第666話 〈ガリ〉のお家

 「〈タロ〉様、〈ガリ〉のお家を買っても良いですか」


 おっ、外では〈ターさま〉とは言わないんだ。

 ちょっとバカっぽいもんな。


 「えっ、犬の家なんか売っていたかな」


 「奥方様、それは外に飾かざってある、看板代わりの模型の家のことですか」


 「そうです。すごく素敵なお家なので、譲ゆずって欲しいのです」


 うーん、お店の看板代りは、ちょっとどうかな。

 お店に迷惑をかけると思うな。


 「えぇ、よござんすよ。ご領主様の飼い犬のお屋敷に出世して、あの看板も本望でございましょう。他の物と一緒に直ぐ届けさせますね」


 ありゃ、悪いことをしちゃった感じだな。

 模型の家の代金を払うのは当然として、何か高い物を買っておこう。

 店が最大限の便宜べんぎを図ってくれたんだ。

 こちらもそれ相応のことをする必要がある。


 なにせ僕は領主なんだから、面子めんつにかけてセコイことはやっちゃいけないんだよ。


 「もう一つ欲しい物があるんだ」


 「ご領主様、それはどういうものでございましょう」


 「女性用の家具で何か、高品質な物はないかな」


 「えぇ、ございますとも。王室御用達の鏡台が、丁度三点あります」


 店員はとびっきりの笑顔で、ハキハキと答えてくれている。

 まるでこの台詞せりふを、前から練習していたようにだ。

 結果的に売り込みの手間を、省はぶいてあげたようで、僕は悲しくなってしまう。


 「ほぉー、丁度三点あるのか。それじゃそれも頂こう」


 「毎度ありがとうございます」


 初めて来たのに、毎度とはこれいかに。

 そして後から届いた請求書には、とんでもない額が記されていたんだ。

 とてもじゃないが、毎度は無理ですからね。


 「〈ターさま〉、ごめんなさい。〈サトミ〉の我儘わがままでお金がかかってしまったね」


 「〈サトミ〉が、気にすることはないよ。〈ガリ〉は喜ぶだろうし、鏡台も〈サトミ〉が使ってくれたら、これほど嬉しいことはないさ」


 「へへっ、〈ターさま〉は優しいね。そんな〈ターさま〉が、〈サトミ〉は大好きなんだ」


 帰り道で〈サトミ〉は、手を繋がないで僕の腕に絡みついてきた。

 おっぱいがグイグイと当たっているぞ。

 いやが上にも今晩への期待が、下の方でも膨ふくらんでしまう。

 ぐへへぇ、お風呂でするのも、良いかも知れないな。


 〈サトミ〉の後宮に帰るともう、家具屋の荷物が届いていた。


 こっちはおっぱいをムニュムニュ感じながら、ブラブラと歩いていたんだけど、それにしてもなんちゅう早いことだ。

 冷静になって断られるのを恐れていたんだろうか。


 まあ良い、さっそく秘密兵器を設置しよう。


 後宮の居間の壁際に脚立を二脚並べ、その上に梯子を乗せてロープで頑丈に固定すれば、キャットウォークの出来上がりだ。


 〈トラ〉と〈ドラ〉は、「ややっ、何だこれ」「おぉぉ、変だこれ」「ははっ、怪しいなこれ」って感じで、胡乱うろんそうに眺ながめていたけど、本能に負けトントンと昇っていきやがった。


 バカと何とかは、高い所へ上がりたがるってことだな。

 僕の知恵が、猫に勝利した瞬間だ。


 「わははっ、思った通り登っていったぞ」


 これで〈サトミ〉とイチャイチャし放題だ。


 「うわぁ、〈ターさま〉はすごいね。〈トラ〉と〈ドラ〉のために、こんなのを考えてくれたんだ。とっても頭が良いし、何より優しいんだね」


 「うへへぇ、なに大したことはないよ」


 僕がソファーに座っていると、〈サトミ〉がピッタリ引っ付いてきたので、上着の裾から手を差し入れておっぱいをモミモミする。


 〈サトミ〉は「もう、〈ターさま〉はエッチなんだから」って言うけど、その言い方が可愛いんだ。

 声も甘ったるくて、最高なんだよ。

 猫なで声って言うのかな。


 〈サトミ〉の顔を手で包んでキスをすると、〈トラ〉と〈ドラ〉がロープをガジガジしながらこっちを見てやがる。


 でも僕は決して負けない。

 僕の痴態ちたいを、見たければ見ればいい。

 お前達なんか、いないのと一緒だ。


 視線を気にして、おっぱいやその他諸々を触らないなんて、凄すさまじい人生の損失だ。

 あり得ないことだ。

 西から日が昇ってしまうだろう。


 夕食の後、またお風呂で洗いっこして、ベッドでまたおっぱいやその他諸々を触っていると、〈ガリ〉の悲し気な声が聞こえてきた。


 あっ、〈ガリ〉の家を忘れていたぞ。

 でもまあ良いだろう。


 おねだりした〈サトミ〉は僕の下で、「やぁん」や「はぁん」と切なそうな声を上げて、〈ガリ〉の家どころじゃないらしい。


 僕もそれどころじゃないから、家臣がいずれ何とかしてくれるだろう。

 かなり大きいから、玄関先に置いたままじゃすごく邪魔だからな。



 鍛錬と執務を済ませて、昼食を食べていると〈アコ〉が話をしてきた。


 「〈あなた〉、かなりの額の請求がまいりました。大部分は私達の鏡台の分ですが、こんなに高価な物を頂いて良かったのですか」


 〈アコ〉は怒っているのか、そうじゃないのか、良く分からない顔だな。


 「あぁ、もちろん良いんだよ。三人とも僕に良く尽くしてくれるから、そのお礼なんだ」


 特にエッチ方面で、大変お世話になっております。

 これくらい出費は、お安い御用だよ。 

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