RPGの悪役令嬢に転生してたwith裏ボスのお兄様〜状況を打開しようとすると、大抵が悪化するのは何故なんですの?(白目)

モノクロウサギ

第1話 プロローグ

 悪役令嬢モノというジャンルをご存知だろうか? ご存知がないというのなら、ザックリ説明しよう。本当にザックリだけど。

 悪役令嬢モノというのは、言ってしまえば『もし自分が知っている物語の噛ませキャラになったら』というif物語。その女キャラ版だ。

 当時流行のジャンルだった『異世界転生』。その派生ジャンルであり、物語の知識、主にシステムやシナリオを駆使してどうこうする、というのがお決まりの流れという奴になる。

 噛ませキャラ(自分)のバッドエンドを回避する。原作知識で無双する。本筋からフェードアウトしてのんびりする。

 ストーリー展開に違いはあれど、大抵は今挙げた三パターンのどれかに繋がるわけだ。

 ──さて。こうした基礎知識のおさらいを行っていたわけだけど、そろそろ現実を直視しようか。


「……どーしましょ」


 少女がいる。普通に可愛らしい少女がいる。……鏡の中に。つまり俺、いや私。Meである。


「名前は【久遠八千流くおんやちる】。名門久遠家の長女で十歳」


 少女、私としての記憶はある。両親の娘として生まれ、育てられた記憶が。マイペースな一つ年上の兄に振り回された記憶が。……そして二十四歳、オタク系成人男子の記憶が。


「フィクションが現実に侵食しちゃいけませんことよ……」


 気づいたら私はこうなっていた。原因不明の高熱を出して寝込んで、回復したら私は『俺』になっていた

 別に『俺』というナニカにこの身体が乗っ取られたわけではない。ただ前世という奴を思い出しただけ。

 それはもうくっきりと。前世の男が、性別を筆頭にした何もかもが自分だと納得してしまうくらいには。

 多分だけど、今までの高熱はその辺りの整理を行っていたのだろう。私と『俺』の人格を統合し、生きることに支障が出ないようにしていたのだと思われる。


「……まあ、切り替えましょう。今世の『私』が致命的に壊れる前に、今の『オレ』になれた。それは幸運なことですわ」


 自我の割合で言えば、今世と前世で二対八。今世の精神が残念なことにズタボロだった結果、前世の『俺』の比重が大きくなってしまった。

 だがこれが不幸とは思わない。なにせ久遠家はクソだ。今世の私、純度MAXな久遠八千流では遠からず壊れていただろう。いや、将来的に確定で壊れる。

 ならば幼い少女の精神よりも、社会人として自我がハッキリしている『俺』が前に出た方がマシだ。絶対に。

 なのでこの『転生』に関しては問題ない。むしろ今世のことを考えると、最良の結果だったかもしれない。

 強いて問題を挙げるとすれば、名門のお嬢様として育てられた経験と、前世の一般人の記憶が混在しているせいで、諸々の仕草が酷くパチモンみたくなっていることだろうか?

──だが本当の問題は別にある。


「……この世界は恐らくダンダン世界。そして自分は、久遠八千流くおんやちるはストーリー後半の中ボス。……悪役令嬢TS転生ですか」


 まず前提条件として、この世界は前世の『俺』が大ファンだった名作RPGシリーズ、【ダンジョン・ダンス・クライシス】の世界であるらしいということ。

 久遠八千流としての記憶と、前世の『俺』の記憶からこれは確定。そして時系列的には無印時代、ストーリーが始まる前であることも確定。

──ここまではいい。コンスタントに世界の危機が訪れるゲーム世界に転生したことは、文句はあれどまだ問題ない。悪役令嬢転生ジャンルの例に漏れず、なんとかすることはできると思う。


「どーしましょ? ……あの血の繋がったシリーズ共通のフリーダム系エンドコンテンツ」


──真に問題なのは、久遠八千流の兄である【久遠天理くおんてんり】が、ラスボスすら鎧袖一触するような、シリーズを通しての裏ボス枠であるということである。

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