第602話 桃色に染まった〈アコ〉のお尻

 「ご領主様、〈アコ〉奥様がお呼びになっています」


 〈アコ〉付きのメイドの〈リド〉が、僕を呼びにきた。


 「僕におかしいところはないか。ちゃんと着られているかな」


 「〈アコ〉奥様は、そのこともご確認されたいようです」


 〈リド〉は、〈アコ〉の言うことが最優先なんだな。

 僕は領主なのに、少しぐらい答えてくれても良いと思うな。


 蝶ネクタイみたいのを、グッと締めて〈アコ〉の控室のドアをノックした。


 「〈タロ〉様、お入りください」


 〈アコ〉の花嫁衣装も白を基調にしている。

 膝丈で少し末広がりのドレスだが、光沢のある生地が使われており全身が輝いていて見えるし、パフ袖になっているのでキュートな印象もあるな。


 シンプルなデザインではあるが、身体のラインを少し見せて〈アコ〉の豊満なボディを、下品にならないように上手く強調しているぞ。

 ウエストに太い金色の帯を巻きつけて、とてもゴージャスな感じに仕上がっている。

 僕が贈った真珠のネックレスとイヤリングも、純白の花嫁衣装にピッタリだ。

 フアフアの髪には、赤い小さなリボンが散らしてあり、可憐さも表現されていると思う。


 もうやっちゃったんだけど、青と黄色の小花で彩られた花冠が、清楚さと純真さを醸(かも)し出もしている。

 複雑な思いもある中で、〈クルス〉と〈サトミ〉が、心を込めて作ったものだ。

 素朴なんだけど、すごく晴(は)れ晴(ば)れしい出来だと思う。


 「〈アコ〉、すごいぞ。とても綺麗だ。王国一の花嫁じゃないか」


 「ふふ、〈タロ〉様もとっても素敵です。王国一は褒め過ぎですわ」


 〈アコ〉はポッと赤くなり、嬉しそうにはにかんでいる感じだ。


 「言い過ぎじゃないよ」


 「はい、はい。分かりましたわ。それより、棒タイが少し曲がっていますわ。直しますので、じっとしててください」


 〈アコ〉は、笑いながら僕の棒タイを直してくれている。


 笑っているのは、まさか僕の花婿衣装じゃないよな。

 笑いたくなる気持ちも分かるけど、〈アコ〉が用意した服なんだ。

 他の人は仕方がないとしても、あんただけは決して笑ってはいけないんだぞ。


 「ふふ、これで完璧ですわ。金の魔獣の刺繍が凛々し過ぎて、キュンとしますね」


 絵柄が可愛いから、キュンとしているの間違いじゃないのか。


 〈アコ〉のいつもより色っぽい唇がやけに目につくので、これは奪うしかないなと〈アコ〉を抱き寄せてキスをしようとしたら、待ったをされてしまった。


 「ふぅん、〈タロ〉様。残念ですが、もうお化粧をしているのですわ。口紅がとれますので、キスはお預けになります」


 「えぇー、こんなに綺麗なのに、キス出来ないの」


 「んん、そう言われましても。気持ちは私も同じなんですよ」


 「それじゃ、胸はどうだい」


 「んん、純白の衣装ですから触られるのは、ちょっと」


 暗に、あんたの手の汚さを信用出来ないって言っているのか。

 良いように考えれば、一生に一度のことだから、少しの危険も冒(おか)したくないんだろう。


 「そうか。残念だな。あぁー」


 「ふぅん、そんなに落ち込まないでくださいな。しょうがありませんね。お尻なら触っても良いですわ」


 〈アコ〉はそう言って後ろを向き、花嫁衣裳の裾を自分の手でまくり上げてくれる。

 なるほど、衣装の内部なら汚れても目につかないってことか。

 僕は薄いペチコートを頭に被(かぶ)りながら、純白でヒラヒラがついているショーツをずり下げた。

 僕の目の前には、桃色に染まった〈アコ〉のお尻しか、もはや存在しない。


 「はぁっ、〈タロ〉様、時間がありませんので、ちょっとだけですよ」


 「了解。高速でいくよ」


 僕は〈アコ〉のムッチリとした豊かなお尻を撫ぜ回して、唇の代わりにキスを「ブチュ」「ブチュ」と繰り替えした。

 〈アコ〉は僕の舌から逃(のが)れたいのか、お尻をプルルンプルルンと振っているぞ。


「はぁん、こんなのダメですわ。ちょっと、〈タロ〉様、やり過ぎですわ。まさか、ここでしようと思っていないでしょうね」


 「ダメかな」


 「はぁ、ダメに決まっているでしょう。直ぐに式が始まるんですよ。この衣装でしたいのなら終わってから、いくらでも着てあげますから、今は我慢しなさい」


 「うぅ、約束だよ」


 「ふふ、〈タロ〉様を騙(だま)したりはしませんわ。それに方向はアレですけど、この花嫁衣装をすごく気に入ってくれたんですもの。嬉しい気持ちもあるのですわ」


 「うん、うん。すごく良い衣装だよ」


 「ふふふ、ありがとうございます。さぁ、〈タロ〉様、腕を組んでください。堂々と入場しましょう」


 花嫁の控室を出ると、〈アコ〉の母親が待っていてくれた。


 「〈アコ〉の代わりに、私が嫁ぎたい気持ちですが、涙を呑んで諦めますわ。よよよっ」


 はっ、いきなりどう言う意味なんだろう。

 冗談を言って、緊張感を和らげようとしているのか。


 「お母様、何が〈よよよっ〉よ。お尻をぶってさしあげましょうか」


 〈アコ〉は、こめかみに青筋を立てて怒っているぞ。


 「〈タロ〉様、このように暴力的な娘ですが、よろしくお願いしますね」


 「ははっ、ぶたれないように頑張りますよ」


 「お母様、おふざけは、それぐらいにして下さい」


 〈アコ〉は相当怒っているな。

 晴れの舞台に立つ直前を、邪魔された気分なんだろう。

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