第3話 薬草採取と魔法鞄
「ぜぇぜぇ・・・十二歳でこんなところ来るなんて正気の沙汰じゃないわ」
中級ポーションに使用する薬草は高原に生えているため、メリアは村から少し離れた場所にある山岳地帯に来ていた。一本や二本なら、たまに低地でも生えているけど、先日使い切ってしまったので本来の植生地に来るしかなかったのだ。そんなメリアがピンチに陥ろうとしていた。
グルルルル!
フォレストウルフが唸り声に顔をあげると、いつの間にか囲まれていたのだ。
「はぁはぁ・・・痩せっぽちの私なんて食べても腹の足しにもならないわよ」
そんなことをいいながらメリアは鎌を構えて息を整えると、目の前の一匹が飛び掛かってきた!
ススッ・・・
しかしウルフの動きを見切り最小限の体捌きで躱すと、鎌をフォレストウルフの首に押し当てた。
キャィーン!
鎌から発せられた電気ショックにより高く短い鳴き声を上げたかと思うと、体が動かなくなったフォレストウルフは舌をだらんとさせて地面に倒れ伏した。
「電撃なら鎌にかかる負担もすくないわ」
山岳地帯に入るにあたり、メリアは護身用に電撃効果を付与した草薙の鎌3号改を持ってきていた。体は十二歳とは言え経験は熟練の錬金術師のそれなのだ。素材採取のために危険地帯にも足を運んだ私が、フォレストウルフごときに後れをとるわけがないわ!こうして七体のフォレストウルフを倒すと、敵わないとみたかフォレストウルフの群れは去っていった。まわりには舌をだらんとして痙攣しているフォレストウルフが転がっている。
「う~ん、フォレストウルフの解体なんて面倒くさいわ」
とりあえず魔石だけでも抜き取ろうかしら・・・気が進まないわ。命を頂くなら肉も毛皮も余すところなく利用しないと、単なる虐殺という気がしてしまう。群れに襲われていながらそんな感想を抱くところが抜けていたが、メリアは見逃すことにした。
「かごに入れるのは薬草だけでもう空きはないのよ」
そうやって自分を納得させると、倒れたフォレストウルフを尻目に高原に向かって登っていった。
◇
「あったわ、癒し草の群生地」
五合目付近の高原に着くと一面、白い花をつけた癒し草の群生地が広がっていた。カゴ一杯分どころか、こんな群生地が放置されているなんて薬師はいないのかしら。
花畑を前にしばし佇んでいたメリアは我に帰ると急いで採取を始めた。根から抜いてそのまま錬金術で乾燥をかけて軽くした後にカゴに詰めていく。日が暮れる前に帰らないとフォレストウルフのいる森で野宿なんて御免だわ!
「あら?これは月光草じゃない!」
上級ポーションの材料を月光草が一本だけ生えているのを見つけたメリアはラッキーとばかりに丁寧に採取した。そうしてカゴを乾燥させた癒し草で一杯にしたメリアは、月光草を片手に来た道を引き返した。
家に帰って干し草を取り込み牛のミー子の飼い葉を変えて掃除をした後、汚れた体を拭いて少し横になろうと寝そべると・・・
チュンチュンチュンッ
「いつの間にか寝てしまったわ!」
扉から差し込む光と小鳥のさえずりに気がついた私は水瓶の水で顔を洗うと昨日の収穫を確認してホッとした。夢オチだったら泣くわ。
「これでしばらくは中級ポーションの材料には困ることはないわね」
そしてと月光草を見つけてニンマリとするメリア。これで上級ポーションを作れば下級ポーションなら希釈すれば百本出来るわ。でも流石にそれは勿体無いから、もしもの時のために一本だけ作っておきましょう。
右手に月光草、左手に癒し草を握り・・・それを同時に錬金する。
「二重魔力水生成、水温調整、薬効抽出、合成昇華、薬効固定、冷却・・・」
右手に浮かべた赤色の魔力水と左手に浮かべたピンク色の魔力水が両手の間で混ぜ合わされ、お椀のようにした両手の平の上に真っ青な上級ポーションの水球が浮かんだ。出来上がった上級ポーションを瓶に詰めて鑑定をすると、
