第625話 《ビルべ》の町

 商人は《ラング領》の住民で、《ラング領》のイモを売って《ビルべ領》の羊毛を買っているらしい。

 《ビルべ領》の羊毛の量がしれているので、細い商(あきな)いにしかならないようだ。


 《ビルべ》の町の門は、木造でちょっと古い感じがしていた。

 町の規模は、《ラング》の旧町の七割程度の大きさしかない。

 領主の館も、かなりこじんまりとしている建物だ。


 「ガハハハッ、《ラング伯爵》良くおこしくださった。大したおもてなしは出来ないが、ゆるりと過ごされよ」


 「《ビルべ男爵》、お手間をとらせて申し訳ないですね。歓待をして頂き感謝しております」


 男爵夫人や跡継ぎであろう息子と年若い娘さんとも、挨拶を交わしてお茶をご馳走になった。

 男爵夫人はふくよかな体形で、〈アコ〉と出されたお菓子の話をしているようだ。

 両方ともお菓子が好きなようで、話があって良かったよ。


 お土産に持ってきた南国の果物を見て、嬉しそうな顔もしているぞ。

 跡継ぎであろう息子は、僕より少し年上で、もう子供がいるらしい。

 この年で、領主をやっている僕の方が異常なんだろう。


 娘さんが僕に、〈館の庭を案内します〉と言いかけたようだが、〈アコ〉にギロリと睨らまられていた以外は、何と言う話もなく雑談を交わしただけで親善訪問は終わった。

 〈イモと羊毛の売り買いを増やせたらいいですね〉、と言う緩(ゆる)い話だけだった。


 帰りの野営ポイントで、一泊した時に少し〈アコ〉のおっぱいを揉んでいた時だ。

 護衛の兵士が直ぐ横だという理由で、もちろん、ほんのちょっぴりしか揉むことを許されてはいない。

 さわりだけに近い感じだ。


 「んん、しょうがないですね。〈あなた〉は、そこに立ってくださいな。でも声を出してはいけませんよ」


 〈アコ〉は立った僕の寝間着のズボンとパンツを、グイッと引きずり下ろす。

 はっ、何をするんだろう。

 もう痛くはないんだけど、この前気を入れようと自傷したから、薬でも塗ってくれるのかな。


 「あっ」


 包まれて吸われている。


 「ぶぁばぁっでぇ」


 えぇー、バキュームされちゃったよ。


 「おふぅ、〈アコ〉、汚いのに良かったのか」


 「〈あなた〉に汚い所なんかありませんわ。それに〈あなた〉も、同じようなことを私にされていますよ。ふふ、スッキリされたのですから、もう寝ましょう」


 〈アコ〉は水で口を濯(ゆす)いで、布団の中の僕に抱き着いてくる。

 僕は心の奥がとっても熱くなってしまい、〈アコ〉を一生守り抜くと心の中で固く誓う。


 でもキスをするのは「うっ」と思ってしまい、おでこにキスをしてしまった。

 〈アコ〉は「くすっ」と笑っていたけど、男なんて、ほんと勝手な生き物だよな。



 王都へ向かう〈深遠の面影号〉の船上に立っている。


 吹きすさぶ風と叩きつける波が、僕に未曾有(みぞう)の試練を与えているのか。

 厚く層をなした乱れ雲は、不吉に閃光する稲妻を内包し、この世界の終焉(しゅうえん)を預言しているかのように、低い圧を下界に押し付けるべく画策しているのだろう。

 僕は船の甲板にひしと両足をつき、迫りくる理不尽な暴挙に、不退転の覚悟で一人立ち向かっているんだ。


 「〈あなた〉、危ないですわ。拗(す)ねてないで船室に入ってください」


 「旦那様はお子様ですか。王都へ着けばお相手をしますと言っているでしょう」


 〈拗ねる〉〈お子様〉って酷い言い方だよ。

 僕は船の上でいたすのが、夢だったのに。

 いつも見ていた夢が、破れた瞬間だ。


 今回の航海は、〈サヤ〉の親族が大勢同船しているため、エッチはことを一切許して貰えないんだよ。

 〈サトミ〉のおばあちゃん、兵長、〈ハヅ〉とその嫁の〈プテ〉と人の目が沢山あるからだ。


 「はぁ、王都では〈あなた〉の好きな場所で良いですわ」


 「ふぅー、王都ならではの、場所もあると思いますよ」


 おぉー、どこでも良いのか。

 それもそうだな。


 「うん。僕が浅墓だったよ。ここは危ないから船室に入ろう」


 〈アコ〉と〈クルス〉は、とても疲れた顔をしていたけど、僕の機嫌はもう良くなっている。

 新たな夢を考えるのに忙しいんだよ。


 それに、〈サトミ〉に逢えるのも嬉しい。

 しばらく逢えなかったから、おっぱいも成長しているかも知れないな。


 でも〈サヤ〉の結婚式に出るのが、ちょっと鬱陶しいと思う。

 嫌味たらしい宮廷貴族が、出席していないと良いのにな。


 今回の航海は少し荒れた海だったが、無事王都へ着くことが出来た。


〈南国果物店〉へ久しぶりに帰ってきたら、果物の甘い匂いがやけにするんだな。

 この店はこんな匂いがしていたんだと、改めて思った。


 店番をしていた〈リーツア〉さんと話していたら、〈サトミ〉が僕の胸に飛び込んできた。

 〈サトミ〉の家族がいるから、ちょっと照れくさいな。


 「〈サトミ〉、元気にしていたか。逢えて嬉しいよ」


 「うん、〈サトミ〉も嬉しいよ。〈サトミ〉は元気だけど、〈タロ〉様も元気にしてた」


 「うん、僕も元気にしてたよ」


 抱きしめた〈サトミ〉は少し震えていたので、あまり元気じゃなかったのかと、ちょっと心配になる。

 後数か月なんだ、何とか耐えて欲しいと願ってしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る