第671話 すごく悲しいね

  「ううん、しないよ。〈マサィレ〉さんが隣の部屋で寝ているのに、声を聴かせるのは気の毒だと思うよ」


 うーん、船室の壁は薄いから、その気持ちは分からなくはない。


 「それじゃ何のために、ズボンとパンツを脱ぐんだ」


 「ぐぇばぁでぇはぇげぇふぅ」


 〈サトミ〉の返事と行動は同時だった。

 何を言っているのか分からないが、行動で直ぐに分かって、直ぐにスッキリとさせられた。


 「うぅ、気持ち良かったよ。でも〈サトミ〉、汚いと思わなかったの」


 「へへぇ、〈サトミ〉は〈ターさま〉の女だから、このくらい当然出来るよ」


 〈サトミ〉は僕をタオルで拭いた後、お茶で口をゆすいでいる。

 可愛い見た目で、〈女〉って言うし〈女〉って感じの行為もするし、ギャップが激しいと思うな。


 「そうか、〈サトミ〉ありがとう。スッキリしたよ」


 「ふふん、どういたしまして。王都では一緒に気持ち良くなろうね」


 そうか、今の行為で〈サトミ〉は気持ち良くなっていないんだ。

 王都では、デロデロでヒィヒィにさせてあげるよ。

 精一杯頑張らせて頂く所存です。



 《アンサ》の港へ着くと、〈副旅団長〉と秘書の奥さんが出迎えてくれた。

 〈サトミ〉は奥さんと親し気に話をしながら、今回もお土産を渡している。

 中身を知らないけど、奥さんが良い顔をしているので、かなり良い物なんだろう。


 それから、〈アル〉の怪我は治ってもう既に退団していた。

 かなり前から、〈メイ〉の領地に住んでいるようだ。

 怪我の功名で、〈メイ〉の気持ちが大きく動いたってことだと思う。


 病院のベッドの上でも、おっぱいがかなり動かされていたから、心も追随(ついずい)したんだろう。

 偽(いつわ)りの騎士爵も、その効果を発揮して、〈メイ〉の両親は諸手を上げて歓迎しているらしい。


 〈副旅団長〉の奥さんが、悪い顔で笑いながら教えてくれた。

 この奥さんの笑顔は、魔獣より怖くないか。

 よく〈副旅団長〉の股間が、ヒュンとならないで子供が作れたな。



 〈副旅団長〉をお供に、〈王国御前会議〉へ出席すると、〈海方面旅団〉の出番は全くなかった。

 

 今回の議題も〈青白い肌の男達〉のことだ。

 今度は、王都から北西の方向で《アンモル山地》の近くにある《サハン》の町が、狙われているらしい。

 演習でいった、《大泥ウサギ》の生息地の近くだ。


 内陸部で大きな川もないから、〈海方面旅団〉は必要とされない。

 〈海方面旅団〉が必要とされていないのは、当然ではあるが、僕が〈王国御前会議〉へ出席する必要はどこにあったのだろう。

 これだから押しなべて、会議は無駄って言われるんだろう。

 はぁ、時間の浪費だったよ。


 王太子と〈王都旅団長〉の〈セミセ〉公爵が、同時に「はぁー」と長い溜息を吐いていたので、あまり文句は言わないでおこう。

 これから軍を指揮するよりは、よほど僕は恵まれている。


 僕が会議に出ている間に、〈サトミ〉と〈マサィレ〉と〈リク〉が、〈人魚の里〉の広場へ行ったらしい。

 元奥さんに〈マサィレ〉を合わせるためだ。


 〈サトミ〉の話によると、元奥さんは〈マサィレ〉の顔を見た瞬間、ドスンと膝から崩れ落ちてしまったらしい。

 騒ぎを聞きつけて走ってきた、〈新ムタン商会〉のお姉さん達に後を任して、帰ってきたと〈サトミ〉は言っていた。


 〈マサィレ〉は咄嗟(とっさ)に、元奥さんが膝を打ち付けないように抱き抱えたけど、難しい顔になり直ぐに離れたようだ。

 〈サトミ〉は、「すごく悲しいね」と僕の胸へ顔を埋めてきた。


 「〈サトミ〉を普通に抱ける僕は幸せなんだな」


 「うん、〈サトミ〉も〈ターさま〉に、こうして抱いて貰っているのは、本当に幸せを感じるんだ」


 僕達が今いるのは、〈南国果物店〉の裏の館だ。

 ここにはもう、誰も住んでいない。


 駆け落ち夫妻は店の横の家に住んでいるし、〈南国果物店〉と〈南国茶店〉の従業員は全員通いの人達だ。

 〈クルス〉の妹は、館は大き過ぎて寂しいと離れに住んでいる。

 この館には、王都へ来た時に使う僕の執務室が、ポツンと一室残されているに過ぎない。


 ただ数年後のこの館は、夢を持った若者で賑(にぎ)やかになっているはずだ。

 《ラング学園》の運営に余裕が出来れば、《ラング領》の成績優秀者を選抜して、王都の学舎へ進学させようと思っているんだ。

 この館はその時の寄宿舎となる。

 寮がある《赤鳩》や《青燕》は例外で、寮がない《緑農学苑》が一般的なんだよ。


 〈クルス〉の夢は、三年先に《赤鳩》か《青燕》へ、《ラング学園》の卒園者を進学させることだ。

 〈クルス〉は《ラング領》で初めて、《赤鳩》を卒舎したらしい。

 十年年以上前に《青燕》を卒舎した秀才は、残念ながらもう亡くなっている。


 「そう思うよ。〈マサィレ〉には悪いけど、〈サトミ〉をもっと感じたいんだ」


 「ふふん、〈ターさま〉のことは良く分かっているよ。ちょっと待っててね」


 〈サトミ〉は「ふふっ」と笑いながら、僕の部屋を出ていった。

 〈南国果物店〉は閉店しているから、もう誰もいないのにどこへいったんだろう。

 しばらくしたら〈サトミ〉が、バーンと扉を開けて部屋に飛び込んできた。


 「ジャーン、〈ターさま〉はこの服が好きでしょう」


 〈サトミ〉の着ている服は、〈緑農祭〉で着た例の売り子の制服だ。

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