第4話 今後の進路


 俺は現在函館から青森へ向かうフェリーに乗っている。函館0:30発、青森4:10着で現在深夜1:30。一番安い客室の皆が雑魚寝できる大部屋にいるが、客は少なく広い部屋にまばらに人が座っている。

 隣にはマーイがいる。彼女は疲れていたのか横になり気持ちよさそうに眠っている。


 この子は車を知らなかった。温泉後、車に乗せたら滅茶苦茶驚いていたから間違いないだろう。車だけではないペットボトルの飲み方も知らないし、途中コンビニやラーメン屋に寄ったが全て初めて体験するような驚き振りだった。


 今日一日一緒にいて俺はある仮設を立てた。彼女は記憶喪失で更に不法入国者であるという仮説だ。


 ヘソマニア人である彼女は在留カードを持っていない。ヘソマニアは内戦の多い地域で日本の法務省はヘソマニア人にビザを発行しないことが調べて分かった。そのことから彼女は不法入国者であると推測できる。そして当然ヘソマニアに車やペットボトルはあるわけで、それが分からないということは一部の記憶を失っていることを意味する。


 もしかしたら異世界人なのかも、と思ったりもしたが、まぁそんなことあるわけないし……。


 警察へ連れて行った方が良いかと思ったが、彼女が何らかの理由で不法入国しているなら警察に捕まるのは望ない筈だ。記憶を取り戻し自首するなら俺は止めないが、ヒグマから救ってくれた命の恩人の意に反し、警察へ差し出すのは違うと思った。


 それと仲間がいる可能性も考慮しネット上に落ちている家族写真や仲間でわいわいやってる写真を見せてジェスチャーで仲間がいるか聞いてみたが、いなそうな感じだった。まさか一人で日本に来たってことはないと思う。おそらくこの部分も記憶を失っているのだろう。


 金と身分証を持たない彼女を放っておくわけにいかず、スマホで福島の祖父母の家を見せて、これまたジェスチャーで一緒に行くか尋ねたら、頷いていたので連れて帰ることになった。


 爺ちゃんに電話して居候が一人増える旨を伝えた。

 色々説明するのも面倒だったから北海道で外国人の彼女ができたと言ったら凄く喜んでた。優香と離婚してから暫く塞ぎ込んでいたから爺ちゃんとばあちゃんには心配掛けていたたんだろうな……。




 取り合えずマーイのことは置いといて、これからのことを考えることにした。


 俺は昔から生き物が好きだった。犬猫のようなペットも好きだが、ではなく野生動物が好きなのだ。獣や鳥や魚、爬虫類や昆虫等である。それと東京育ちの反動からか田舎暮らしにも憧れている。まぁ離婚して人間不信になっているから人が少ない土地で生活したいというのもあるが。


 だからそういった生き物と関わり、田舎で仕事がしたいと色々考えた。それで出した結論が養殖や畜産だった。


 北海道は日本最大の畜産業地域で、それもあり今回北海道を旅することにした。

 色んな牧場を回ってみて、旅行しながら色々調べて、出た結論は、俺の資金ではできることは限られるということだった。


 因みにどこかの牧場に就職しようとは考えていない。

 前の会社はかなりブラックで現場直行直帰が多かったのだが、遠い現場になると朝3時に家を出て次の日の1時に帰るなんてことはざらにあった。このように就職してしまうと雁字搦がんじがらめにされて、辛くてもやらなければならなくなる。

 まぁ仕事にやり甲斐を感じていたから辛くはなかったが。ただ、これから独身を貫くなら稼ぎは気にしなくていい、もっと自由に自分が好きなように働きたい。そうなるとやはり自営業になる。


 で、色々調べた結果、卵を取る採卵鶏なら俺一人でもできそうだった。バタリー養鶏のような大規模な養鶏所は設備投資がかさむから不可能だが、平飼や放牧なら多額の投資資金は必要ない。


 問題は卵の販路だけど、それについても色々考えてみた。

 福島に帰ったら養鶏農家を始める方向で動いてみようと思う。


 そんなことを考えていると若い女性客二人に声を掛けられた。


「あの、すみません」


 凄く畏まった感じだ。


「は、はい、なんでしょうか?」


「あの良かったら、お連れさんが起きたら一緒に写真取らせてもらえませんか?」


 俺は横で眠るマーイを見る。

 彼女はラベンダーような紫色のシャツに焦げ茶色のショートパンツ姿。手作りだと思われる手の込んだ服だ。今は裸足だが、靴はゴツゴツしたブーツを履いていた。


 熊皮のローブ、革の軽鎧、ナイフはこの船で輸送しているマイカーにしまってある。流石に目立つからな。


「すみません。そういうのはちょっと……」


 やんわり断ると女性二人は残念そうな顔をする。


「あ、すみません。そうでよねぇ。お休みのところすみませんでした」


 そう言うと去っていった。

 SNSに写真が流出し警察に目を付けれると厄介だ。写真を撮らせるわけにはいかない。


 マーイの妖精のような美しさは浮世離れしていて、今日も街や港でかなり注目されていた。これだけ綺麗だと目立つ。盗撮とか注意しないと……。


 俺はマーイを暫く見つめてから、自分の上着を顔半分まで掛けてあげた。


 時刻は2時、俺も少し仮眠するかと思ったらスマホが鳴る。LINEだ。


 通知から内容を見ると優香からだった。


【相談したいことがあるんだけど会えないかな?】


 今更何言ってんだ。俺に話すことはない。そう思って無視したらまたメッセが来た。


【私、托間にレイプされたの】


 托間とは優香が不倫していた間男のことである。

 いや何言ってんの?散々二人で子作りしといてレイプもなにもないでしょ……。


 俺はスマホの電源を落とした。





 翌朝、車を港に停めて俺とマーイは海を見る。


「 フ ネ 」


 マーイは俺たちが乗ってきたフェリーを指差し言う。次に俺の車を指差し、


「 ク ル マ 」


「うんうん、あってるあってる!」


「ふふふっ」


 俺が笑顔で頷くと彼女も笑う。彼女に少しずつ日本語を教えることにした。綾にやっていた要領でいいだろう。


 ずっと一緒にいることはできない。マーイが日本語をおぼえれば彼女のことで何か手掛かりが見付かるかもしれない。




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