第三章 押してだめなら引けばいいのよ①
そうしてアーデン
もともとアーデン公爵が喜んでパーティーに出ていた様子はなかった。
なぜなら彼が政治的な要人と話す以外、そのパーティー会場で他に積極的に一人で何か行動することはなく、最近では特に、ひたすら私にくっついていただけだったのだから。
ということは私と
この公爵様は、いったいどれだけ社交
彼の近くにいて
女性に興味がないのか何なのか、ひたすら近づいてくる女性がいても目をそらし、けっして話しかけることはない。それでも強気に
ものの、早く切り上げようと四苦八苦しているのが感じられて。
私が気を
なんだか最近は、苦手なことを押しつけているような気がして申し訳ないような気もしていたのだ。
ならば、もうパーティーはいいではないか。
ふふふ……。
「……お
「いいのよ。私は今、
「お嬢様はいいんですかそれで……?」
「だってそうでもしないと、あの人は他の令嬢と交流しようとしないんだもの」
「そんなに交流させたいんですか?」
「もちろんよ! じゃないといつまでたっても婚約を
「はあ、真実の愛ですか……。それでお嬢様の真実の愛は、どこに?」
「え? 私の? もちろん私の真実の愛は、仕事と学院の
だから今、
そう、きっと私たちが
これは、チャンスじゃない? 今、アーデン公爵
そうしたら彼女たちは、こぞってアーデン公爵を誘うに違いない。口実を山ほど作って。
なにしろ彼の
そうなるともう、多少気弱だろうが押しに弱かろうが口数少なかろうが関係ない。むしろ好都合と考える人はきっと多い。
そんな積極的な令嬢方には彼は少々つまらないかもしれないが、もともとこの貴族社会で相思相愛の
そしてそんな令嬢方の中からアーデン公爵は、好きな令嬢に手を
完全に公爵の好みでよりどりみどり。自分のこだわる条件で好きな令嬢を選べるなんて
なんとお
うんもう、最初からこうすれば良かったわね!
私は満足げに
もともと必要なパーティーには今まで一人で出ていたようだから私がいなくても
まあ、もう周りの令嬢や母親たちが放っておいてはくれないだろうけれど。
一応夜のパーティーのお誘いが何度かと、昼間のお散歩デートのお誘いもあったけれど、私が目指しているのは「不仲説」なので、ここで仲の良い姿を見せるのはよろしくない。
それに、これ以上アーデン公爵に情が移るのも危険なのではと思い始めてもいたから。
なんだか今では公爵は、私にとって、なんというか、大切な友人になってしまっていた。
だからそんな気安く楽しくおしゃべりしていた仲の良い友人とこうしていざ会えなくなると、
でも考えてみたら、どうせ彼が他の令嬢と結婚してしまえばそんなに親しくも出来なくなるのだから、これは良い機会だと思って慣れるべきなのだろう。
彼には幸せになってほしい。そう願えば願うほど、彼が魔女を
そしてずうっと私と良い友人でいてほしかった。
私には、
魔女たちが、出来るだけ
私の育った
この国では
貧しいわけではなかったけれど、ただひたすらしつけと勉強と訓練ばかりの毎日は、私のように幼いときから隔離されてしまった子どもたちにはとても寂しい生活だった。
私がこのまま何もしなければ、これからもずっと同じように親や兄弟に会いたいと泣く子をずっと変わらず生み出し続けることになる。
でも、私には、そんな子が少しでも寂しくないようにできる
それは「隠す」魔法。いわゆる
今でも私の本来の銀の
魔力を望まない人たちから、その魔力を
魔力を一時的にでもきちんと封印出来たら、幼い子どもたちは定期的に家に帰ることができるようになるだろう。
訓練は必要だから完全に帰すことは出来なくても、両親や兄弟に定期的に会い、見守られ、愛されていると
そして大人になっても、魔力の必要ない仕事で
うっかり魔法を使ってしまったり、魔力を暴走させてしまう心配なんかしないで安心して暮らせるとしたら、その方がいいという人だってきっといるに違いないのだから。
