第2話
事の
春先、大学生活に夢も希望もあったものじゃあないと諦念していた大学二年目。すなわち、やや余裕ができてきてパソコンに手をだしてみた頃合い。
彼の住居は神社であり、日頃から参拝客への笑顔を
彼は、本物の感動に飢えていた。
理由として——それなりの神社であれば、ご利益なり圧巻の景色なりで感動をよびこめよう。百本
普段、
だけど、雄魔が昔っから住まうこの神社には感動がたりない。もちろん、それなりに人は集まったりする。母親がしたためる格言めいたモノはうっかり笑いを誘うし、父親が手がけた
だが、人間の感動を引き出すことはできなかった。つまるところ目で見てそれと分かり、心で感じ、
こういった幅の効いたものでない限り、人の引き出しはスッと開かないのだ。
であるに、雄魔は
ややもせず、孤立オタ満喫ができあがった
「ぐゥっ……泣かせてくれるじゃあないかグゥッ⁉︎ っていうか伏線のはりかたがキレイだ……往々にあるシチュエーションとは
その渦中、雄魔はアキバで購入した新品パッケージにとりかかっていた。タイトルこそ人を選びそうで、しかも想像しやすいエンドだと先入観をもってしまうそれは——
ジャケ買いの筈、ルート分岐すべてを制覇するまでに至った。
「あぁそうだ。お前が、……お前があの折、俺に銃口をたたきつけたから——だから、俺はお前の告白シーンで泣くんだぞ
感動の
それにしても紆余曲折を経たさいごのシーン。男はこんなにも涙もろい性別であったのだろうか。
故に、
「ヌゥゥッ? な——なにをっ、なにを邪魔立てするか俺ァ今っ、運姫とのラストシーンに
ピロン、と画面端をせいする新着メール。しかも迷惑メール。であるのだが……たしか、やや目を奪われる文言があったために通知設定をオンにしていた記憶が蘇った。
致し方なし。すべて自らの落ち度だ。怒りの
そうやって
「仮想物立体化技術——の、
ととのえられた体裁、かしこまった文脈、かざりけのない事務的。そして、結びとして記載された送り主〝国家守衛〟のよんもじ。
「正真正銘の詐欺メールか……? しかし恐れ知らずだなァ。こんなもの国に見つかれば、どうなるか分かったものじゃあ——ああいや、でも憲法とか刑事罰とか知識からっきしだ。わからんな」
したり顔で語ってみて、すぐに刑罰まわりの知識が皆無なことを思い返す。
だからこそ。
事実確証も知らない。裏方も知らない。後ろ盾の有無も考えやしない。
ただひとつ、
「だけど、ヴァーチャルの垣根を超えてリアルに跳んでくる……って事か……?」
面白そうだと。
それも雄魔に都合よく解釈してみれば、なかば夢見心地で
「……応募、だけでも——?」
ニヒルに笑い、個人情報の入力。ややもせず応募完了のメール……が、またしても迷惑フォルダーにまいこむ。
不安がドッと募り、だがいいえぬ待望が募り。
「当たれば勲章モノだな……。抽選数、三〇〇のなかに」
はなはだ無理筋なことに
その一コマだけが、セカイを揺るがす超イノベーションに触れあうひと刹那——。そう疑わなかったばかりに、雄魔の理解は及ばなかった。
いや、当選発表がその場で、というのも妙ちくりん話であるが。
ともかく、選ばれている。三〇〇というごく少数、そのひとりに。
「……バカ、か……ァ?」
目を
口から漏れ出た言葉は
さしもの雄魔とても息をつまらせる。
「————棄権も考えておかねぇと……だとか、先読みしてるんじゃあねぇよメールだろうが! 一手先読むのはスーパーコンピュータの仕事だろうがッ」
送り主がいよいよ電脳かと疑わしくなった。マウスをドラッグするたび、フラッシュアイディアがことごとく先回りされ、
ただし、そこで延々と切り結ぶほどに愚かでもない。ひとまず後の祭りとわりきって、目下、この超テクノロジーに持参する記録媒体を選りすぐらねば。
「なんざ、初めっから決まっているんだが」
いそいそディスクの取り出しを選択、パソコンは稼働と内臓ファンの音をならし——モノクロに印刷された
自分の気軽さに迷うことはあれど、大切な作品と問われ戸惑うことはない。特装版をおもいきって購入したあの時から、きっと運命めいた糸がつながっていたのだ。
「開催は明日——フ。明日……明日……ゥ?」
準備万端、とまではいかずとも作品を決めてしまった雄魔。その顔はしかし、
明日。なんの予定もない明日の午前九時。
いよいよ雄魔は、足を運ぶことさえも疑いにかかった。
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