第620話 ラング軍
その夜〈クルス〉の後宮に行くと、〈クルス〉は涼しそうなワンピースを着て僕を出迎えてくれた。
水色で脇が広く開いている、薄い生地のコットン製らしい。
亜熱帯気候の国で、セレブな人妻がリゾートっぽく着ているような服だ。
ストレスを溜めないように、リラックして過ごすのは良いことだと思う。
ソファーにリラックして座っていると、〈クルス〉がお茶を入れてくれた。
「旦那様は今日、私の教えているところを覗いておられましたね」
「はっ、バレてた」
「ふぅ、見え見えでしたよ」
「はははっ、上手く教えていたね」
「んん、どこを見てそう思ったのですか。まるで上手くいっておりません」
「そうかな。最初はあんなもんだよ」
「ふぅー、そう言って頂けると、少しだけ救われますね」
「〈クルス〉も子供達も、まず慣れることが大切なんだと思うな」
「それはそうだと思いますけど、子供達が全く懐(なつ)いてくれないのですよ」
「うーん、でも例の男の子は、ずっと〈クルス〉に引っ付いていたじゃないか」
「あの子は旦那様のお友達ですから、妻の私にも親愛の情があるみたいですね」
「あー、友達なんかじゃないよ」
「うふふ、そうしておきましょう。でも少し思いつきました。まずは、友達みたいに接したら良いのかも知れませんね」
〈クルス〉はなぜか、一人で納得してニコニコとしているぞ。
僕は納得出来ないので、〈クルス〉のおっぱいを揉むことにしよう。
納得しても、同じように揉んだけどな。
ワンピースの脇が大きく開いているので、胸の部分を真ん中に絞(しぼ)れば、おっぱいがお目目のように左右へ飛び出してくるぞ。
こりゃセクシーな出目金魚(でめきんぎょ)さんだ。
掬(すく)い上げるように揉もんであげよう。
「はぁん、ダメですよ、旦那様。お風呂に入ってからにしてください」
「えぇー、そんな」
無理やりお風呂に入らされて、湯上りの〈クルス〉からやっとお許しが出たぞ。
僕は〈クルス〉のお尻に、僕のをたっぷりとこすりつけた。
これで〈クルス〉のお尻にあった、ボッチの感触の上書が出来ただろう。
安心したら、直ぐ出るのはしょうがない。
たぶんこれが、自然な摂理(せつり)だと思うな。
〈クルス〉との三日間が終わり、次は〈サトミ〉との三日間のはずだけど、肝心の〈サトミ〉はまだ王都で学舎生を続けている。
この間は一体どうしてくれるんだ。
まだまだ新婚なのに、二人もいる妻のどちらとも会えないのか。
夫なのに、領主なのに、おかしいんじゃねぇのか。
そんな僕の気持ちを知らずに、〈ハパ先生〉が嫌なことを言ってきた。
「奥様にお聞きしましたよ。〈タロ〉様は、この先四日間は空いているらしいですね。さあ、探索かつ行軍の練習に参りましょう。軍隊行動の基本は、行軍につきますからね」
あぁー、裏切ったのは、〈アコ〉か〈クルス〉か、どっちだ。
〈ハパ先生〉に何てことを言うんだよ。
帰ったら、絶対にお仕置き案件だぞ。
《ラング川》の向こう岸の拠点は、既に完成していた。
と言っても、小屋と広場と柵だけなんだが。
小屋の中で、僕と〈ハパ先生〉と〈ハヅ〉と二人の隊長が、お茶を飲みながら今回の行軍予定を確認している。
《ラング軍》は百五十人を、左軍、右軍、中軍と五十人ずつの三軍態勢にしているのだが、そのうち中軍は兵長と一緒にもしもの時の留守番に置いてあるんだ。
今回は二泊三日の予定で、南と東方向へ左軍と右軍に別れて、探索することになっている。
僕は〈ハパ先生〉と一緒に、南方向へ左軍と共に出発進行だ。
厳密には南南東へ進路をとれだ。
未知の場所を切り拓く探検家みたいな気になって、最初はワクワクしていたけど、ずっと続く荒野の景色にウンザリしてきたぞ。
もっとこのその、心躍る珍妙な動物や奇怪な植物が出現しないものか。
それか、妖精が飛びかう神秘の湖(みずうみ)か、地霊が蔓延(はびこ)る昼なお暗い森が、忽然(こつぜん)と現れないかな。
現れるのは、疎(そ)に草が生えた荒野とゴロゴロとした石ころだけだ。
鳥や動物はいるのだろうが、軍隊に驚いてとうの昔に逃げ出している。
「〈ハパ先生〉、何も変化がありませんね」
「ははっ、まだ探索を始めたばかりです。でもずっとこのような景色が、続くと思いますよ。ここは長年放置されていた荒野ですからね」
「はぁ、そうですね」
〈ハパ先生〉の答えは、情け容赦のない真実だと思う。
本当のことだけに、まるで救いがないな。
黙々と進み日が落ちる前に、天幕を張って野営の準備を済ませた。
僕は監督しているって名目で、だた見ていただけだ。
かなりテキパキと準備が出来たと思う。
偉そうに及第点(きゅうだいてん)だと、ほざいてしまい、兵士から感謝されるのがちょっと辛いな。
〈ハパ先生〉と左軍隊長と三人で、テントで寝たけどあまり良く眠れなかったよ。
テントには、枕(まくら)もおっぱいもないせいだ。
まだ明けきらない朝から、また黙々と歩いてお昼前に海にぶち当たった。
《ラング》の町は、かなり河口よりにあるから、こうなるのは想定済みだ。
少し盛り上がった場所から見ると、波が穏(おだ)やかな湾も見えるぞ。
「〈ハパ先生〉、良さそうな湾がありますね」
「そうですね。でもここを港にしても、《ラング川》を超えて荷を運ぶのが、とても大変です。〈タロ〉様が《ラング川》に、大きな橋を架けられるのを大いに期待していますよ。はははっ」
〈ハパ先生〉の答えは、とても辛辣(しんらつ)だった。
バカみたいに幅がある《ラング川》に、橋を架けるすべはまるでない。
お前はバカか、って言われているようだ。
本当のことだけに、まるで救いがないな。
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