上級ポーション(++):軽い欠損や重度の傷を治せるポーション、効き目最良
「よっし!さすが私ぃ!」
久しぶりとはいえ過労死するまで作ったポーションの作成をミスるメリアではない。新鮮な材料で作っただけあって、最高品質の上級ポーションが出来上がっていた。冬までまだ間があるとはいえ、材料が新鮮なうちに量産しておきたくなるわね。でもその前に、
「草でも干しますか」
ミー子の餌は毎日変えてやらないと乳の出が悪くなってしまう。あ〜水も汲んでこなきゃ!そう言って外に出るメリアは村娘そのものであった。
◇
作業が一段落すると太陽が真上に登っていたのでメリアは休みを入れ芋を蒸して食べていた。朝食?そんなものはない。フォレストウルフも近くだったらお肉にして美味しくいただいたのになぁ。そんなことを考えたメリアは、自身の運搬能力が低過ぎる問題に気がついた。もっと運べればフォレストウルフも全部まとめて持ってこれたし、ポーションも十本ではなく二十本とか三十本とかまとめて売れるのになぁ。
「そうだわ、魔石もあるし魔法鞄でも作ろうかしら」
大した魔石はないから拡張できる容量も限られているけど、1立方メートルでも便利なことには変わりあるまい。小型のポーチにすれば10個腰につければ10立方メートルよ!お洒落じゃないけど。そうしてこの間買い込んだ魔石に空間拡張効果を付与してポーチに取り付けて瓶を入れてみると十本は楽々入った。これなら腰の両側前に一つずつ、後ろ両側に一つずつの四つも作れば当面は十分ね。そうして左前のポーチに鎌、右前のポーチに商業ギルドの会員証とポーション類を入れ込んだ。これで街までポーションを持って歩くのが大分楽になるわ。一応、貴重品ということで魔石とか薬草とかも後ろのポーチに入れて持ち歩こう。
持ち運びの問題を解決したメリアは中級ポーションを作って希釈しては低級ポーションを量産していった。
◇
「というわけでまた売りに来ました」
「三十本ですか、拝見させていただきます」
低級ポーション(++):軽い傷を治せるポーション、効き目最良。
以前にも増しておかしい。カーラは何度か見直したが間違いない。全て最高品質の薄いピンク色の低級ポーションだ。というかその前に、なぜ魔法鞄をこのような少女が持っているのか。そんな内心の疑問を押し殺して話した。本数が増えたということは、きっと新しい商流を開拓したのだろう。
「最高品質なので金貨18枚、手数料は10本あたり銀貨1枚となります」
メリアは頷くとギルドの会員証を出し口座に振り込んでもらった。これだけあれば、調理用の魔道具にするコンロの台座やオーブンの筐体を作ってもらえるのではないかしら。メリアはそう思って鍛冶屋に向かった。
「こんな形の鍋を置く台座二組と、鍋やフライパンそのものと、後は円筒状の長さ3センチ程度の筒、取手のついた扉のある金属の箱を作って欲しいの」
そう言ってメリアは魔石を嵌め込む場所の指定もしてくぼみを設けてもらうように鍛冶屋のガンドさんに説明した。
「作れはするが、オーダーメイドは高いぞ」
いくらか聞くと金貨10枚とか。うぅ・・・結構するのね。でもこれも文化的な生活のためよ!メリアは了承して商業ギルドの会員証で決済した。
「一週間もすればできるから来週取りに来てくれ」
「わかったわ、楽しみにしてます」
メリアは挨拶して鍛冶屋を後にした。
これでパンケーキもクッキーも作り放題よ。なんせ大麦だけは納税しても腐るほどあるのだ。砂糖はないけど、パウンドケーキや大麦のクッキーは作れるだろう。いや、砂糖も甜菜を探せば栽培して錬金術で抽出してしまえば精製できるのではないかしら。ポーションばかり作らされていたけど、抽出なんて基本中の基本なのだし・・・。
何にしても、いよいよ食生活の改善が見えてきてニヤニヤが止まらなかった。
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