第2話 裏ボス久遠天理
人気RPGシリーズ【ダンジョン・ダンス・クライシス】。通称ダンダン、またダンクラ。
累計販売数八千万超えの世界的大ヒットRPGシリーズであり、前世の『俺』が人生をかけて熱狂したゲームである。
基本的な世界観としては、世界各地でダンジョン及びファンタジー要素が存在し、それによって現実とは異なる歴史を辿った地球。
各タイトル毎にダンジョン、及びファンタジー要素を悪用しようとする敵が現れ、主人公がなんやかんやあって解決に動くことになるのが、全シリーズ共通の流れである。
ここで面白いのが、各タイトルでの主人公の立場が全く異なり、それによってストーリーの毛色が毎度毎度ガラリと変わるということ。
主人公が学生の場合は、ストーリーはライトな学園モノに。主人公が何処かの組織のエージェントの場合は、ダークな潜入ミッションものに。
他にも復讐を誓った一般人、成り上がりを目指すストリートチルドレン、変わり種だとラスボス組織の裏切り者という場合もある。
そんな幅広いストーリーによって、ダンダンは多くの層に受け入れられた。……その分ストーリー系統で派閥が出来ていたが、それだけ神ストーリーが多いという証明だろう。
……で、だ。そんなタイトルごとにストーリー展開、及び主要メンバーが異なるダンダンにおいて、根幹設定・基本システムと並んで、全てのタイトルで共通の立ち位置に君臨するキャラがいる。
──それが久遠天理。作中設定、及びキャラ性能ともにぶっちぎりで『最強』とされる裏ボス。通常【天理さん】。
初登場は無印。ストーリー上のラスボスにハメられ、ラスダンの中ボスとして主人公たちと戦うことになる私、久遠八千流の兄である。
いわゆる学園モノに分類される無印において、久遠天理はストーリー序盤から登場する昼行灯的な強キャラであった。
時にふらりと現れ、無関係にも関わらず敵対して場を引っ掻き回す。時にはプレイアブルキャラとして、主人公パーティに加入することもある。……あとは何故か、敵MOBと同様にランダムエンカウントして戦闘になる。
そんなストーリー及びゲームシステムの両面から、『コイツは敵か味方どっちなんだよ!?』とプレイヤーにツッコまれまくった天理さんだが、最終的にはストーリー上では味方陣営として落ち着くことになる。
というのも、生家である久遠家がラスボスに加担し、妹である八千流も中ボスとして変貌させられたため、その尻拭いとして主人公パーティに同行することになるのだ。
なのでなんと、裏ボスの癖して天理さんは、ラスダン途中までプレイアブル可能なパーティメンバーだったりする。
しかもちゃんと強い。具体的には、パーティ内の最強レベルのキャラと同レベルになる。タイプも万能型なので、何処にでも割り振ることができる便利お助けキャラだ。……ストーリーの関係で、途中で主人公たちを守るために離脱するけど。
「あの別れは初見だと感動シーンなんですけど……」
広大なラストダンジョンの中、主人公パーティに迫る五体のクソ強ボスモンスター(ラスボスによって暴走強化済み)。
そんなモンスターたちから主人公パーティを逃がすために、天理さんは自ら囮となって五体のボスに特攻。
『俺はアイツらを倒して役目はおしまいだ。だから代わりに、キミたちで馬鹿な妹をぶっ飛ばしてくれと』と笑顔で言って消えた天理さんを背に、主人公たちは涙を堪えて先に進むという、作中屈指の名シーンであった。……裏ボスだと判明すると一気に茶番になるが。
後に発売されたファンブックに掲載されたインタビューでは、『面倒になった&主人公パーティだけでも問題解決できそうと判断して、適当に理由付けて離脱しただけだ。敵は瞬殺した』とシナリオライターがぶっちゃけていた。
「クリア後に普通に再会しますし」
アレは初見だとマジ驚く。驚いて話し掛けると、会話もそこそこにバトルに突入させる。……で、為す術なくぶっ殺される。
そしてわけも分からず呆然としていると、『暇なら声掛けてー』と言って通常画面に戻る。それでようやく、初見プレイヤーは気付くのだ。裏ボスだコイツと。
いくら鈍い奴でも、負けてもアイテムロスト無し、何度でも再戦可能となれば、普通に察する。
で、攻略後のオマケストーリー回収+天理さんを倒すという形で、プレイヤーはエンドコンテンツに突入する。
なお、天理さんがどれぐらい強いかと言うと、攻略サイトにこう書かれるぐらいだ。
『第一周、初見攻略の場合。
一,ストーリー攻略後にレベルキャップが解放されるので、パーティメンバー全員カンストさせる。
二,その上でエンドコンテンツダンジョンを周回し、ステータス上限を上げるアイテムを可能な限り集めて使用する。
三,装備はエンドコンテンツで獲得できる最強装備。
四,回復、バフ系アイテムは所持数MAXにしておかないと不安。
五,上記の四つをクリアした上で、天理さんの固有アビリティ【龍頭荼毘】で召喚される龍が、三頭以下になるまでリセマラ。なお基本は五で、現状確認できる限りだと最大は十の模様。
※一頭の場合は勝率七割。二頭では四割。三頭は一割。四頭以上は勝率無しなのでリセット。
PS.なお、周回勢は別途記事参照。同時に更なる詳細なデータを求めます』
──おかしいだろコレ。なんでカンスト勢ですらお祈りマラソンが前提なんだよと。
誰もがその理不尽さに膝を付き、極小数のゲーマーたちは闘志を燃やして挑んだ。
なお、コレは無印だけでなく、天理さん関係は全シリーズ共通で難易度こんな感じだ。
無印以降のタイトルでは、そのバグった強さ故に名前は出てきても本編で絡むことは基本ない。だがなんやかんやあってストーリー攻略後にエンカウントし、何度でも挑めるようになる。
「……それが今世の兄ですか……」
そんなフィクションですら審議が入るようなぶっ壊れキャラが、現実に存在している。なんだったら血の繋がった兄である。
……マジでどうしろってんだ。
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