第609話 新婚さんは皆やっている

 「直ぐに終わるよ」


 思わず言ってしまったけど、真実ではあるが、とても悲しくなるな。

 哀しみを振り払って、スカートを取り払おう。


 「ふぅん、お台所で後ろからなんて、あぁん、恥ずかし過ぎますわ。酷いです」


 僕は〈アコ〉が発する苦情を唇を使って塞ぎ、お尻の方からあっちも塞いでしまった。


 「ふぅー、気持ち良かったな」


 「ふん、私は怒っていますの」


 僕に全部脱がされた〈アコ〉は、台所の床に女の子座りしたまま、僕をピンク色の顔でジトっと見ている。

 すげぇー、へなっとなっている裸の肢体がエッチ過ぎて、もう一回出来そうだ。


 「ごめん。でも新婚さんは皆やっているはずだよ」


 新婚なら、こう言うことは貴族も庶民も同じだろう。

 だけど政略結婚では恋愛要素が薄いので、こんな風にイチャつかないのかも知れないな。


 「そんなこと知りませんわ。お台所はそんな場所ではないのです。それも朝から何て。他の人に見られたら、どうするのですか」


 「明日からメイドが来るので、今日したんだよ」


 「はぁー、明日からは夜だけにして下さいよ」


 「うん、分かってるって」


 「本当ですか」


 「本当だとも。それより、これから執務に行ってくるよ」


 「私も行きますけど、裸じゃいけませんわ。早く服を着ましょう」


 僕と〈アコ〉は、濡れタオルで身体を拭(ふ)くことにした。

 身体には、色々と粘液(ねんえき)が付着(ふちゃく)していたんだ。


 僕が〈アコ〉のおっぱいを丁寧に拭いてあげると、「もう嫌。いい加減にしてください」って涙目で怒られてしまったよ。

 知らず知らずのうちに、手が敏感な所に触れていたらしい。

 はははっ。


 そんなこんなで服を着て、二人で仲良く廊下を歩いて執務室に着いた。

 執務室に入ると、〈クルス〉と〈サトミ〉がもう僕を待っていたんだ。


 「〈タロ〉様、お早う。遅かったね。執務が再開だから、〈サトミ〉もお手伝いに来たよ」


 「〈タロ〉様、お早うございます。私も少し手伝わせて頂けるでしょうか」


 「お早う。二人とも、手伝って貰えるのはすごく有難いよ。よろしく頼む」


 「お早うございます。〈クルス〉ちゃんも〈サトミ〉ちゃんも、結婚式ではお世話になりました。お陰様で良い結婚式が出来たと思いますわ」


 〈アコ〉は真っ赤な顔をして二人にお礼を言っている。

 たぶん、今さっきエッチなことをしたのが、気恥ずかしいのだろう。

 まだ僕に触られた、先っちょが固いままなんだろう。

 でも真っ赤になったら、二人にバレてしまいそうで、僕まで顔が赤くなるじゃないか。


 「ごっほ、ごっほ。それじゃ溜まっている執務を片づけて行こうか」


 「ふぅん、〈タロ〉様の咳(せき)、わざとらしいね」


 〈サトミ〉の機嫌が悪そうだから、重点的にご機嫌を窺(うかが)う必要がありそうだ。

 〈サトミ〉だけ学舎が後半年あるから、疎外感(そがいかん)を持っているのかも知れないな。


 「〈あなた〉、私は執事の〈コラィウ〉さんに、伯爵家内部の引継ぎを受けて来ますわ」


 そうか、〈アコ〉は《ラング伯爵家》の女主人になるんだな。

 これで苦節四十年の〈コラィウ〉の負担を、一気に軽く出来るだろう。


 「〈タロ〉様、ぼーっとしてないで、執務を始めましょう」


 〈クルス〉が椅子にきちっと座って、真面目なことを言ってきたぞ。

 もっともであるから、僕と〈クルス〉と〈サトミ〉の三人で、執務を黙々とこなしていく。

 〈サトミ〉は主に農業関係の下読みで、〈クルス〉はそれ以外の全般的に何でもだ。

 僕より〈クルス〉の方が賢いから、全部丸投げしても良いように思うけど、なぜかそうはしてくれない。

 ちょっとケチだよ。



 執務を順調にこなし、三人でお昼を食べて、午後からは〈サトミ〉と一緒に過ごすことにした。

 〈クルス〉はもう直ぐ結婚するのだから、それまで待っていて貰おう。


 「〈タロ〉様、大っきなお魚が釣れると思う」


 僕と〈サトミ〉は、〈サトミ〉のリクエストで魚釣りに来ている。

 《黒帝蜘蛛》の極細で丈夫な糸が手に入ったので、今までは不可能だった《ラング川》本流に釣り糸を垂らしているんだ。


 《ラング川》は深い谷を形成しているから、魚を引き上げる時に普通の糸では切れてしまって釣りにならないと言われている。

 だけど大きな川だから、でっかい魚を見たと言う人が大勢いる、ロマン溢(あふ)れる処女地なんだよ。

 〈サトミ〉も卒舎したら、流れ出るように溢れさせてやろう。


 僕と〈サトミ〉は、町から少し下流の淀(よど)みに、重たい錘(おもり)をとでっかいエサをつけた釣針をぶっこんでいる。

 流されないため重たい錘を使っているので、向こう合わせになってしまい、竿先(さおさき)が引き込まれるまで何もすることがない釣り方だ。


 「うん。〈サトミ〉、でっかいのが釣れると思うよ」


 「へへっ、〈トラ〉と〈ドラ〉が吃驚して、〈シャー、シャー〉言うような大っきいお魚を釣りたいね」


 うーん、まあ良いけど、〈サトミ〉の中では食べる前提じゃなくて、猫にあげる予定なんだな。


 「でも、あんまり大きくない方が、〈トラ〉と〈ドラ〉は、食べやすいんじゃないのか」


 「ううん、食べがいがあるから、大っきい方が良いに決まっているよ」


 「そうかな。何でもほどほどが良いと思うぞ。〈サトミ〉みたいにな」


 僕は〈サトミ〉のおっぱいを見ながら、こう言ってみた。

 これが俗に言う、〈おべっか〉とか〈へつらう〉とか〈媚(こ)びる〉とか言う高等話術なんだよ。

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