第600話 ハーレム撲滅作戦

 「そうか。〈クルス〉、ごめんよ。上手くいかなかったら、それは僕の考えが浅かっただけだから、〈クルス〉のせいじゃ全然ない。だから心配することはないんだよ」


 「でも私は、〈タロ〉様の期待に応えたいのです。お役に立ちたいのです」


 〈クルス〉は真直ぐな目で僕を見てくる。

 やはりすごく真面目な子なんだな。


 でも肩に力が入り過ぎていると思う。

 僕は〈クルス〉の肩を抱き寄せて、キスをしながらおっぱいを揉んでみる。

 〈クルス〉の力が入り過ぎた身体を、柔軟にするためなんだよ。

 単におっぱいを、揉みたかっただけじゃないんだ。


 〈クルス〉は僕に身体を開いてくれて、十分以上役立っている。

 〈役立っている〉とは、失礼な言い方だな。

 僕と一緒に、人生へ立ち向かってくれているんだ。

 〈クルス〉が結婚してくれるだけで、僕は十分幸せなんだ。


 今も固く立っているぞ。


 「んんう、〈タロ〉様、このような所で胸を触らないでください」


 「どこか良い場所がないかな」


 「んん、胸を触られながら聞かれても、考えられません」


 空気を読めない〈ソラィウ〉のノックで、僕達はパッと離れシラケてしまった。

 あぁ、生おっぱいを揉みたいな。


 〈ソラィウ〉は僕と〈クルス〉に冷たい目で見られて、アワアワとしていた。

 そうだ、コイツはいつ結婚するんだろう。

 〈ベート〉の年齢は、刻一刻(こくいっこく)と増えていっているぞ。


 今日は午後から、子供達の集合住宅を訪問している。

 〈マサィレ〉の様子を確認して、子供達に王都のお土産を渡すのが目的だ。


 「おぅ、〈マサィレ〉、お疲れ様。この前帰ってきたんだ」


 「ご領主様、お帰りなさい。良くいらっしゃいました」


 「集合住宅の住み心地はどうだ」


 「ははっ、バッチリですよ。もう仮の住居じゃないので、子供達も落ちついて元気にやっています」


 「ご領主様、お帰りなさいませ」


 〈サーレサ〉さんは、もう上品なおばさんにしか見えない。

 これほど激変した人を初めて見たよ。

 人は年を取っても、変われる場合があるんだな。


 「〈サーレサ〉さん、ただいま」


 「おほほっ、ご領主様のご結婚を生きている間に見られて、これほどの幸せはありませんよ」


 「ご領主様、結婚式には行かせて頂きますので、よろしくお願いたしますね」


 えっ、〈マサィレ〉と〈アコ〉が何かアイコンタクトをしたぞ。

 この二人の間に何があるんだ。


 〈アコ〉が〈マサィレ〉に、お土産のお菓子を渡している。

 さっきのアイコンタクトは、お土産のことなのか。

 でもそんなことで、アイコンタクトはしないよな。

 ちょっと心配になってくるぞ。


 子供達は集合住宅の庭で、元気に追い駆けっこをしている。

 女の子が「きゃー」「きゃー」と可愛い声をあげながら、鬼から逃げているぞ。


 鬼はボッチだった男の子だ。

 この前までボッチだった面影は微塵もない。

 笑いながら女の子の胸の辺りを捕まえて、「いやん」と言わしてやがる。


 かぁー、何だコイツは。

 泥団子を作らないで、エロを追い求めてやがる。

 次々に違う女の子に抱き着いて、鬼ごっこハーレムを作り出しているぞ。


 こんなの許せるはずがあるか。

 こんなに恵まれて、エッチに塗(まみ)れた少年時代を過ごせるなんて、僕が不問にしても世のモテない男の子が決して黙ってはいないぞ。

 股間に嫉妬の天誅を食らわせなければ、とても収まらないだろう。

 うぅ、どうしてやろうか。


 あっ、良いことを思いついたぞ。

