第667話 裸を鏡ごしに見る

 「旦那様は私達がもっとお化粧をして、身だしなみに気を付けて欲しいと思っておられるのですか」


 「うーん、そうでもないんだ。皆は今でもすごく綺麗だから、お化粧はそれほど必要ではないと思うな」


 単に家具屋で、一番高価な家具だっただけだ。

 高価以外の目的が、他にあるはずないだろう。


 「それじゃ〈ターさま〉は、私達がいつも鏡を見て、身体を引きしめて欲しいと思っているの」


 〈ターさま〉って言ってるぞ、〈サトミ〉にとって〈アコ〉と〈クルス〉は特別なんだな。


 それにしても、家具屋で一緒だったのに、まともな質問をしないでくれよ。

 前からだけど、〈サトミ〉はかなり天然が入っているな。


 「皆の裸は僕が見るから、どちらかと言えば、僕が鏡を見て身を引きしめるよ」


 「はぁ、〈あなた〉は、お昼なのに何を言っておられるのですか」


 「そうですよ。旦那様に裸を見ると宣言されたら、先に確認しなければなりません」


 「えぇー、〈サトミ〉の裸を鏡ごしに見るの」


 鏡台のことで、色々な意見が出たな。

 結論的には、〈サトミ〉の意見をぜひ採用することにしよう。



 午後から〈サトミ〉の後宮に行くと、〈ガリ〉の犬小屋が玄関の横に置いてあった。


 「〈サトミ〉、〈ガリ〉の家はここにしたのか」


 「うん、ここなら日当たりも良いから、〈ガリ〉も喜んでいると思うよ」


 僕的には目障(めざわ)りなので、裏口で良いと思っていたのだが、〈サトミ〉がそう言うならしょうがないな。

 日当たりが悪いと蚊に刺されて、フィラリア症にかかってしまうから致し方がないか。

 十年以上寿命が縮まってしまうらしい。


 このフィラリア症の特効成分を発見したのは、日本人でノーベル医学生理学賞を受賞した大村教授だけど、かなり大儲けされたようだ。

 蚊が媒介(ばいかい)する寄生虫が、原因だと分かっていても、僕の力ではとてもじゃないが内政チートを起こせそうにないな。

 大儲けは簡単には出来ないってことか。


 〈へへっ、おらっちの、おん屋敷はどうでぇ。てぇへぇん、ご立派なもんだでぇ、びっくらこいて声もでねぇだろうが。そんでぇよぉ、お日様がポカポカで、ねむうてぇ、ねむうてぇ、目が開けていんられねぇんだ〉


 「うーん、〈ガリ〉は喜んでいるのか。死んだよう動かないぞ」


 「あははっ、〈ターさま〉ったら、機嫌良く眠っているんだよ」


 まあ、〈サトミ〉が言うならそうなんだろう。


 後宮に入ると、キャットウォークの上部にある狭い場所をわざわざ選んで、〈トラ〉と〈ドラ〉が重り合って居眠(いねむ)りをしている。

 あんな不安定な場所で良く眠れるな。


 僕は、〈サトミ〉が入れてくれたお茶を飲みながら、またおっぱいやその他諸々を触っている。

 自分でも思うけど、こんな昼間から良く触れるな。

 かなりの好き者だよ。


 「もう、〈ターさま〉ったら。お昼からこんなエッチなことをするのは、明日までですからね」


 「えぇー、そうなの」


 「んんう、当たり前です。お昼からエッチなことばかりしてると、〈ターさま〉も〈サトミ〉も、スケベ人間になってしまうのです。他のことを考えられなくなるのですよ。とっても怖いことでしょう」


 「ふぅん、〈サトミ〉は今何を考えているんだ」


 「はっ、そんなこと〈サトミ〉が、言えるはずないでしょう。〈ターさま〉はアホですか」


 あ、あほ。

 アホはないだろう、せめてバカって言えよ。


 「えぇー、言えないのか。もっと触って欲しいってことなんだな」


 「はぁー、違うよ。お口が淋しいってことです。〈サトミ〉に言わせるなんて、ちょっと酷(ひど)くないですか」


 「あっ、〈サトミ〉、ごめんなさい」


 僕は〈サトミ〉にべっちょりとキスをして、もう淋しくないように口の中とか他のところも埋めてあげた。

 〈サトミ〉は必死に僕へ抗議をしていたようだが、舌で口を埋めているから良く聞き取れなかったんだ。

 終わった後も、〈サトミ〉のおっぱいを揉み続けているから、さすがにもう淋しくはないだろう。


 「うんん、〈ターさま〉、〈サトミ〉は自分が怖くなってきたよ」


 〈サトミ〉は拗(す)ねたような甘えた声で、僕へ囁(ささや)くから、夜になったらベッドの上でも大ハッスルしなくちゃならないな。


 〈サトミ〉をもっと怖がらせれば、もう痛くはなくなるはずだ。

 僕にヒシっと抱きついて、さらにデレデレと甘えてくれるに違いない。

 もっと際どいセクシーランジェリーも、日常的に着てくれるだろう。

 僕もお返しに、ブーメランパンツを履いてあげよう。



 新町に〈カリナ〉の〈南国果物店〉がオープンしたので、〈アコ〉が開店祝いの花を贈ったらしい。

 かなりのご祝儀(しゅうぎ)も渡したようだ。

 いくら知り合いだからと言って、領主が依怙贔屓(えこひいき)をするのはどうかとも思うが、女主人の〈アコ〉が決めたのだから何も言うまい。


 怒らせてエッチなことが出来なくなったら、それは猛烈な大問題だからな。


 同時に〈リーツア〉さんの〈腹鍋屋〉も開店したので、同様のことをしたようだ。

 雇い主である僕が、嫁姑問題の引き金を引けば、〈リク〉の忠誠心が損(そこ)なわれる危険が生じる。

 〈アコ〉の判断は、至極妥当(しごくだとう)だと思う。 

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