第3話
女性社員とは世知辛いものだ。
およそ男性とは性別以前、からだの作りから違うので——それでいて、その差異をくみとることのできない
とどのつまり、他人きわまりない異性と仕事をともにするのが、際限なく嫌だった。
だから、同性に癒しをもとめる。彼女の場合、その矛先がたまたま二次元であっただけだ。
「だってさ、同僚ゼロ。それでいて部署にいるのが一癖二癖の怪人ばかり。……ゲームに携わるお仕事に
いまは
近頃に導入してみたアロマ化粧水をぶち込める保湿機を、足で抱く。
「デバック作業はホンモノの地獄絵図を呼ぶからさ……。たいてい、見つかるなの思いで目をつぶったバグほど見つかる。それもリリース直近にね? 遊び心で無断導入したイタズラシステムは
細い息を吐きつらね、どんより顔を曇らせる女。
まぁ、ここまでは会社疲れを
なので、異常なのは対面する側。
『今日もよぉく頑張ったの。
「ほぉおぉおおおッ」
液晶画面。4Kテレビ。もっと言えば、アニメブルーレイの一部分。
女性はパーフェクトに記憶したシーンを切り抜いて、最高画質、ロリにたらふく甘やかされていた。
もちろん
女は、ヴァーチャルを乗り越える算段をつけている。
あたかも隣にいるような
今のようにこちらへ触れる動作があれば、軟質マネキンに。
からだを預けるようなシーンの場合、シリコン枕へ。
ハッキリと言おう。変態である。生物学上で女のカタチをしただけの、真っ黒に汚れたきわめつけの変態である。
『いついかなる時も、余が隣におることを忘れるな。ユ、ウ、ギ』
「ぐごがぁあッ! 破壊力バツグンだぜ推しボイスの名前呼びィイィイイ」
游戯——
それだけに、音声パターンを分析。音波から
きわまっている。お高いヘッドフォンを購入したのも、
「ぐッ、ほはぁ……よしこのまま入眠のシーンへシフト……ォ……。このまま一挙、極楽至上の一日終了を遂げるっ」
その過程だ。役目を果たさないよう——つまり邪魔を許さないよう、通知をまるきり切っていた筈のスマホ。
それが、バイブレーションを
「ぐぅッ? これからってトキに面妖な邪魔立てを……! というか通知オフってるでしょう、なんだってシステムの壁を越えて——、」
一件の新規メール。それも迷惑フォルダー行きのものだ。
これには火山噴火も斯くやに
「仮想物立体化技術——?」
聞きなじみのないシステムであった。
電子を取り扱う以上、そしてお金が発生する商品である以上、游戯は定期的に量子関連の講演会へ顔をだしているが……
さて、本当に聞き覚えのない単語である。それも仮想物の立体化——つまり、あくまでも平面でしかないデータの塊を、現実のセカイに落としこむという妙技。
それは夢にまで見て、ついぞ実現のために予算を傾けているものだ。たとえば会議で取り
「そんなもの、できるワケがないでしょうに……」
游戯は知っている。その道筋は未知ではなく既知だ。
そもそもだ。根っこの部分からして、二次元上に生きる生物種をここに落とし込むには、いかんせん魂たりえる要素がない。
たとえ生身の人間を素体として
「いまどきタチが悪いわね。……真偽を調べるのも一苦労だから、そりゃあ一般的にオタク一本釣りはできるのでしょうけれど——フフン! 残念ね、私はそんな幼稚技術つうじな、」
ひとりで得心し、
「国家守衛……?」
文末の差出人名義は、
目に触れた怪異は、それだけではない。
メールの趣旨が、システムの未来運用のため
「……。ハン。なによそんな怪しさ満点の釣り広告、そんなイージーにひっかかるワケが、ワケが……ないじゃあないの」
瞳が揺らいだ。まつげが、焦燥にかられたよう震える。
たしかに、個人では絶対的に不可能なシステムだ。研究施設を貸し出してもらえるワケでもないし、そもそも研究者だなんて思ってもいない游戯。しょせんひとりの行き過ぎた廃人、栓のないことは見切りをつけるべきで……
だが、そこで
『いつまでもだ。余はいつまでだって、ソナタとの出会いを待つ。のみじゃ』
「……ッ」
和装をしたロリっ子は、
シーンとしては、主人公と一時でさえ離別するとき。……決して、游戯にだけ向けられたシーンではない。物語の主役である者に、宛がわれた想いである。
解っていた。その
「…………。上等ね、
推しにいついかなる時でさえエンカウントすることがありえる。そう胸に誓って身なりていどは整えていた游戯、その
いや或いは。結局、こうして誰かが先進的なシステムを作り上げることを、待ち望んでいたのやもしれない。
ただ、了承からまもなく返答メールがあたえられるのは頂けない。監視されているような心地だ。そしてまたも迷惑扱いされて、正規のフォルダーには入っていない。
「……不安、ね」
舌を巻き、游戯は本音をこぼす。
だが当選してしまったものは仕方ない。ひとまず眠りについて、詳細なことは明日から考えることとしよう。
その
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