第5話 一緒に風呂に入って一緒に寝る


 高速道路をひたすら走り11時頃、祖父母宅に着いた。


 爺ちゃんは70歳だが凄く元気で現役で米農家をやっている。

 子供は3人いて全て女。俺の母は三姉妹の長女で22歳の時に俺を産み30歳で他界した。墓はここから近いところにあり親父の遺骨も同じ墓に眠っている。


 母が亡くなる前、年に3回は祖父母の家に来ていた。小学校の夏休みは福島で過ごすことが多かった。

 母が亡くなってからもお盆は毎年墓参りでここに来た。そんな経緯もあり祖父母は俺を滅茶苦茶甘やかしてくれる……。

 母の姉妹は関西と九州に住んでいて、あまり帰ってこないそうだ。



 暴風林に囲まれた大きな日本家屋の玄関は網戸付きスライドドア。それが全開に開いてる。いつものことだ。車を停めた俺は玄関から大声を出した。


「ただいまぁ〜!婆ちゃんいる?」


 返事がない。たぶん納屋かな……。

 俺は振り返り後ろにいるマーイに声を掛ける。


「たぶんこっちだと思う」


 彼女を連れて納屋へ回った。やっぱり婆ちゃんは納屋で仕事してた。爺ちゃんはいないからたぶん畑だ。


「婆ちゃんただいま」


「あら、早かったねぇ〜、おかえり」


 こっちを見た婆ちゃんはマーイを見て目を丸くする。


「うっわぁ〜、髪の毛ピンクだぁ〜。おっしゃれぇ〜。東京じゃそういうの流行ってるのぉ?あんれぇ〜、よく見たら、めんげえ子じゃない」


「電話でも言ったけどこの子がマーイだよ。外国人で日本語は話せないから。暫く一緒に住むから宜しく」


「あっそう〜。よろしくねぇ〜」


 話しの内容がわからないマーイはキョトンとしていたが、婆ちゃんが頭を下げると彼女もつられて頭を下げた。


「今お昼作るねぇ〜」


 婆ちゃんは立ち上がろうとするが、


「いや、これから買い物行くから、お昼は外で食べるよ。何か買ってきて欲しいものある?」


 婆ちゃんから欲しい物を聞いた。肉とか魚とかトイレットペーパー等である。

 その後旅行の荷物を降ろしていると、爺ちゃんが帰ってきたからマーイを紹介した。爺ちゃんは寡黙な人で「おう」しか言わなかった。



「マーイ、買い物、一緒に行こう」


「イッショ!」


 ここまでの道のりで、ついてきてという意味で「一緒」を多用してきた。「一緒」の意味は理解したようだ。


「うん、車、買い物、一緒」


「うん!」


 マーイは微笑みながら返事をし車に向かって歩き出す。俺は後を追う。





 マーイを連れて大型ショッピングモールへやってきた。


 ここで彼女の服、下着、靴、寝具、ドライヤー、タオル、歯ブラシ、シャンプーやコンディショナー等々を買う。

 何故か知らんがこの子は下着を着ていなくて服は一着しか持っていない。靴もゴツゴツしたブーツ一足だから田舎暮らしするならスニーカーが欲しいところ。


 で、買い物を始めると――、


 服は何が欲しいかわからなそうだったから試着して似合いそうな服をガンガン買っていった。今は9月末で秋物と冬物を買う。マーイは身長150センチ程でかなりスリムだからSサイズでも商品によっては少し大きかった。

 デニムパンツやチノパン、ショートパンツ、ロンティー、シャツ、カーディガン、パーカー、ダウン等々。部屋着用のスエットやTシャツ、キャミソールも買った。取り敢えず今は適当に量だけ買って記憶が戻るか、彼女が色々わかってきたら自分好みの物を買ってもらえばいいだろう。


 まぁその頃には出て行ってしまうかもしれないが……。


 下着は売り場店員さんに日本語を話せないことを説明し、色々選んでもらって、その中で俺の好みの物を6セット買った。自分の性癖を曝しているみたいで恥ずかしかったけど、マーイが自分で選べないからしょうがない。


 その他にも色々買ったが、ハロウィンが近いこともあり、特設コーナーに魔女の三角帽子が並んでいて、その中の紫色のハットが気に入ったようで、もうよくわからないからそいつも買っておいた。なかなか良い作りで1万した。


