第34話 錬金術による急造酒
「いつものように錬金術で手っ取り早く見本でも作りますか!」
思いっきり人工的になってしまうけれど、酒造の協力を頼むにしても現物がないと伝わらないわ。邪道だけど、名刺代わりに錬金術を使って化学的に熟成プロセスを行いましょう。市販のワインはアルコール発酵後の放置期間や熟成が短すぎる気がするのよね。
私は料理長からワイン樽から瓶一本分だけ分けてもらい、錬金術により擬似熟成処理をかけていく。
「マロラクティック発酵、酸化、減酸、清澄、沈殿・・・」
よし、ちょっと強引だけど何もしないよりはマシなはずだわ。早速試し・・・ん?私は未成年過ぎて飲めないじゃない!仕方ないので料理長に渡して味見してもらう。
「酸味と甘みのバランスが取れてまろやかで深い味わいになったはずよ」
アルコール発酵後に三年くらい寝かせれば似たような味になるはずだけど、出回ってるワインはすぐに瓶詰めして消費しているような気がするのよね。料理に使う分にはそれでも目立たないけど、ワイン単品でそんな若いワインは飲めないわ。
「こ、これは!ワインには違いないが全く別物だ!」
どうやらそれなりに上手くいったようだわ。ブランデーは難しいわね。そもそも白ワインじゃ無いのが厳しいけど、マロラクティック発酵無しでポリフェノールと色素を除去して、なんちゃって白ワインを作りましょう。
「ポリフェノール除去、色素除去、酸化、減酸、清澄、沈殿・・・」
これを擬似白ワインとしましょう。そのうちの半分を取り分け、蒸留処理をしてなんちゃってブランデーを抽出する。
「こちらが擬似的に作った白ワインとブランデーよ」
白ワインは皮を剥いた葡萄でワインを作ればいいんだけど、どうも市場に無いみたいだから無理矢理作ったわ。後者はその白ワインを蒸留処理をしてできるブランデー。お菓子の生地に染み込ませてしっとりとした大人の口当たりにしてくれるの。
そう説明した私は、白ワインを渡して味わいを確かめてもらっている間に、ブランデーのケーキシロップを作ってショートケーキに染み込ませたりチョコレートタルトや木苺のタルトの生地に染み込ませて料理長に渡した。自分で味見してみると、お菓子用としては十分な出来栄えになっていた。
「今までのデザートが、まだまだ完成には程遠かったとは・・・」
料理長はショックを受けているようだった。流石にそれは言い過ぎのような気がするけど、大人の男性の口にはお酒なしのお菓子は厳しかったのかもしれない。
「私はまだ子供舌だけど、大人の舌にはお酒は刺さるかもしれないわね」
「そうですな、この白ワインは苦味が抜けて甘口で女性には受けが良さそうですな」
次に擬似ラム酒をサトウキビから錬金術で無理矢理作り出す。
「加熱、濃縮、糖蜜抽出、魔力水生成、発酵、蒸留・・・」
できたラム酒もどきを先ほどと同様にケーキシロップとして使用して食べ比べてもらう。
「ブランデーの方がお酒の風味が強く、こちらはフルーティな香りが強く出ると思うわ」
「なるほど、これも人により好みが分かれそうですな。奥深い」
ウイスキーは更にハードルが高い。だって泥炭がないもの。オーク材を適度に炭化させたら作れるかしら。私は水に浸した大麦と木片を手に取り錬金を始めた。
「焙燥、温水精製、炭混入、糖化、濾過、発酵、蒸留、アルデヒド精製、酸化、シリング酸精製、フェルラ酸精製、バニリン酸精製、エステル精製、沈殿・・・」
厳しい!流石にウイスキーの
ブフッ!
「・・・十三歳じゃ無理ィ!」
ゴキュゴキュゴキュ!私はキュアポーションでアルコールを解毒した。ウイスキーっぽいのはできていたけど、ストレートで飲もうなんて5年・・・いえ、10年早かったわ。私は冷凍庫から氷を取り出して丸く整形してグラスに入れ、ウイスキーもどきを二割ほどに薄めた水割りを料理長に渡した。
「これはウイスキーという大麦から作るお酒よ」
アルコール度数が高いから主に男性が水で割って楽しんだり、チョコレートの殻で密閉するように包んで、大人のお菓子として出すのよ。そう説明したが、水割りを飲んだ後、料理長は沈黙していた。
「変な気分がするようならキュアポーション飲んでおく?」
「いえ、ガツンとする強い酒で焼けるような喉越しになのに、鼻を突き抜ける時に木墨を燻したような独特の香りが非常に・・・気に入りました」
よくわからないけど、悪くはなかったのかな?
