第6話 裏ボス、行動開始
ダンダン無印のストーリーにおいて、裏ボスである天理さんが主人公たちの前に現れるのは理由がある。
その強さ故に世界に飽きている天理さんは、予想外や可能性を愛していた。自身を驚かす現象、人物を探し求めていた。
そんな中で偶然出会ったのが主人公。物語の中心人物として、世界に祝福された可能性の塊。
天理さんはそんな主人公に希望を見た。もしかしたら、彼ならば自分を越えるかもしれないと。越えることはできなくとも、すぐ近くにまで届くのではないかと。
そうして天理さんは、主人公とその仲間たちの成長を見守るようになったのだ。
時に仲間としてともに戦い、時に師として主人公たちを導き、時に敵として主人公たちの前に立ちはだかった。
システム的に言うと『プレイアブルキャラとしての参戦』、『お助けNPCとして役立つスキル、情報をくれる』、『サブクエのボス、もしくは全マップ、全進行度でランダムポップしてくる激強MOB』などである。
ぶっちゃけると、裏ボスでありながら本編序盤から結構な頻度で登場してくる。下手しなくとも、物語中盤から登場するようになるラスボスよりもストーリーに出てくる。
それでもその行動理念は一貫しているのだ。主人公たちどころか、国全体が危機に陥っていてなお、主人公たちとほぼ同レベルの力しか発揮しないあたり、本当に一貫しすぎている。
全ては主人公たちの成長のため。言ってしまえば、天理さんは裏ボスでありながら、本編における師匠キャラでもあるのだ。……高尚な信念ではなく、完全に我欲オンリーなあたりやっぱり裏ボス枠なのだが。
「ダンダン世界は、シリーズ全体の時系列がナンバリングとリンクしています。このままいけば、私たちが登場する『無印』の主人公たちとは、早い段階で交流を持つことは可能であると思われます」
しかし、しかしだ。ゲームの『久遠天理』がそんな我欲に塗れた怪物であるからこそ、この情報は現実のお兄様にも刺さるはずなのだ。
「ですがそれ以降の主人公たちとは、交流を持つことは難しいかもしれませんね。持てたとしても、全員が成長しきってからでしょう」
「なるほどねー」
──ゲームの自分が、世界情勢すら無視して執着した主人公。それに匹敵する者たちと早期に接触できるという事実は、お兄様にとって千金に値するはずなのだから。
「いいね。面白そうな対価だ。俄然やる気が湧いてきたよ」
「本当でございますか!?」
その予想は見事に的中。常識的に考えれば、危険なんてレベルじゃない無茶振にも拘わらず、兄様はあっさりと快諾してくれた。
ああ、これで安心だ。まだ序盤も序盤の段階ではあるが、状況的には必勝が確約されたようなもの。少なくともお兄様という後ろ盾があれば、武力方面ではまず負けることはないだろう。
「でも心外だなぁ。僕、ヤッちゃんにそんな印象持たれてたんだ。妹の頼みなんだから、対価なんてなくとも協力してあげるのに」
「……まあ、その。私はゲームで登場するお兄様のキャラも知っておりますので。どうしても主人公、他人目線の印象が先行してしまったといいますか……」
「ふーん?」
いや、お兄様は興味が湧かなければ絶対に無視するだろ。妹が大切ってキャラでもないし。そうだったらピュア八千流が壊れるのを放置するわけがない。
「ま、いいや。それで僕は、ヤッちゃんの味方になって何をすればいいのかな? そのラスボスとやらをさっさと倒しちゃう?」
「いえ。無印のラスボスですが、時期的にはマトモに活動していないはずですの。下手に攻撃するのは得策ではありませんわ」
「なるほどー?」
いくら将来的には大罪人になろうとも、現時点ではラスボスはまだ動いていない。いや、動いているのかもしれないが、私の知る設定には記されていないのだ。
それで襲撃はマズイ。警察にでもバレたらこっちが、法的に追われる立場になりかねない。
「ちなみにそのラスボスってどんな奴なの? 動いていないにしても、名前と立場ぐらいは知っておきたいんだけど」
「ベンチャー企業【アルバトロス】。そのトップですわ。ちなみにストーリー開始時、私が高校入学した時には、メガベンチャーとして名が知られるようになっておりました」
「へー。あそこなんだ」
最近ちょくちょく聞くようになった企業の名に、ふむふむと頷くお兄様。
「──アリかな?」
「……」
……サラッとお兄様が恐ろしいことを呟いていた気がしたが、聞こえなかったフリをしよう。
『メガにまで届くなら、今の段階から株主にでも……』なんて台詞は、私は決して聞いていない。
聞いてはいないけど、下手すると本編が一瞬で破綻するので止めてくださいいやマジで。
「……んんっ。そ、それよりもお兄様。実を言うと、とても単純な対策がございますの。それをお兄様には手伝っていただきたく思いますわ」
「なにー?」
「あの両親がラスボスに協力するのを阻止する。それだけで問題の八割はなんとかなりますわ」
「あー、それもそっか。確かに単純だけど、それが一番効果的かもね。……それと同時に、ヤッちゃんだけだと実現不可能なのも納得」
「ご理解いただけましたか……」
私の案にお兄様が苦笑を浮かべる。実際その通りで、これは一番単純でありながら、一番実現が難しいプランなのだ。
理由は簡単。あの両親が私の言葉に耳を貸すはずがない。脳が偏見と悪意と支配欲で構成された、生粋の屑たちなのだから。
あの毒親たちにとって子供とは、いや『八千流』は自分たちに都合のいい操り人形でしかない。
私がどんな意見を述べたところで、延々と否定の言葉を吐き出した果てに暴力が飛んでくるだけだ。
「ヤッちゃん、いや八千流はねぇ。あの人たちの顔色を伺っちゃってたもんね。そりゃ向こうが意見なんて聞くわけがないよね」
「ええ。ですがお兄様なら──」
『八千流』は、典型的な毒親に育てられた子供だった。親の顔色を伺い、唯唯諾諾と首を縦に振るだけの親の付属品。
生まれが名家であるが故に、見下した相手を虐げるという悪癖を併発してしまったものの。それを抜きにすれば、可哀想と同情されるような子供だった。
でもお兄様は違う。同じ毒親に育てられながらも、お兄様は人形にされることはなかった。
その圧倒的な才覚と、秘めたる怪物性に両親は恐れ戦き、人形にすることができなかった。
「僕の言葉なら、あの人たちも耳を傾ける。着眼点としては妥当かな。──うん、分かった。じゃあ将来的にあの人たちがラスボスに加担するのを防ぐ方向で、色々と誘導してみようか。それじゃあ早速、今夜から動いてみよう」
「よろしくお願いいたしますわ、お兄様。……え、今夜?」
待って今夜からなの? それはいくらなんでも早くない?
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