 結局全部で20万使った。人一人暫く保護すると考えればしょうがない出費だ。

 前の仕事を退職したのが7月末で今は失業保険受給が俺の収入。北海道旅行で散財しといて、更に散財している自分に若干ひいたが、しょうがない出費なのだ。(二度言う)


 全部買うのに4時間くらい掛かってかなり疲れた。

 因みに何処の店に行ってもマーイは凄く可愛いと褒められ他の客からも注目されていた。





 家に帰って婆ちゃんが作った夕飯を食べる。四人で食卓を囲む。爺ちゃんはテレビニュースを見ながら食べている。


「ハンバーグ オイシイ テンプラ オイシイ ウメボシ イパッスゥ~~!」


 マーイは頭が良くて教えた単語はすぐに覚える。わからないことは聞いてくる。この分だと時間を掛けずに日常会話ができるようになるかもしれない。


「婆ちゃんは昔パティシエだったんだ。料理上手いよね」


「あんらぁ~、はんずかしぃ~」


 娘達とよくお菓子を作っていたらしい。母さんもお菓子作りが好きだった。





 それから俺はお風呂の入り方を教える。今日買ったシャンプーやコンディショナー、歯ブラシの使い方、シャワーの使い方。説明しても少し難しいようで理解していなそうだった。


「お風呂 入って」


 そう言って脱衣所から一人出ようとするとマーイが俺のシャツを掴む。


「イッショ リョウ イッショ オフロ」


 不安そうな目で俺を見上げている。

 まぁ一度全裸を見てるし、下着の付け方も教えなきゃいけないし……。やれやれだな。


 ということで一緒に入った。髪を洗ってあげて、一緒に歯磨きして浴槽に浸かる。

 浴槽では俺が後ろでマーイは俺に背を向けて座る。狭い浴槽で寄りかかってくるから流石にドキドキした。


 それからドライヤーで髪を乾かしてやり、一緒に麦茶を飲んだ。






 部屋は余ってる。マーイの部屋を用意し今日買った布団や枕を準備したら、寝るときになって俺の部屋に入ってきた。


「眠れないの?」


「イッショ」


 一緒に寝たいってことか?彼女は記憶を失っているからか男女のそれついて全く意識していない。

 でもまぁ、知らない所に来て不安なのかな……。


「うん」


 俺が笑顔で頷くと暗かったマーイの表情がぱぁっと明るくなった。


 でマーイの布団を俺の部屋に持ってきて俺の布団から離れた場所に敷いたら、俺の布団にぴったりくっ付けて敷き直してた。


 電気を消して横になるとマーイは近くに来て俺の胸に顔を埋める。


「リョウ オイシイ……」


 俺は食物ではないのだが?

 そう呟いて暫くすると眠ってしまった。……やれやれだな。


 俺はマーイのサラサラ髪を撫でながら思う。

 このままこの子を犯せば、抵抗はされるけどたぶんヤらせてくれると思う。それで嫌われてしまうかもしれないが、逆に絆が深まって男女の関係になるかもしれない……。


 でも俺は女を信用できない。マーイだって記憶を取り戻せば――、他の男を知れば――、俺から離れて行ってしまうかもしれない。もう女に裏切られて辛い思いはしたくない。だから俺は彼女と男女の関係になるべきじゃない。手を出すべきじゃない。


 その時、スマホが鳴る。

 頭上に置ておいたスマホを開くと優香からだった。


【なんで無視するの?】


 うざいなぁ。俺はもうコイツと話したくない。しょうがなく返事を返す。


【話すことないから連絡してこないで】


【はぁ何それ?涼ってそんな冷たい人だったんだ?最低!】


 最低はどっちだよ。

 俺はスマホの電源を落とした。


 それから俺の胸に顔を埋め眠るマーイの頭に鼻を当てた。今日買ったコンディショナーとマーイの香りが鼻を抜ける。


 ずっと一人で寝ていたから、なんだか寝辛いけど、でも……なんだろう……癒されるし、寂しくない。


 離婚してから考え込んでしまって寝れない夜が続き睡眠導入剤を服用していた。

 でもこの日は疲れていたこともあり、LINEが来たというのに優香のことは速攻忘れた。薬を飲んでいないのに俺はすぐ眠りについた。


 この日から毎日マーイと一緒に風呂に入り一緒に寝ることになる。







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