第7話 久遠家
ゲームであったダンダン世界は、現代を舞台にしたファンタジー世界である。基本的な技術レベル、文化や国家名などはそのまま。その上にダンジョンを始めとしたファンタジー要素が乗っかている。
設定資料集曰く、ダンダン世界は近代に『ダンジョンが出現したこと』で分岐した、いわゆるパラレルワールドという奴である。
ダンジョンは世界に寄生し、共生する超次元生物。ワールドクラスな寄生虫のような存在らしい。
世界から養分を拝借する代わりに、不思議なパワーやアイテムを世界に供給する。
そうして成り立っていたのがダンダン世界。そして私やお兄様が今生きている世界だ。
……まあ、アレだ。設定はどうあれ、この世界の『ダンジョン』はゲームで出てくる定番のシステムと思っていれば問題はない。
問題はどちかというと、ダンジョンによって変化した歴史と社会体制だ。
「──その食欲を見るに、体調は問題ないみたいね」
「ご心配をお掛けしました、お母様」
「本当よ。明日からお稽古は再開させるから。休んだ分はしっかり取り戻しなさい」
「はい。お母様」
──その中でも特に重要なのが、日本を牛耳る名家の存在。通称【十二支族】である。
それは遥か昔のことだ。日本にダンジョンが現れた際、その地の有力者がそれを管理していたという。
当時、ダンジョンから供給されるファンタジー因子によって、人類はアビリティ、魔法、気などの新たな力に目覚め始めていた。
だがやはり、供給源であるダンジョンを押さえていた方が、そうした因子の適応は素早くなされていく。
更にダンジョン内に出現するモンスター、ファンタジー因子の結晶を倒せばそれは加速し、肉体はドンドン強化され。
オマケとばかりに、ファンタジー因子が定着した、数々の不可思議アイテムも付いてくる。
当然ながら、管理権を押さえていた一族は力を増した。武力はもちろん、ダンジョン由来のアイテムで巨万の富を成した。
そうして誕生したのが十二支族。戦国時代では大大名として名を馳せ、幕府という神輿を担いで日本を実効支配していた武家たち。
主権国家として国際社会に参加するようになったあとも、政界を筆頭に様々な分野で日本を牛耳る十二の名家である。
「風邪を引くなどたるんでいる証拠だ。八千流。お前には十二支族としての意識がないのか」
「……はい。申し訳ございません、お父様」
──そう。この十二支族には、なんと久遠家も名を連ねているのである。両親は小物な屑であるが、家柄だけは本当に日本トップクラスなのだ。
政財界に顔が効き、数多の企業が久遠家の傘下として存在している。なにより極めつけは、現代では油田に等しいダンジョンを一族で複数保有している。
同じ十二支族の中では、久遠家の力は最も下だ。だがそれでも、日本においては最上位の家柄であることには違いない。
総理大臣ですら、私目線では小物の両親のご機嫌伺いをするといえば、その凄まじさは理解できるだろうか?
……ついでに言うなら、そこまでの地位にいるにも拘わらず、十二支族最下位という称号にコンプレックスを持ち、ラスボスの甘言にホイホイ乗った両親の馬鹿さ加減も、ご理解いただけるだろうか?
「いいか? お前が不出来なのは、私たちも仕方ないと諦めている。だからこそ努力しろ。久遠家の名に泥を塗るような結果だけは、決して出すんじゃないぞ。分かったな?」
「……はい」
そういうお前たちの方が、最終的には久遠家を没落させるのだが。なんだったら後のタイトルでは、十二支族という枠組みそのものが揺らぐキッカケになるのだが。
……そう言えたら楽ではあるのだが、ここはなんとかグッと堪える。今この場で口答えをしたところで、ガーガー喚かれるだけなのだから。
いやでも正直な話、現当主である父こそが一番の無能なのだ。一応、小悪党らしく権力維持と悪どい諸々には秀でているようだが、その他の能力はお世辞にも高いとは言えない。
日本を牛耳る名家の当主としては、悲しいことに落第もいいところ。真に優秀な分家の皆様と、参加企業の役員たちが必死こいて諸々を回しているからこそ、大した問題もなく今に至っているわけで。
今は無き先代当主。私のお爺様の一粒種として格別に可愛いがられていなければ、久遠家当主の地位に就くことなど絶対になかった男なのだ。
ちなみに、ダンダン無印でこの無能な父は、分家筋のお歴々によって本家当主の座を引きずり下ろされそうになる。それもまた、ラスボスの甘言にのった理由の一つだ。
本当に救えないんだよなぁ、この人……。
「まったく。私のような優秀な人間から、何故お前のような娘が生まれたのか……」
いや本当にそれな。絶対に遺伝子が突然変異を起こしている。──父の言葉とは真逆の意味で。
実際、設定として刻まれたダンダン無印ではもちろん、『八千流』としての記憶でも両親は無能判定だ。
そんな両親から、ぶっ壊れの化身であるお兄様が生まれているのだから、何が起きたと首を傾げたくもなる。私は私で、ストーリー後半の主人公パーティーを苦戦させるポテンシャルを秘めているし。
当主として、親としては論外ではあっても、父は種馬としては最上級だったのかもしれない。母も同様。
……まあ、そんな内心はともかく。今は適当に頷きながら、この面倒な夕食を済ましてしまおう。
「──自分を棚上げしてよく言うねぇ。惨めな父親だこと」
──何故お兄様は、私がそう決心した途端に爆弾を投げ込むんですの?
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