第624話 薄いピンク色に統一
「ふふ、〈あなた〉が凄いのですよ。水車で農地を飛躍的に広げて見せるし、頑丈な船を鹵獲(ろかく)して遠洋漁業を可能にされましたわ」
「それに南国果物の貿易額が、もう主要産業並みです。塩漬け魚の輸出も、これから伸びて行きそうです」
おっ、一転すごく褒めるじゃないか。
これはあれか、褒めて良い気分にさせておいて、何かおねだりしようとしているんだろう。
この前、お高い真珠のネックレスをあげたばかりなんだけどな。
「今話が出ました南国果物の《タラハ》ですが、ここは国境の町なので王国の直轄領になっていますわ。〈直轄代務局〉が代官を派遣していますね。今の代官は法務貴族の《クロィイサ子爵》で、確か御子息は《黒鷲》で同学年のはずですよ」
「えっ、そんなヤツいた。一組なんだろうな」
「ふぅ、私達に聞くのですか。たぶん、対抗戦で〈フラン〉さんと当たった方だと思いますわ」
「えっ、〈アコ〉は〈フラン〉を知っているの」
「はぁ、〈あなた〉の親友でしょう、名前くらいは知っていますわ。それにお顔がすごく良いことで《白鶴》でも超有名でしたわ」
「そうですよ。旦那様に負けないくらいの、学舎町の有名人でしたね。《赤鳩》にも熱狂的な信者がいたのですよ」
「〈フラン〉って、そんなにモテてたの」
「えぇ、〈あなた〉には私達がべったりついていましたけど、〈フラン〉さんは婚約者や彼女がいないようでしたので、狙っていた子も多いと思いましたわ」
「見せつけるために、旦那様にいつも腕を絡めていたのに、狙ってくる子がいたのですよ。何もしがらみのない〈フラン〉さんは、何十もの恋文を貰ったと専(もっぱ)らの噂(うわさ)です」
えぇー、顔が良いだけでこんなに人生が違うのか。
おまけにアイツは、アソコもでかいんだぞ。
このことが女子に知れていたら、恋文は百を超えていただろうな。
パンツ一丁で学舎町を歩けば、女子が鈴なりについて来たかも知れないな。
「はぁー、顔が良いヤツはいいな」
「むぅ、〈あなた〉、どういう事ですの。私達では不満なのですか」
「旦那様は、違う女性が良かったのですか」
えぇー、《タラハ》の町のことから、どうして僕が責められる展開になったんだ。
〈顔が良いヤツはいいな〉って、誰もが思っていることだよな。
「うぅ、不満なんかあるはずがないよ。二人と一緒に居られて、すごく幸せなんだ」
「それでしたら、なぜ、旦那様は顔に拘(こだわ)るのですか」
「満足されていれば、他の人を羨(うらや)む気持ちはないはずですわ」
げぇー、まだ追及(ついきゅう)してくるのか。
〈タロ〉様、久々の大ピンチ。
「うぅ、僕の顔がもっと良かったら、二人にもっと愛されると思うんだ」
「えぇー、これほど愛しているのに、まだ足りないのですか。〈あなた〉は、すごい欲張(よくば)り屋さんなのですね」
「はぁ、旦那様への愛情表現は、かなり頑張ったと思っていました。でもまだ満足されていないのですね。これ以上となると、なりふり構っていられませんね」
〈アコ〉と〈クルス〉は、〈うーん〉と言う感じで、眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せて考え込んでしまった。
僕が苦し紛(まぎ)れに言った言葉で、二人を悩ませてしまっているけど、もう放たれた言葉は元には戻せない。
僕に出来ることは、今まで以上に二人を愛することだけだ。
夜のお勤めに向け気合を入れるために、僕は頬(ほほ)をパーンと両手で挟むように叩いた。
そして、その流れで股間の奮起を促すために、両手で挟むように叩いてしまった。
パーンと乾いた音はせずに、ボゴォと湿った音が鳴って、僕は股間を押さえて床を転がっている。
馬鹿みたいにアソコが痛くて、じっとしてられないんだ。
〈アコ〉と〈クルス〉は、転げ回る僕を見て、とても悲しそうな顔をしていたよ。
船は使わずに馬車で、《ビルべ》の町を目指している。
隣には正妻である〈アコ〉が、窓から移りゆく景色をアンニュイな感じで眺(なが)めているようだ。
馭者と護衛のために兵士を二十人帯同させて、道中の安全は確保出来ていると思う。
兵士の装備は、駆け落ち夫の実家に発注した、おニューの鎧と兜だ。
装備の色は、《ラング領》の岩塩にちなんで、すごく薄いピンク色に統一している。
この色と僕が決めたのだが、兵士や領民の反応はとてもイマイチだ。
弱そうでダサい色だと思われているらしいが、塩伯爵としては譲(ゆず)れないものがある。
もう一つの候補であった、黒にしておけば良かったと強く後悔しているが、決して顔には、ダサいけどださないぞ。
馬車の中は暇なので、〈アコ〉の太ももでも触って時間を潰そう。
「あっ、やっぱり触ってきましたわ。あれほど言ったのに、大人しくしててください」
僕は手を〈アコ〉にパッシと叩かれて、ブルーな気持ちで外を見るしかない。
装備の色は青でも良かったな。
一日だけでは《ビルべ》の町には着かないので、街道の途中にある野営ポイントで一晩泊まる予定だ。
野営ポイントには、既に三人の商人がテントを立てており、今回の護衛隊長が声をかけている。
商人は《ラング領》の住民で、《ラング領》のイモを売って《ビルべ領》の羊毛を買っているらしい。
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