そういう人たちに、心配になった時はいつでも封印の魔法をかけ直してくれる、故郷に行けば会える封印
この魔法があれば、私は
そのためには、結婚なんてしているヒマは無いのだ。
私は、いつか自分が育ったあの学院に帰る。
ちょくちょく公爵との破局の噂を確かめに来る噂好きなご婦人たちの相手をのらりくらりとかわしながら、そんな気持ちを再度
そう、だから、
「ブローレスト
とか、
「どこぞの
とか、
「誰かがアーデン公爵になんとかという名馬をプレゼントしたら、お返しにたくさんの花が
なんていう話を聞いても心がざわついたりなんて、しない。
あの
彼は、いつか魔女だとバレて追放されるかもしれない私よりも、一生彼の側にいて、ずっと彼を幸せにすることが出来る人を大切にするべきなのだから。
それに私にとっても、彼が私を魔女だと知って今までの温かなまなざしが
どこぞの令嬢がアーデン公爵とデートをしたという噂を聞くたびに、なぜか私はそう心の中で
そう、彼はいい人だ。少々
そんな人が私のせいで不幸になっては
今のところは評判の悪そうな令嬢が近づいている様子はないので安心だった。
ぜひとも素敵な女性と相思相愛になって、幸せな結婚をしてほしいものである。
私は日々入ってくるアーデン公爵の交流の噂を聞きつつ、本気でそう思っていた。
もちろん定期的に届くアーデン公爵からの散歩や気晴らしのお誘いには、相変わらずのらりくらりとかわし続けながら。
ここでうっかり仲良く散歩なんてして、今まさに彼を落とそうと
そんなふうに頑張って家に
我が国では
『
それはあくまでもまだ噂ではあったが、それでもこの
この国は王政である。国王には
そしてその噂の
黄金の瞳が事実ならば、その王女は魔女である。
この国に生まれる魔女は、美しい容姿を持つ人が多いと言われている。
だから王はその魔女であった王女の生みの母の美しさに
が、
だからそのような真相の
それを
あり得るのだろうか?
しかしあのロビンの婚約者マリリンを養子に
もともとは
どの貴族も半信半疑で、事の次第を見守ることしかできないようだ。
オルセン男爵はその間も社交界で得意気にそのことをほのめかしているそうで。
最近は私もパーティーには行っていないから伝聞ではあるが、どうもその保護した令嬢が王女だとオルセン男爵は確信しているようだ。
ますます混乱する貴族たち。
多くの貴族たちが、魔女である王族が本当に存在したときにはどのような対応をすべきなのかと前代未聞の事態に右往左往しているようだった。
そんなとき、その
一男爵、しかもまだ一代目の新興の男爵家のパーティーの招待状を
貴族たちを見て、きっとオルセン男爵は喜んだだろう。
それでも貴族たちにはいろいろと
そしてここにもきっと思惑があるのだろう人が。
「エレンティナ、君にもぜひ来てほしいな。オルセン男爵は将来そのお
ふっ、と
「エレンティナ様、本当にぜひいらしてください。それは
と言うマリリンの二人に直接招待状を
特にマリリンは、どうしても公爵に来てほしいようで。
でもこうして招待状が向こうから
なにしろ
本当に噂の王女が本物だとしたら、それは魔女が堂々と社交界にお披露目されるということになるという前代未聞の事態。
いったい他の貴族たちがどう反応するのかとても気になるし、オルセン男爵が堂々とお披露目なんかして、この先その令嬢をどうしたいのかもどうしても気になってしまう。
魔女でないなら問題はない。でも噂通りに魔女だったら。
もしかしたら密かに力になれるかもしれない。それにはまず確認しなければ。
ということで。
「まあ、ありがとうございます。ぜひ
と、にっこりと
こうなると、やはり公爵を誘って
今まで頑張ってきた私的な目的のための作戦は、一時中断しないといけないか……。
そうして私は渋々「オルセン男爵のパーティーに一緒に行きませんか」と手紙を書くことになったのだった。
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