第677話 剣術道場
この話を後宮で〈アコ〉にすると、〈アコ〉は「寄り添って夫婦なのですね」と僕にピトって身体を引っ付けてくる。
普段とあまり違いはないのだけど、いつも以上に心が近いような気がするな。
僕は〈アコ〉のおっぱいを揉んで、身体へ近い以上に、深く深く何度も何度も埋めていく。
僕に深く何度も埋められて、〈アコ〉は手でシーツをきつく握り、狂おし気に足を突っ張っている。
うねうねと身悶(みもだ)えて、苦しんでいるようにも見える。
でもそうじゃないのは、僕には分かっている。
「あぁん、〈あなた〉も一緒に」
これも、そうじゃないのは、もう分かっている。
僕の方を少し、遅らさなければいけないんだ。
「ふぅ、〈あなた〉なしで、私は、もう生きていけなくなりましたわ」
「えぇー、それは夫婦の営みのことなの」
「ふぅん、それはちょっぴりですわ。それ以外も、〈あなた〉が全てなんです」
〈アコ〉は少し怒った感じで、僕へヒシっと抱き着いてきた。
お尻を触っても嫌がらないから、怒ってはいないらしい。
嫁のお尻を触りながら眠れる僕は、幸せ者なんだろうな。
〈アコ〉のお尻はすごく豊かで柔らかくて、安定安心の形をしているんだよ。
〈ハパ先生〉が〈剣術道場〉を、ぜひ見学して欲しいと、笑いながら言ってこられた。
僕が何時まで経っても見に来ないから、かなり怒っておられるようだ。
「は、はい。分かりました。直ぐ見に行かせて頂きます」
「ははっ、〈タロ〉様は執務が忙しいのですから、お暇な時で良いのですよ」
僕は当然のごとく、苦言を呈(てい)された次の日に、〈剣術道場〉の見学にいった。
〈剣術道場〉は、《ラング学園》の講堂(こうどう)で行われている。
《ラング学園》の体育の授業の位置づけだ。
だから、男子も女子も一緒に練習しているんだ。
「〈クルス〉、剣術道場は上手くいっているのか」
「うふふ、旦那様、心配は必要ありません。〈ハパ先生〉は、子供のお相手も、とても巧なのですね。皆生き生きとして楽しんでいます」
〈クルス〉、少し違うよ。
〈ハパ先生〉は、大人の相手が巧じゃないんだ。
間違っては困る。
ただただ、ハードワークを押し付けてくるんだよ。
だけど〈クルス〉の言うように、〈剣術道場〉の子供達は目を輝かせて剣を振っているぞ。
見るからに運動神経の悪そうな男の子が、グネグネと木剣を素振りしているが、〈ハパ先生〉はニコニコと話しかけている。
ここからでは、内容が良く聴きとれないけど、どうも褒めておられるらしい。
あー、あれを褒められるのか。
どう言う感性で、どんな異能なんだ。
さすがだ。
〈ハパ先生〉は、異次元のお人だ。
誰も真似が出来ないだろう。
「旦那様、〈ハパ先生〉はすごいでしょう。私も〈ハパ先生〉に、すごく影響を与えられました。生徒が授業中に、萎縮(いしゅく)しなくなったのですよ」
〈クルス〉も、〈ハパ先生〉の偉大さが分かったらしい。
一緒にいれば、直ぐに分かるよな。
おっ、木剣を振っている子供達の中に、一際動きが良い子がいるぞ。
例の泥団子のボッチの男の子と、ひょろっと背の高い女の子だ。
打込み稽古をパパッパンとしているが、この二人が抜きんでて剣の才能を持っているな。
「ははっ、〈タロ〉様、良くおいでくださった。皆、とても良いでしょう」
「見に来るのが遅くなって済みません。子供達が楽しそうなのが素晴らしいです。特にあの二人には、剣の才能が有るみたいですね」
「ふふっ、〈タロ〉様、勘違いをして貰ったら困ります。ここは《ラング学園》の〈剣術道場〉なのですよ。剣をとおして、心と身体の真直ぐな姿勢を、形成するのが主眼(しゅがん)です。それには剣の才能は必要ありません。真摯(しんし)な心構えがあれば良いだけなのです」
あっ、それはそうだ。
ここは学園であって、兵士とか剣のプロを目指す場所じゃない。
一人一人の子供がより体力を増やし、より前向きな心が持てれば、それで大正解なんだ。
「も、申し訳ありません。僕が間違っていました」
「ははっ、〈タロ〉様もまだお若い。だけど仕方がないと思いますよ。領主としては、戦力的なものに、気が向くのは当然だと思います。どうですか、〈タロ〉様があの二人に稽古をつけてやってくださいよ」
「あはは、見本となるか分かりませんが、やってみます」
僕は、ボッチの男の子と背の高い女の子と、代わる代わる打込み稽古を行った。
木剣の剣先まで意識を通わせることと、体幹が真直ぐであることだけを心掛けて、剣を無心に振るったんだ。
子供相手に技巧や飾りは必要ない。
ただ剣を、素直に振り下ろせば良いはずだ。
子供だからと言って、手を抜かずに力だけを抜いて、二人に集中すれば良いはずだ。
もちろん寸止めではあるが、木剣がぶつかる小気味いい音が鳴っていたと思う。
稽古が終わり、互いに礼を交わし汗を拭うと、〈ハパ先生〉がニコニコしながら褒めてくれる。
僕と二人の子供は、その先生の言葉に心が打ち震えてしまう。
尊敬している人の言葉と言うのは、とんでもない魔法なんだな。
〈ハパ先生〉に見学のお礼を述(の)べて、僕と〈クルス〉は園長で休憩することにした。
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