 一人だけの男子だから、ハーレム状態になるんだ。

 大勢の男子を投入すれば、この天国状態は消えてなくなるはずだ。


 学校が建ったら屋内運動場で、〈ハパ先生〉に剣術教室を開いて頂こう。

 そうすれば、運動に優れた格好いい男子が集まってくるだろう。


 この移住してきた女の子達も学校に通わせて、格好いい男子を眼にすれば、元ボッチの栄光は急激に萎(しぼ)んでいくに違いない。

 その後に今度は、格好いい男子へ天誅を食らわせる必要があるが、それはまだ先のことだ。

 一歩一歩着実に進んで行きたい。


 それに〈ハパ先生〉が剣術教室を開けば、軍の訓練を抜け出しやすくなるぞ。

 一石二鳥とは、まさにこのことだな。

 あはははっ。


 「あっ、英雄様だ」


 僕の高笑いに気づいたのか、昔ボッチだった男の子が追い駆けっこを中断して、僕にグーパンチをしてきた。


 ぐぐっ、コイツは僕のハーレム撲滅作戦をいち早く察知して、貴様の思い通りにはなるものかと、拳を振り上げてきたんだな。

 ふっ、思い上がりも甚(はなは)だしい。


 僕がそうだったように、ボッチはボッチのままでいる方が幸せなんだよ。

 分不相応(ぶんふそうおう)なことは、いずれ身を滅(ほろ)ぼすものと知れ。


 僕は、昔ボッチだった男の子の拳に、コツンと拳を当てて、無謀な挑戦を受けてやる。

 昔ボッチだった男の子はニヤリと笑い、「僕の名前は〈テツィロ〉だよ」と大きな声で宣戦布告をしやがった。


 うぅー、負けてはいられない。


 「僕は領主で伯爵の〈タロスィト〉だ」


 「うん、知っているよ。英雄なんだ」


 きぃー、英雄って言うほどのもんじゃないって言いたいのか。

 確かに、自分でもそうは思うけど、面と向かって言うことはないだろう。


 「きっと、つかえます」


 えぇー、早速呪詛(さっそくじゅそ)の言葉を放つのか。

 喉に何かを詰めてしまえと言う呪いか。

 それとも、人生に行き詰ってしまえと言うことか。

 ますます、負けられないぞ。


 「ふっ、出来るのか。やってみろよ」


 「へへっ、待っててください」


 笑ってやがる、何という余裕なんだろう。

 そのうち僕を、ギャフンと言わせる自信があるようだ。

 これはひょっとしたら、僕は昔ボッチだった男の子に、もう負けている気がするぞ。

 何て情けないんだろう。


 「ふふ、〈タロ〉様は、やっぱり男の子ですわ」


 〈アコ〉どう言う意味なんだ。

 あそこも含めて、子供だっていうことか。


 「うふふ、ずいぶんと成長しましたね」


 かなりの上から目線だけど、〈クルス〉は僕を慰めてくれているのか。


 「へぇー、〈タロ〉様は子供と話が合うんだ」


 何だと〈サトミ〉、人を子供扱いしやがって。

 そう言うのなら、無理やり大人の階段を最後まで昇らせてやるぞ。


 僕は心にしこりを残したまま、ニコニコと笑っている許嫁達と集合住宅を後にした。

 まあ、僕の心の平穏以外は、上手くいっているようだから良いのか。

 〈マサィレ〉も楽しそうにしていたので、その部分は安心出来たよ。


 ただ、昔ボッチだった男の子が女の子に手を引かれて、遊びの輪に帰っていくのが、かなり眩(まぶ)しくて涙が出てしまいそうだ。

 僕の子供時代とは、隔絶したものがある。


 「〈タロ〉様、良かったね。もう安心だよ」


 〈サトミ〉が言っているのは〈マサィレ〉のことか。


 「そうだな。楽しそうにしてたな」


 僕達は昼下がりの《ラング》の町を、ゆっくりと館へ向かって歩き出す。

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