第61話 三国間国際通信網の完成
「読み上げます!
<ベルゲングリーン王国で続けて導声管を製造していく要請については了解した。ただし国際通信網の早期実現に尽力した錬金薬師殿の疲労の蓄積を鑑み、導声管については無理のないペースで製造していくことになる>
以上です!」
遠く離れたベルゲングリーン王国からスポーン王国を経由してこのエープトルコまで一瞬でこのような文を伝えることができるようになるとは誰も思っていなかった。しかも遠隔決済までできてしまうので、米や大豆などの農作物の国際間売買も一瞬で決まってしまう。今までとは全く違う新しい商流が生まれていた。
ベルゲングリーン王国ではこのような即時通信・即時決済手段に加えて国中の都市や街を音声通話で繋ぐ通話網も完成しているという。技術協力の同意を得てから半年もしないうちに全く新しい革新的な技術を開発してしまうとは、かの錬金薬師殿の頭の中は一体どうなっているのか。
さらに先ほど文を読み上げた通信士や今後普及していく通話網の交換手、それに通信インフラ整備に掛かった費用を、一般利用向けの光報サービス事業で回収させることで、平時における通信士の練度の維持と同時に、投資回収まで行う事業案を提示してくるなど、並の商才では考えつかないことだ。
上級ポーションやキュアイルニスポーションなどではなく、スポーン王のように無理難題を突きつければ、想像の遥か上の成果を提示してくれたのではないだろうか。
エープトルコの宰相は、そんな
「薬師殿の発明品の中でもこの懐中時計は随一の優れものよな」
ベルゲングリーン王国から友好の証として送られてきた時計を陛下から
薬師殿の次の発明が怖くもあり楽しみでもあると考えながら、宰相は謁見の間への急ぐのであった。
◇
「錬金薬師殿の様子に変わりはないのか?」
<はい、国家間通信のケーブルの製造では外出の暇もないほど忙しい模様でしたが、今は楽に過ごされているようです>
スポーン王国の東端の街では辛うじて本国と導声管による音声通話が可能であったため、信号通信によらず音声通話により情報を得ることができるようになっていた。
公開情報によると、錬金薬師メリアスフィール・フォーリーフに授けられた加護には、創造神の直々の注意書きで「過労死をさせるべからず」という明確な指示が下されている。そのため、周りからは無理をさせているようで健康には気を使われていたのだ。
「では次は明後日の十七時丁度にまた頼む」
<わかりました、それでは報告を終わります>
ベルゲングリーンから友好の証として送られて来た懐中時計は本当に優れものだ。分刻みの予定を組んでも、相手が振り子時計を確認して動く限りかなり正確に予定通りの行動ができる。オルゴールと呼ばれる宝石箱から音楽が流れてきた時には驚いたが、この懐中時計は宝石箱に入れるに相応しい宝物だった。
そう
◇
「メリア、五分遅刻だぞ」
「・・・申し訳ございません」
あれから王家御用達の細工職人であるガラクお爺さんの手により、三国同盟の要人に懐中時計が行き渡ることになり、懐中時計を持っている王族相手には時間に正確な行動が求められるようになってしまった。
まったく、どこの誰よ!時計などという諸悪の根源を作らせたのは!
「この懐中時計というものを各国の王家に贈ったところ大変好評でな、是非増産してくれと頼まれた」
実に良い発明をしてくれたものだと感謝の意を伝えるエリザベートさんだったが、そんなことだけで呼ぶような人ではないことはわかっていた。
「今日は何の御用ですか」
嫌なことはさっさと済ませるに限ると思って聞いてみた。
「ああ、実はな・・・」
この通信網をフィルアーデ神聖国や大陸の西の諸国まで広げたら、どれほど可能性が広がるのだろうな、などというエリザベートさんに
「私の体力の限界が訪れる可能性が広がるのではないでしょうか」
三カ国だけでこれだけ大変だったのだから、大陸全土なんて無理に決まっている。ライル君やカリンちゃんが安定して光ファイバーを作れるようになったらカバー範囲を広げることもできるかもしれないけど、まだそこまでの境地には至っていないでしょう。
「そうか。フィルアーデの西にある国の海産物に干物というのがあってな・・・」
聞くところによるとメリアはカツオブシやコンブなどの海産物の干物を探していると聞いたので、遠隔決済で手に入れるようになるのではと思ったのだが、無理なら仕方あるまいな、などと言うエリザベートさん。
「私は錬金薬師メリアスフィール・フォーリーフ。フォーリーフの名を受け継ぐ完成された錬金薬師にとって、その程度の距離を繋ぐことは
気がつけば、私は胸に手を当て斜め三十度に腰を折った完璧な錬金薬師としての礼を取っていた。
「そう言ってくれると思っていた、よろしく頼んだぞ」
そう、気が付けば、またエリザベートさんが目の前から姿を消していた。
「ああ!やってしまったわ!」
「お前、全く進歩していないのな」
醤油や酢やみりんがあっても、肝心のカツオブシがなくて、どうすればいいってのよ!昆布は最悪、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、ナトリウムなどの旨味成分を直接合成すればなんとかなるけど、カツオブシは無理よ!
「というかバギーで行けばすぐだろう」
聖女認定された今なら多少遠い旅行でも行けるだろうし、キャンピングカーと魔法鞄で長距離の旅でもポーションの作成や化粧品などの消耗品生産に問題はないことは証明されているしな。そう言って肩をすくめるブレイズさん。
「その発想はなかったわね、それなら今すぐ行きましょう」
「行けるわけないだろ、光ファイバー製造はどうするんだ」
そんなものは道中で作れば良いってさっきブレイズさん自身が言ったばかりじゃないの。第一、私が作る
その後、擦った揉んだ話し合った結果、残念ながら冬の山脈ごえは許可できないと言うことで却下されてしまったわ。ぐすん。
◇
「春になったらカリンちゃんが来て一年近くになるのね」
そろそろ十歳になるんじゃないかしら。まだ一桁の年齢なのだし、バースデーケーキくらい用意してあげるべきだったわ。いえ、今からでも遅くないわね。
私は料理長にお願いしてホールケーキを一つと作ってもらい、十本の
「カリンちゃん、ケーキを作ってきたわ。お誕生日パーティをしましょう」
<え?今いくから待ってて!>
ライブラリを共有してバースデーケーキのなんたるかを知るライル君も呼んで、ハッピーバースデートゥーユーを歌って共にお祝いした。部屋を暗くしてケーキに刺した
「今日は誕生日じゃないんだけど?」
「いいのよ、忙しくてやらないよりはマシでしょう」
いつかは、もっと沢山の弟子や孫弟子みんなで負荷分散ができて、ちゃんと誕生日にお祝いできるようになるわ。それまでは三人で不定期開催よ!
「わかった!メリアお姉ちゃん!」
そう言って笑い合う三人に、また新しい春の季節が訪れようとしていた。
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