第66話 束の間の休息と市場探索
キュィキュィキュイイィー!
グルル・・・
「帰ってきてからも落ち着きがないな」
キルシェの竜騎士団の竜舎で、フィルアーデ神聖国に騎乗した竜たちが親竜たちに寄り添って何やら鳴き声を上げている様子に、世話係の者達は不思議そうにしていた。
その竜たちはというと、フィルアーデで見た錬金術師のことを竜同士で話していたのだ。
<東の人間の国に行ったら、物凄い太さで地脈を吹き上がるようにさせた錬金術師がいたんだ!>
<うん、ボクらのことをまるでそこいらの子豚の発育を見るかのように見回していた!>
共に育った相方の人間達が他界して久しい親竜たちは子竜たちの
いまだに怯える子竜たちを
<どうしたんじゃ、騒がしいのう>
<お爺ちゃん、聞いてよ!>
話を聞いた長老竜は、昔、聞いた話を思い出すようにして語り出した。
<何代も前、大陸の南東には強大な力を持った人間の錬金術師たちが、我ら竜の祖先達をいとも容易く狩っていたという>
祖先達は、錬金術師達が住まう土地から避難するように北西に移動し、やがて人間と共生の道を歩むようになったと、長老竜は北西に住まう竜の歴史を話して聞かせた。
<
狙うとしたら
◇
「ベルゲングリーン王国との通商条約の締結、ご苦労だった。ドラグーン卿」
同じ頃、キルシェの宰相は自身の執務室でフィルアーデから戻ったドレイクから調印が済んだ合意文章を受け取っていた。
「して、フィルアーデ神聖国が認めた聖女殿はいかがであったか?」
「・・・非常に、そう、極めて特別な聖女様であらせられます」
豪快なドラグーン卿にしては慎重な物言いに、顎に手を当てて思案を巡らせると、宰相は一当てして反応を見ることにした。
「使徒殿であったか」
「私の口からはなんとも」
否定しない様子に求める答えを得た宰相は、ドラグーン卿を下がらせた。
「やはりそうか。そうであるならこちらも対応を考えねばならんな」
独白するようにつぶやいた宰相は、今後のベルゲングリーンとの外交について、思案に
◇
帰りがけにエープトルコの市場を見て回るため、しばらく
「帰りをお待ちしておりましたよ」
ワイズリーさんの話では、先日提出した稲作の改善案についてベルゲングリーンに問い合わせたところ、可能な限り協力するように指示されたそうだ。理由としては、輸入量も大幅に増加している上に貿易黒字の問題が顕在化してきていることから、同盟国としてはある程度は不均衡是正に向けたポーズを見せることが必要なのだとか。
「仕方ないですね!私が持てる知識の全てをもって、エープトルコを農業大国にしてみせましょう!」
ぜんぜん仕方なさそうに見えない私の様子にワイズリーさんはため息をついて釘を刺してきた。
「誰もそこまでしろとは言ってませんよ。例の手順書や工程について問い合わせがあれば光報ベースで対応し、農業機械についてはベルゲングリーンに戻り次第、見本の設計と製造をしていただければ十分です」
◇
とんでもないポーションを作ってしまって一時は動揺したけど、特殊なポーションが一つ作れるようになっただけで普段の生活が変わるわけではなかった。
今回は新しい食材も見つかっていないし、エープトルコの市場には期待したいところだわ。そんな心持ちで市場に来た私は、早速、当たりを引いていた。
「いきなり唐辛子と
これでラー油を作ったり
その後、
◇
逗留先に戻った私は、キャンピングカーのキッチンスペースで豆腐作りに取り掛かっていた。
まずは大豆を水につけて一晩おくところを、
「水分浸透」
錬金術で加速処理し、水を加えてすり潰して焦げないようにかき混ぜながら鍋で煮立てる。その後、魔石で十分弱ほど保温した後に布に入れて豆乳を
そうしている間に豆乳の温度が70℃台に下がってきたら、海水を煮詰めてできる
その後、固まった豆腐から余分な豆乳を水で流し、重石などで水を抜くところを錬金術で丁度いい水分に調整して出来上がりよ!
切り分けた豆腐に醤油につけたり、輪切りにした大根と一緒に茹でた湯豆腐や、お味噌汁に入れて料理長に食べてもらい、まずは豆腐の素の味を知ってもらう。付け合わせとして、ついでに茄子も軽く焼いて、おからと味噌と醤油を付けて出す。
「これは不思議な食感がしますな。なかなか素朴で優しい味わいがします」
「ちょっとピリッとさせる薬味を入れてあげると味が引き立つわよ」
それから、
今日は餃子を食べる気分じゃないからラー油は置いておいて、早速、すき焼き
「こんな感じで肉や野菜と合わせると、また違った料理のバラエティが楽しめるのよ」
料理長は味を確かめながら逐一メモに取っていく。よし、これでまた新しいレパートリーが増えて、料理長の手で昇華されていくわね!
私は餃子などで使うと説明して、今回は使わなかったラー油を料理長に渡し、やりきった充足感に包まれながらキャンピングカーを後にした。
◇
「条約締結で調印した合意文章は別途送られているのだし、このままエープトルコでゆっくりしていても良いのではないかしら」
ベルゲングリーンと比較すると異国風の宿屋の雰囲気に旅気分を満喫しながら言うと、ブレイズさんは少し考える素振りを見せた後、問題ないんじゃないかと答えた。
「服飾デザインも一巡しているから、光ファイバーや導声管、それにポーションや化粧品の原料などの消耗品をちゃんと作っているなら、どちらでも変わらないだろう」
田植え機も今年は間に合わないし、秋までに刈り取り機や脱穀機を作ればいいわね。強いて言えば、今年の夏の予定があれば何か作っておきたいところよね。
初夏にもならないうちから気が早いかもしれないけど、去年は急な予定であまり準備できなかったから今年はちゃんと準備して行きたいわ。
「今年の夏は山や海に行けるのかしら」
「それは聞いてみないとわからんが、希望はあるのか?」
森にあるクレーン湖畔には行った。海の砂浜が楽しめるミズリール海岸にも行った。山は、つい最近まで白糸の滝などの観光スポットを見て回ったところよ。
忙しいと思っている割には、案外、色々な場所に旅行できているのね。
そうだわ!今年の秋には三年ものの赤ワインが出来上がるから、
「そうね、東の諸島とも船で工芸品などの貿易をしてるそうだし、沖合は無理でも貝や昆布とかの海産物とかが取れるなら、その辺りも一度は見てみたいかも。だけど、静かな森で一休みするのも捨て難いし、南の沖合で一本釣りも楽しそうだし、ブレイズさんに任せるわ」
欲張りすぎだと笑うブレイズさん。一気に捲し立ててしまったけど、要は、ゆっくりできて美味しい食べ物を食べられるなら、どこでもいいのよ!
私はまだ見ぬリゾート地を思い浮かべながら、新しいレジャー用具の開発に思案を巡らせるのだった。
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