜けた風情で聞いてみた。
「地図があって日程が確定していれば行けないこともなかったな」
そっか。今の時代、地図は重要な軍事情報だったから、まだ条約を結んだばかりのキルシェの詳細な地図はないのだそうだ。それじゃあ手探り道中になってしまうから仕方ないわね。
「しょうがないからエープトルコの市場を漁って満足することにするわ」
「手短にな。あまり長くいると公私の私の付き合いも求められるぞ」
はあ、それは気が重いわね。でも、あの稲作を放置するくらいなら、この私自ら稲作をすることも
「ところで帰りは見所スポットはないのかしら」
確か白糸の滝の他に見下ろす景色が美しいところがあると聞いたような。
「ないこともないが、絶壁を登らないといけないらしい」
ロッククライミングが必要な場所とはワイルドな観光スポットなのね。私とブレイズさんだけなら行っても良かったけど、一緒にきた人たちを置き去りにすることになるからダメね。
「そう、残念だわ」
「てっきり行きましょうとか言うかと思ってたぜ」
「失礼ね、これでも私は十五歳の立派なレディなのよ?従者の人たちを置き去りにしたりはしないわ」
「居なかったら行ってたんじゃないか」
どこがレディなんだというブレイズさんを横目に、見納めとばかりに周りの風景を見回した・・・と、そこで信じられないものを見つけた。
「止まって!」
馬車が止まると同時に飛び出し、私は目の端に映ったものの前で
「おいおい、置き去りにしないんじゃなかったのか?」
急いで後をつけてきたブレイズさんはぐちぐち文句を言っていたが全然耳に入ってこなかった。だって、
「信じられない、こんなところで精霊草を見つけるなんて」
普通はドラゴンに守られるようにしてひっそりと生息しているはずの精霊草が、こんな
右手に精霊草と月光草、左手に月光草と癒し草、そして中央に神仙水を汲み上げた瓶を置いて、
「四重魔力神仙水生成、水温調整、薬効抽出、二重合成昇華、連結合成昇華、薬効固定、冷却・・・」
右手に浮かんだ二つの水球から合成昇華された黄金の魔力神仙水と、左手に浮かべた二つの水球から合成昇華された真紅の魔力神仙水が両手の間で混ぜ合わされ、お椀のようにした両手の平の上に虹色をした何かのポーションと思しき水球が浮かんだ。
恐る恐る出来上がったポーションを瓶に詰めて鑑定をすると、
究極のポーション(++):最盛期の年齢で完全復活させるポーション、効き目最良
私は先人達が歩んできた道のりの、更にその先に辿り着いていた。
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