第648話 キスもおっぱいも合意
〈アル〉の病室に着くと僕はガバッと扉を開けた。
気の置けない学舎時代の友達なんだ、お上品にノックなんか必要ないだろう。
「へっ」
友達の痴態を見せられた、僕の間抜けな声だ。
「きゃっ」
朝から性的なものを見せられた、〈サトミ〉の小さな悲鳴だ。
「おぉー」
予想外の光景を見せられた、〈リク〉の言葉にならない感想だ。
「ぎゃー、〈タロ〉、何だよ」
「きゃー、見ないで」
病院のベッドの上で、〈アル〉と〈メイ〉が抱き合っていたんだ。
僕達が入った途端に離れやがったから、詳しく見えなかったけど、キスしながらおっぱいを揉んでいたような気がする。
病院のベッドを何と心得ているんだ。
連れ込み宿代わりにしやがって、不謹慎極(ふきんしんきわ)まりないヤツらだ。
「何だと言われてもな。見舞いに来たんだよ。もう色々と元気らしいな」
「はっ、色々って何だよ。〈メイ〉が背中へ、薬を塗ってくれていたんだ」
〈アル〉はしまったと思っているようで、半分逆切状態なっている。
〈メイ〉は真っ赤になって、俯(うつむ)いているだけだ。
いつも活発でケラケラ笑っているのに、珍しい反応だよ。
ただ、〈アル〉の傍から離れようとしていないので、キスもおっぱいも合意だったらしい。
友達が性犯罪者にならなくて、良かったと思う。
〈海方面旅団〉兵の不祥事は、監督不行き届きで団長も処分対象だからな。
「あぁ、言い訳はいいよ。それより、お見舞いの果物を持ってきたんだ。二人で仲良く食べてください」
「はぁ、お見舞いを仲良く食べてくださいって、なんか変だよ」
「〈アル〉、細かいことは良いじゃないか。これ以上、お邪魔しちゃ悪いから、僕達はこれで退散するよ」
「胸を触られたところを、見られたのは衝撃だと思いますが、他人は仲が良いくらいにしか思っていないので、気にしちゃダメですよ」
〈サトミ〉が、言わなくてもいいことを言って、〈メイ〉を慰めているな。
自分の経験から語っているらしい。
良いことを聞いたぞ。
〈サトミ〉が気にしていないのなら、これからは堂々と、人前でおっぱいを触っても良いんだ。
僕達は早々に、〈アル〉の病室を後にした。
〈メイ〉が恥ずかしがって、顔を上げないんだよ。
《ラング》に帰ったら、〈アコ〉に教えてやろうっと。
〈アル〉はもう少しで、退院出来るようだ。
あれだけ元気なら、今日退院でも良いくらいだな。
〈メイ〉は〈アル〉が怪我をしたと聞いて、領地から看病するために駆けつけたらしい。
そしたら、おっぱいをモミモミされてしまったのか。
怪我でも、どこでも直ぐ元気になる、最高の看病だと言えるな。
青春なんだろう。
「〈タロ〉様、あの二人はお似合いですね」
〈サトミ〉は微笑ましいエピソードを話している感じだ。
「そうかな」
「二人とも、こちらを見る時間より、互いを見る時間の方が、長かったと思います」
〈リク〉の見立てでも、そうならそうなんだろう。
もう直ぐ〈海方面旅団〉は第四隊長を失うかも知れないが、何も支障がないのが〈アル〉にとっては悲しいことだな。
でも、お目出度いことなんだから、何も問題はないと思う。
おっぱいを揉みさえすれば、立ちどころに問題は解決するんだな。
ただし病院では、立たせてはいけないのが、今日の教訓である。
あははっ。
先日の戦争の功績者発表会が、王宮でにぎにぎしく開催された。
戦いに参戦した〈西部方面旅団〉所属の領地貴族が、こぞって参列したためだ。
「ワハハッ、《ラング伯爵》、息災(そくさい)にしておったか」
〈西部方面旅団長〉の《ナセ伯爵》は、やけに機嫌が良いな。
「《ナセ伯爵》様は、活力に溢(あふ)れていますね」
「そうであろう。この前の戦では、戦略的に重要な箇所を襲撃した敵を、手ひどく蹂躙(じゅうりん)してやったからな。まだ血潮(ちしお)が滾(たぎ)っておるのだよ」
はぁ、〈戦略的に重要な箇所を襲撃した敵〉って何だよ。
文章的にもアレだし、敗残兵がバラバラに小さな村へ逃げて来たのを、圧倒的な戦力差で何とかしたってことが実態だろう。
戦略的には殆ど意味のない、ただの残党狩りじゃねぇの。
本心で戦略的に重要と思っているのか、政治的にそう結論づけようとしているのか、どっちにしても怖えぇな。
功績者の筆頭は、王太子となった。
功績者第一位は当然ではあるが、次期王だから恩賞はないらしい。
王太子以上の爵位はなくて、今更勲章でもないみたいだ。
王様が自分で自分に勲章を与えることと、殆ど差がないのだろう。
功績者の次点は、〈西部方面旅団〉だ。
《ナセ伯爵》がニタニタと笑い、〈西部方面旅団〉所属の領地貴族へ話しかけているぞ。
重要な位置にある村々の危機を救って、王国民の命を守った功績が大だと発表されていた。
まあ、そう言うものなんだろう。
《ナセ伯爵》は勲章を授与されて、隠せないほど顔が緩(ゆる)んでいるな。
あのまま街道を《ルダ》の町へ進軍していたら、敵と一戦も出来ずに、今日の功績者発表会は欠席していたと思うな。
僕と《セミセ》公爵は、王様からの「良く勤めてくれた」との言葉だけだった。
まあ、そんなもんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます