第599話 〈クルス〉をコントロール
僕が浴室から出ると、〈クルス〉が着替えを持ってきてくれた。
完全に僕の部屋の中を、〈クルス〉に把握(はあく)されているんだな。
全てコントロールされているようで、少し息苦しい気もするな。
ここで負けちゃいけないぞ。
僕も〈クルス〉をコントロールしてやろう。
僕に服を着せようとしている〈クルス〉を、強引に抱きしめてキスをしてみる。
そしてスカートをたくし上げて、お尻をまさぐってみた。
僕はいつでも、〈クルス〉を自由に出来るってことさ。
「あっ、〈タロ〉様は、もう。どこでも発情したらダメですよ」
〈クルス〉は僕を「きっ」と睨み、僕の心とアソコを同時に萎縮させるぞ。
僕は〈クルス〉に少し怯(ひる)んで、お尻から手を離してしまった。
「あぁ、〈クルス〉」
「うーん、私の部屋では音が聞こえますし、〈タロ〉様と二人切りで逢える適当な場所がないのですよ。また考えておきますね」
「うぅ、そうか」
僕と〈クルス〉は、新町にある学校に建設現場に向かった。
建設現場では職人達が、建物の基礎を造っている最中だ。
地面を固く締めて、今は基礎になる石を据(す)え付けている。
基礎専門の職人の子弟が、暖簾分(のれんわ)けをされて、《ラング領》へ移住してくれたんだ。
《ラング領》に来れば、仕事に困らないと判断したんだろう。
だから、煉瓦職人の〈カリタ〉は、煉瓦造りに専念しているらしい。
いくら造っても直ぐに売れるから、嬉しい悲鳴だと〈ドリー〉が言っていた。
「親方、仕事中悪いんだけど、ちょっと良いかな」
「へぇぃ、何でございましょう」
「僕はここの領主なんだけど、この建物の間取りを少し変えたいんだよ」
「あっ、ご領主様でございましたか、とんだ失礼なことで申し訳ありません」
親方は頭に巻いていた手ぬぐいをとって、深々とお辞儀をしてくれている。
「いや、気にしないで欲しい。無理を言って変更して貰うのは、こっちなんだからな」
「して、どんな変更なんです」
親方は少し警戒しているようだ。
貴族の若造に、無理難題を押し付けられると思っているんだろう。
どこでも施工主は素人のくせに、代金はそのままで我儘(わがまま)を言うからな。
僕と〈クルス〉は、親方に最初の設計と違う箇所を説明した。
まあ、殆どは〈クルス〉が説明して、僕は「頼む」と言うだけなんだが。
親方は少し渋い顔をしていたが、何とかしてくれそうだった。
変更点の殆どが、小さな部屋を無くして大きな部屋にするというものだ。
据え付けが終わった基礎を、動かす必要があるらしいので、手間を増やしてしまった。
だけどこれぐらいで済んで、ホッとしているようにも感じる。
貴族は、どうしようもないヤツが多いんだろう。
大きな部屋にするのは、〈クルス〉の希望で大は小を兼ねると言う賢い考えだ。
小さな部屋は大きな部屋にはならないが、大きな部屋を壁で間仕切れば、小さな部屋に出来るってことだ。
子供の年齢構成や学習の内容によって、臨機応変に変えられるってことだ。
やっぱ〈クルス〉は、優秀だよ。
次は教会で〈クルス〉との結婚式の打ち合わせを行う。
式の日取りは、〈アコ〉との結婚式から七日後にもう決まっている。
どうしても〈サトミ〉に参列して欲しいと〈クルス〉が望んだので、〈サトミ〉の冬休み中になったんだ。
続けざまの結婚式だけど、〈クルス〉と〈サトミ〉が喜ぶのなら、それが最適解だろう。
〈アコ〉との結婚式は、収容人員の関係で教会は使用出来ないが、側室である〈クルス〉との結婚式は教会で挙行することになる。
〈クルス〉は、「私はごく普通の人間ですから、普通の式で良かったと思います」と普通の口調で話していた。
やっぱり普通が一番問題がないので、僕も心からそう思うよ。
〈ウオィリ教師〉も普通の結婚式は慣れているから、打ち合わせもスムーズに終わった。
一つだけ〈クルス〉が注文を出したのは、プレゼントした黒真珠の首飾りを僕に付けて欲しいってことだけだ。
それに〈クルス〉の思いがあるはずだけど、僕には分からないし、聞くのも野暮(やぼ)なことだと思う。
僕達は館の執務室に帰り、〈クルス〉は僕の執務を手伝ってくれるらしい。
これからも毎日午前中は、執務を手伝って貰おう。
かなり楽が出来て、午後から自由時間が捻出(ねんしゅつ)出来るぞ。
「〈クルス〉、明日からも手伝ってくれるかい」
「はい。学校が出来るまで、これと言った用事はないので構いませんよ」
「そうか。ありがとうな」
「〈タロ〉様、一つお聞きしたいのですが。学校の間取りにある、とても大きな部屋はどういう目的があるのですか」
「それは、屋内で運動する場所なんだ」
要は体育館なんだよ。
学校の定番だよな。
「あぁ、〈健武術場〉みたいなものですか」
「そうだよ。天気が悪い日や、式典をする時にも使えるだろう」
「〈タロ〉様は、良く考えておられますね」
「そうでもないよ。〈クルス〉の方が良く考えているよ」
僕は単に、前の世界の小学校の真似をしただけだからな。
「褒めて頂いて嬉しいのですが。〈タロ〉様の期待に応えられるか、とても心配なのです」
「そうか。〈クルス〉、ごめんよ。上手くいかなかったら、それは僕の考えが浅かっただけだから、〈クルス〉のせいじゃ全然ない。だから心配することはないんだよ」
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