「本当は何年も倉庫で一定温度で保管して味わいを出すんだけど、今回はお酒の種類の紹介だから本物はもっといいはずだわ」
ただ年単位の時間が必要だから、私が大人になるまでに完成させるには、味がわからなくても、もう取り掛からないといけないのよね。一から錬金術なしで作るのは厳しいから、誰か酒造を手掛けてる人を探そうと思うのよ。
という説明をしたら料理長が心当たりがあるという。
「先ほどの酒を用意していただければ、私の方で説得は難しくないかと」
「それは商業ギルドに頼む手間が省けてよかったわ」
私は瓶3本ずつくらいの量を錬金術で精製し、料理長にウイスキーとブランデーとラム酒、それから改良版の赤ワインと、なんちゃって白ワインを渡した。これで、お菓子用のお酒の目処は立ちそうね!
「なあ、それ俺も欲しいんだが?」
「お酒を呑んで性格変わったりしないでしょうね」
大丈夫だ、テッドさんにも渡してくると言うので、それならと二本ずつ作ってブレイズさんに渡した。男同士で呑むなら問題ないでしょう。
◇
「久しぶりだな、ウィリアム」
「おう、クラウスじゃないか。辺境伯の料理長を首にでもなったのか?」
久しぶりにあった旧友に冗談めかして気兼ねなく話しかけたところ、そんなんじゃないと笑ったかと思うと、クラウスは酒瓶を鞄から出して前置きなしに切り出してきた。
「この新しい酒を造ってみないか」
なんでも錬金薬師の頼みだとか。でも待てよ?
「十三歳の
「論より証拠だ。飲んでみろ」
改良した赤ワイン、そして新種の酒の白ワイン、ブランデー、ラム酒、ウイスキーだという。ワインを改良?そんなことできるものかとグラスに注いで口に含んでみる。
「なんだこりゃ!?」
「どうだ?ちょっとは話を聞く気になっただろう」
なんでも錬金術で本来の製造過程をすっ飛ばして精製したらしいが、年単位で熟成させれば錬金術無しでも実現できる、いや、本物はより良い味になるそうだ。
「これで不完全だってのかよ!」
「私も料理で同じことを何度思わされたかわからない」
完成だ、これ以上ないと思うたびに、その遥か上の味の可能性を提示される。料理人として信じられないほどに充実してるよ。そうクラウスは笑みを浮かべ、残りも試すように勧めてくる。試してみると、どれも高い完成度であることを窺わせ、とりわけ最後のウイスキーはガツンとくるものがあった。
「おい、最後のウイスキーという酒はなんだ」
「大麦から造る蒸留酒だそうだ」
「蒸留酒?」
なんでも酒を蒸発して濃縮する手法らしい。いや待て、濃縮したところでこの深い独特の味わいは出せないだろ。
「これらの酒をウィリアム、お前のところで造ってみないか?」
「こんなすげぇ酒を造れるなら何でもするぜ!」
「そう言ってくれると思ってたぞ」
クラウスは手を差し出してきた。
「造ってやろうじゃないか、その錬金酒師がいう本物の酒をよ!」
俺はそう言って差し出されたクラウスの手を強く握り返した。
◇
「よう、テッドさん。差し入れを持ってきたぜ」
「なんだ。今日はメリアの嬢ちゃんは一緒じゃないのか?」
まあ、酒を届けに来ただけだからな。そう言ってブレイズは赤ワインをはじめとした酒瓶を取り出した。
「とりあえずワインを飲んでみてくれ」
「おう、じゃあ一口だけ」
口に含んだ瞬間に違いがわかるほど上質なワインだった。気がついたらグラスを全部呑み干していた。
「なんだこりゃ!?確かにワインだが別の何かじゃねぇか!」
「だろ?信じられないことにこれで不完全らしいぜ」
相変わらずメリアの嬢ちゃんが作るものはぶっ飛んでやがる。
「そしてこいつが本命の蒸留酒だ」
ブレイズは円柱のグラスに丸い氷を浮かべて琥珀色の酒を水で薄めて渡してきた。蒸留酒?あの銅製の蒸留器を使った酒ということか?とにかく飲んでみる。
「うめぇ!?おいおいおい!なんだこりゃ!?」
「ウイスキーっていう大麦で造る酒らしい、これも不完全品だとさ」
嘘だろ?これで不完全だったら世の中に出回ってる酒はなんだってんだ。
「どうだ。今までのメリアの差し入れの中で一番いい品だろ」
「ああ、
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